エロ本と悩みの答え
あれから数日経った。
あの日の事は小雪にも多少ぼかしながら伝え、柚葉とのわだかまりも特にないようだ。夏休みという事もあり、ライブ前とは打って変わって、ゆったりとした日々が過ぎて行った。
柚葉は部活がない日は暇だからと言って、よく家に来た。大分、昔に近い距離感になった気がする。おれが五十嵐に暴力を振るうさまを見て、柚葉に怖がられたかと思っていたが、それは杞憂だったみたいで、特にコミュニケーションに違和感はなかった。
違和感と言えば、そうだな、どうも俺のボケの調子が良くない。お調子者の二つ名持ちだったと思うのだが名折れも良いところだ。
あと、あまり寝つきが良くない。ベッドに入ると、つい考えてしまう。
恋愛とは何なのだろう。いつか、お別れが待っていてお互いを傷つき傷つけあうものだとして、それは素晴らしいものなのだろうか?五十嵐のように、自分に陶酔し、女性の気持ちを弄ぶのも恋愛なのか?
今は大分修復された俺と柚葉も、あれだけ互いを分かり合っていたはずなのに、恋人同士になり、言葉にする事を怠り、すれ違い、苦しみ合った。あの時、ただの幼馴染なら、ああなってはいなかったはずだ。
極めつけに何も間違っていないはずなのに、誰も悪くないはずなのに、俺は吉田さんを傷つけてしまっている。もし祐樹が俺の想像通り、吉田さんの事を好きならば、面白く思わないだろう。
「何をやってるんだろうな・・・」
あの日から頭が重い。
今日も柚葉はうちに遊びに来ていて、小雪の勉強をリビングで見てくれているようだ。俺は一人で自分の部屋に籠り、寝ながら適当にギターを弾いている。すると・・・
―トントン
「慎太?・・・入ってもいいかな?」
柚葉?
あ、ちょい、エロ本は、ちゃんとしまってあるな。えっと、恥ずかしいものは、特に出てないな。よし、OKだ。
「あ、おお。大丈夫だぞ」
「こんにちわー・・・何だか、慎太のお部屋に入ったの久しぶり。最近、お家にお邪魔させてもらってたけど、ここには、何だか来づらかったから。」
「いや、別に気にせんでも。」
「そう言うわけには・・・。わー・・!何だか、お部屋の雰囲気変わったね。音楽っぽくなったというか・・・?ふふ、本棚の一番下の所にエッチな本、入れなくなったね。」
ちょい、何で知ってるんだ。柚葉が来たときはいつも隠していたはずなのに。俺の努力が無駄みたいじゃないか。
「そう言うのは、見つけても言わないのがいいんだぞ。男子の心は思った以上に柔らかいんだ」
「あの時は、大きなおっぱいの女の子の本を見ちゃったとき、自分のお胸見て、凄くやきもきしちゃったな。私、まだ中学生だったし。」
「ゆ、柚葉さん?あんまり女の子がおっぱいとか、お胸とか言っちゃだめYO?練習で出来る事は本番で出来ちゃうの!学校での会話の語尾がおっぱいになっちゃう。」
「////・・・い、言わないよ!他の人に言えるわけないじゃん!・・・ちょっと、慎太のこと揶揄っただけだもん。」
良かった。上手く会話できてる。上手く・・・笑えてるよな?
「・・・慎太。」
「うん?どうした?」
「笑わなくてもいいんだよ?」
「え?」
「そのままの慎太でいいんだよ?落ち込んでも、悩んでも、元気が無くてもいいの」
「・・・」
「そのままの、自然体のままの慎太でいいよ?私に気なんて使わないで?」
・・・ああ、そうだよな。俺が柚葉の事をよく見ていたように、柚葉も俺の事を見てくれていたんだ。長年の付き合いで、俺が無理しているのくらい見抜くか。あまり普段、踏み込んでこない柚葉にしては、珍しいけど、正直ありがたい。
「・・・ああ。・・・ばれたか。いや、ちょっと元気出なくてさ。」
「うん。ばれてた。慎太のことは、すぐばれちゃうよ。」
「「・・・」」
2人とも沈黙するけれど、それが自然に思えて心地よい。
「あの日、吉田さんに告白された。」
しばらく沈黙が続いたあと、自然と口からこぼれていった。柚葉は目を見開いている。
「それで、お付き合いをお願いされたけど・・・断った。」
「・・・うん。」
「柚葉にも・・・言った通りで、俺は、いや、わるい。何でもない。」
「・・・。・・・慎太?お約束は?」
「あ・・・」
「言いたくない事だったら言わなくて大丈夫。だけど・・・言いたいのに、私に気を使って言わないのはダメだよ?」
「うん・・・。えっと・・・、その、俺は恋愛をしたくなくて・・・。」
「うん。」
「吉田さんは、自分の事を今は好きじゃなくても、いいと、それでも付き合ってほしいと言われた。」
「・・・うん。」
「だけど俺は・・・無理なんだ。自分の経験だけじゃない。友達を見ていても、付き合って、別れて、皆、傷ついている。だから、俺は最初から恋愛なんてしたくないんだよ。」
「・・・慎太は、吉田さんの想いに応えられなかったこと、後悔しているの?」
「・・・わからない。わからないんだ。何も、答えすら出てこない。」
「うん。」
「わるい、こんな話、柚葉にするべきじゃないのに・・・」
「コラ!!私に気を使わないの!」
「いや、でもな?」
「いいから、私の事、傷つけてもいいから。」
「え?」
「・・・さんざん、私は、さんざん慎太に甘やかしてもらって来たんだから。慎太が辛い時くらい、私に当たったって、傷つけたって大丈夫だから。」
「・・・」
「え、エムとかじゃないよ?」
「っぶ!!・・・いやっ、いきなり、エムって。あー、いや、でも、おかげでちょっと笑えた・・・サンキューな。」
「も、もう!でも、少し笑顔になれたのなら。良かった。・・・・・・・・・・・・ね、慎太?」
「ん?」
「私ね、今は答えが見つからなくても、いいと思うんだ。きっと、いつか、慎太の中で納得のいく答えが見つかる日が来ると思うから。」
「そう、かな。」
「うん。きっと見つかる。その時・・・慎太は、吉田さんの気持ちに答えたいと・・・思うかもしれない。吉田さんじゃなくても、誰かの隣に、いたいと思えるかもしれない。それとは違う、まったく別の答えを見つけるかも。」
「・・・」
「だけどきっと、答えを見つけることに、早いとか、遅いなんて事は・・・きっとないと思うの。そこから、何だって始められると思うから。」
柚葉は、俺の目をまっすぐ見つめて
「慎太の悩みの原因の大きな要素に、私がなってしまっていること・・・わかってる。だから、私も、その答えを・・・一緒に探させて下さい。その答えが見つかった時、隣にいるのが私じゃなくてもいい。それでも・・・慎太が笑顔でいてくれる事が、私の幸せだから。」
・・・柚葉の目、こんなに力強かっただろうか。俺は、何も進めていないというのに・・・。悩んでも糸口さえ見えてこないというのに。
知らないうちに、柚葉は、強くなったんだな。
「今は“わからない”が答えでいいじゃない。“わからない”ことで、自分を責めないで?私を、頼ってほしい。・・・なんたって、幼馴染なんだから。」
柚葉ははにかんで笑った。
空の心に、ほんの少しだけ何かが溜まっていくような気がした。
慎太は小説にせよ漫画にせよ、電子ではなく紙派です。当然エロ本もである!!!
是非、下記にある☆☆☆☆☆にご評価を頂けると嬉しいです!慎太君の成長をどうか見守って頂きますと幸いです。




