心の体力
◆佐藤慎太 視点
どのくらいの時間そうしていただろう。しばらく公園で立ち尽くしていると、
-ピコン-
とスマホが鳴った。
そう言えば、さっき電話かかってきてたな。何だか重い頭を無理やり働かせてスマホを取り出すと・・・着信は柚葉と・・・メッセージは宮田さん?・・・え?
通知画面に
<柚葉ちゃんが変な人たちに絡まれてる。嫌がっているのに肩つかまれて、困っているわ。ここにいるからすぐに来て>
という文字を見て目を見開く。
すぐにスマホをタップして、宮田さんが送ってくれた地図の場所に向かう為、足を動かしながら宮田さんに電話をした。
「柚葉が、絡まれてるって?たまたま近くに居て、そっちに向かってる。すぐに着くと思うけど、どんな状況?」
どういう事だ?柚葉は森中のやつらとカラオケに行ったんじゃなかったのか?
『今、柚葉ちゃん、男の人に肩、抱かれていて、さっき柚葉ちゃんが、やめて下さいって嫌がっていたのに、放してくれないみたいだったわ。今は、あ、柚葉ちゃんとその男の人以外、カラオケ屋さんに入っていったわね』
肩を抱かれて?その言葉を聞いたとき、今の今まで沈んでいた心に焦燥感が芽生え始める。いや、でもカラオケ屋?森中のやつらに絡まれてるってことか?
「え?カラオケ屋?それって、中学校の時の奴らなんじゃ?どういう事だ?」
『えっと、そうなの?ごめんなさい。そうしたら、私の勘違いかしら』
宮田さんが混乱している。勘違い・・・じゃあ、柚葉は誰かとそういう関係に?いや、流石に考えずらい。
『慎太君、やっぱり勘違いじゃなさそうだわ。彼女、凄く嫌がってる。嫌な予感がするわ。お願い、早く来て?電話はこのまま繋げたままにするから・・・いざとなったら私が助けに入る』
急に宮田さんの雰囲気が変わった。まずい。何をする気だ?
「ちょっと待って宮田さん!もうすぐ着く!無茶な行動はしないで!」
ダメだ、聞こえていないのか?スマホをスピーカー設定にし、全力で走り始めると、すぐにスマホから柚葉の声が聞こえた。
『ふざけないで!!!私はあなたに興味なんてない!!!!慎太をバカにしないで!!!あなたなんかと慎太をくらべないで!!!!私が好きなのは慎太だけ!!!!わたしに触れないで!!!!』
いままで柚葉と共にいて、聞いた事の無いような声だった。何が起こっているんだ?もはや気が気でなく、心が暴れ叫んでいる。くそ!もっと、もっと速く!
すると、聞こえずらいながら、男の声が聞こえてくる。
『ちょっ・・・・・は?何?ま・・・なんか・・・好き・・・?あんな・・・僕のほうが・・・決まって・・・?身体にわからせ・・・・ないと・・・・・かな?・・・無理やり・・・・・仕方ない・・・気持ちよくなれば・・・・忘れられ・・・・』
は??身体にわからせる?無理やり?気持ちよく?
ズン
目の前が白んだような錯覚に陥る。怒りが全身を支配し身体が覚醒する。誰ともわからない男に憎悪が芽生え、頭がビリつく。
その時、スマホが何かにぶつかるような雑音のあと
-ドゴン-
という大きな音が聞こえた。相変わらず漏れ聞こえる内容によると宮田さんが相手の男をベースで殴ったみたいだ。
柚葉だけでなく、宮田さんも危ない!最大限に引きあがった焦燥感と共に、さらに足を動かし2人のもとに急いだ。
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地図の場所につくと、宮田さんが柚葉を背中にかばってベースを構えている姿が見えた。
2人ともまだ無事みたいだ。少し安心すると件の男が見えた。あいつは・・・五十嵐か?あいつ確か、女癖が悪いで有名な?あの野郎・・・柚葉に何をしやがった・・・!!!
「柚葉!」
そう声をかけ、宮田さんと柚葉の前にでる。
「おい・・・五十嵐、柚葉に何をした?」
心は五十嵐への憎悪で燃え上がりながら、頭は不思議と冷静だ。口から出た言葉は温度の無い音となって滑り出す。
「佐藤・・・邪魔だ、どけよ。お前が出る幕なんかない。もう別れてるんだろ?関係の無い奴は引っ込んでろ。」
「お前の下らない基準で判断してんじゃねぇよ。俺は柚葉に何をしたかと聞いてるんだ。」
「・・・は!そっと抱きしめてあげたんだよ!恥ずかしがって、逃げようとするもんだから、少しお仕置きをしようとしていただけさ。初々しかったぞ?お前、佐々木さんの事、抱いてあげて無いんだろ?ヘタレが!お前じゃ佐々木さんを喜ばせてあげられ・・・」
ゴン!!
気が付くと五十嵐が吹っ飛んでいた。あ、俺が顔面殴ったのか。頭は冷静なんだが、手が出てしまったな。ふむ。
ドゴ!!
五十嵐が何か言おうとしたので、次は蹴り飛ばしてやった。まあ、あいつの言葉に価値などないし、妥当な処理だろう、そう思っていたのだが性懲りもなく口を開いて来た。
「ぐ・・・・調子に乗るなよ。これは僕と佐々木さんの問題だ。僕はな・・・好きな子を落とせなかった事はないんだよ。僕らの恋愛に土足で踏み込んでくるな!」
・・・は?
・・・好き?落とす?恋愛?
コイツは恋愛ってやつをゲームか何かだと思ってるのか?そうやって周りが苦しんでもお構いなしにか?
・・・・・・なるほど。ほんとに恋愛ってやつは・・・。
まあいい、取りあえずはコイツを潰そう。生きていても害にしかならねぇ。そう前に踏み出すと・・・
「「慎太!」君!」
2人により後ろから抱き止められた。
五十嵐はビビッているのか、怯えた顔で仰向けかつ地面にへばりつきながら、俺から離れようとしていた。
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その後、智也が何か買い物でもしていたのか、スーパー袋をもってカラオケ屋の前に遅れて到着し、宮田さんから状況の説明をされていた。
智也は俺たちに五十嵐をライブに誘った事、悪乗りしてしまった事の謝罪をし、スーパー袋に入ったお菓子を袋ごと渡そうとしてきたが、逆に不愉快だったので断った。いや、智也が悪いわけじゃないのだけれど。
五十嵐はいまだにブツブツと俺に文句を言っているが、智也も五十嵐に反省を促しつつたしなめていた。
俺はと言うと冷静だと思っていたが、全然そうではなかったらしい。柚葉も、宮田さんまでちょっと泣いている。
少し、落ち着いてみると、やりすぎてしまったし、2人からは引かれてしまったかもしれない。あぁ、何だか頭が重い。考えが纏まらない。ぼーっとする。
道のはじで、しゃがんで休んでいると、俺の近くにいた柚葉がすっと立ち上がり、五十嵐に近づいて行った。
・・・何を?と思った瞬間
——————パン!!!
と乾いた音があたりに響いた。見ると、柚葉が五十嵐の頬をはたいていた。
「五十嵐君。私はあなたの事が嫌いです。二度と私たちに近づかないでください。」
柚葉があんなにハッキリと人に“嫌い”と言うのをはじめて聞いた。五十嵐もビンタをされた事がショックだったのか口を開けて固まっている。
智也も驚いていたようだが、最後にもう一度俺たちに謝罪をし、五十嵐をカラオケ屋に連れて行った。他の奴にもちゃんと経緯を話し、反省を促すのだそうだ。まあ、当然か。
俺たちも重い腰をあげ、ちゃんと宮田さんを最寄り駅まで見送り、柚葉と帰路についた。
家につく頃には心はどこか空っぽのようだった。
慎太・・・・今日この1日で喜怒哀楽の全てを高いレベルで経験した事により、ちょっと精神へのダメージが大きすぎる状態となってしまいました。ここから先、作者的にちょっと苦しい展開が続きます。
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