撤収 / 告白
最後の曲が終わり、メンバーと顔を合わせると皆、満足そうな顔をしていた。
「よくやったな鈴木!リード完璧だったぞ!それに、三坂の対応力、助かったよ。本当は俺がフォローすべきだったんだけど、間髪入れずでビビったわ。しかも鈴木もすぐに持ち直してパワーコードでアレンジだもんな。」
「いや、ほんとにな。慎太の顔、ちょっと面白かったぞ。ええ??って顔しててさ。ちなみに俺っちは、公開で鈴木と三坂のイチャイチャ見せられてるわーってニヤニヤしながら見てた。三坂の献身的な支えが神がかりすぎて、眩しかったわ」
「私も不覚だけど、3日前に2人で抱きしめあってる映像がフラッシュバックしてほんわかしちゃったわ。あそこで弦が切れるとは思わなかったけれどね。それにしても、今回は私たち2年じゃなくて1年の2人がMVPね。」
「ちょっ先輩!学~先輩たちが虐めてくるー!」
「あはは、でも本当にありがとう、りっちゃん。あの時、本当に心強かった。それに先輩方が支えてくれたから頑張れました!」
ま、今のこの笑顔は全員が頑張った結果だな。ちょっと大変だったけど、本当に楽しかった!
お、舞台の近くに小雪と吉田さんが向かってきてくれているのが見える。柚葉は、ちょっと後ろのほうで、あれは智也か、何か話してるな。後で智也にも来てくれたお礼言わなきゃだな。
「おっし、撤収~!さっと片付けるぞー!少し、時間押してるからな!」
祐樹が掛け声をかける。俺もシールドケーブルやらエフェクターやら片付けて、いったん楽屋に引っ込もう。大方片付け終わったあとに、ふと柚葉がいたほうに目を向けると柚葉はさっきまでの場所に居なかった。
「お兄ちゃん!」
「お、小雪、ありがとな今日来てくれて。あれ?柚葉と一緒じゃないのか?」
「え?あれ、さっき私たちに何か言ってたんだけれど、お手洗いかな?吉田さん見かけました?」
「見かけてないよ。さっきまでいたけれど・・・小雪ちゃん、柚葉ちゃんに連絡してみてくれる?」
「わかりました!ちょっと電話してみますね。」
ああ、昔夏祭りに行ったとき、小雪でなく柚葉がはぐれた時の事、思い出した。大丈夫かな、あいつ。そう思っていると、吉田さんが俺のズボンを舞台下から引っ張ってきた。え?脱がされちゃうの?あらエッチなんだから?え?違う?いや、知ってた。
「ん?どうした?吉田さん」
何だかまごまごしてるな。
「・・・・・・」
んんん???いつもの吉田さんらしくないな?え?本当にどうした?
「慎太君。この後、少しだけでいいから2人になれる時間を下さい。」
おお、何だ何だ?
「よー!慎太!!めっちゃかっこよかったじゃんか!って、あれ?お取込み中だったか?」
吉田さんの後ろから元気よく智也が声をかけてきた。
「ん?いや、どうなんだろう。えっと吉田さん?」
「うん!大丈夫!慎太君、約束だよ!ちゃんとあとで時間ちょうだいね!」
そう言って、吉田さんは小雪のほうに向かい、一言二言話して楽屋のほうに歩いて行った。どうしたんだろうな?あれかな、ライブ中に何かあったとか?・・・まあ、後で聞けば済む話ではあるのだけど、何だかいつもと雰囲気が違くて気になるな。
「え、あの子、めっちゃ可愛いじゃん。何だよ紹介しろよー」
「はい却下ー。人の恋愛に首を突っ込まないポリシーなもんでね。」
「うわーケチ!旧友の幸せを願う心意気はないのか!そんなケチな慎太君にお誘いが、この後、カラオケいかね?森中のやつとさ!佐々木さんもさっき誘ったから今向かっていると思う。」
え?向かってる?小雪のこと置いていったの?マジで?
「は?何で?いや、柚葉、小雪と来てたんだけど?」
「ああ!悪い!佐々木さんは小雪ちゃんも一緒にって言ってて、俺がその伝言を言いにきたんだよ!」
いや、おかしくないか?だとしても自分で言うべきだろ。今、現時点で小雪は心配してるってのに。
「お兄ちゃん、柚葉お姉ちゃんと連絡とれないや。お手洗いかも。少し待って合流したら先に帰るね。」
「ああ、いや、柚葉、中学校の時の同級生たちとカラオケ行ったみたいなんだ。智也が小雪もどうかって」
「え?えーと、お兄ちゃんの学年の人たちだもんね?えっと、それはご遠慮しますね。でも、柚葉お姉ちゃん、一言いってくれればよかったのに。」
何だか釈然としないな。さすがに思うところあるぞ、これは。
「いや、ごめんな?もしかしたら、ちょっと強引に誘っちゃったかも。えっと、慎太は来ない・・・か?いや、せっかくだから皆で集まれたらと思ったんだけど。」
「・・・少なくとも小雪、送ってかなきゃだからな。あ、それに少し約束もあるからそれ終わってだから、行ったとしてそっち、間に合わないかもしれん。」
「いや、なんか、悪い。ちょっと空気読めてなかったかも。取りあえず色々終わったら連絡待ってるよ。まだやってるかもだし」
そう言って智也は出口に向かって行った。
「お兄ちゃん。大丈夫だよ?小雪、自分で帰れるから。さすがに高校生だし、まだ明るいから。」
「ん、いや、まあ、それもそうか。気を付けて帰るんだぞ?」
小雪を見送って少し憮然としていたが、まあ少し過保護過ぎたか。そういえば小雪も、柚葉が何か言ってたとか話してたし、会場がうるさくて聞き取れなかったのかもしれない。なんだかまだ違和感はあるけど・・・。
・・・俺も楽屋に戻らないとな。吉田さんとの約束もあるし気持ちを切り替えよう。
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「お、戻ってきたな、慎太!よしそろったか。改めてお疲れ!取りあえずここでなきゃだから、各自自分の荷物もって外に出よう。俺は諸々の手続きしていくから、ここで解散な。」
「わかりました!伊藤先輩、色々ありがとうございます!私、伊藤先輩のこと見直しちゃいました!」
「見直す前は何だと思ってたん・・・」
「エロ先輩とかスケベ大魔神とか心の中で呼んでまし・・・」
「・・・やめろ!!!あ、そだ、ちなみに別日で二次会企画するから、ちゃんと出席するように!!」
「伊藤君が企画するのかしら?ちょっとだけ不安ね。・・・慎太君監視よろしくね?」
おお、信頼頂けてるのか?その信頼に答えられるだろうか?だって、祐樹の企画ってプールだろ?めっちゃ後押ししちゃう未来しか見えない。ぎこちない笑顔を宮田さんに返しておいた。
「じゃあ、申し訳ないっすけど伊藤先輩よろしくお願いします。皆さん、帰りましょうか?」
「あ・・・っと、悪い、ちょっと用事があって俺、先に抜けるわ」
「私も先に行くねー!慎太君、途中まで一緒に行こ?」
「え・・・」
ん?宮田さんが何か言っていたような気が・・・と思って宮田さんのほうを向いたら、目が合わない。おかしいな?演奏中はあんなにアイコンタクトあったのに、あれかな?目からのビームを当てないように気を付けてくれているのかな?・・・くすん。
まあ、それはそうと駅のほうに歩きながらしばらくして、吉田さんにさっきの続きを促した。
「んで、吉田さん。どうしたの?」
「う、うん!ちょっと待ってね?その・・・心の準備をね?それと他の人に聞かれたくなくて」
ん?まあ、今は2人しかいないけど、まあ後から鈴木とか方向同じなんだからこの道通るか。
「なるほど?どっか落ち着いて話せるほうがいいか?喫茶店とか?」
「う、ううん!そんなにかからないから!確かここの近くに公園あったよね!そこ、そこ行こ!」
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吉田さんは脇道それるとグングン歩き始めた。俺もそれについていくと目的地の公園に到着した。その時
ヴー・・・・ヴー・・・・
お、電話だ、誰だろ?と思いスマホを取り出そうとすると、その前に吉田さんから声がかかった。
「慎太君!」
「おうよ!」
おっと、意識がスマホにいっていた瞬間に声がかかったため、江戸っ子みたいになっちまった。
「ちょ!もう、いつも私がおふざけしちゃうから仕方ないかもだけど、今日は真面目なお話なんだから。慎太君も・・・ちゃんと聞いてね?」
おや?やっぱりいつもと違うな?
「あ、うん。悪い。ちゃんと聞くよ。どうしたの?吉田さん。」
そう問いかけるものの、次の言葉がスムーズに出ないみたいだ。今日は少し風が強く木の葉のざわつく音と蝉の鳴き声だけが聞こえてくる。
しばらくそうしていると、吉田さんが大きく深呼吸をして目に強い光をともして口を開いた。
「慎太君。私、慎太君の事が好きです。私を・・・彼女にして下さい。」
・・・え?・・・・・一瞬、世界の全てが止まったように感じた。
・・・好き?
・・・・好きって・・・・え?
・・・
『慎太ごめん。好きな人ができたの。だから慎太とはもう一緒にいられない。』
ふいにあの言葉が思い出される。
・・・吉田さんは・・・吉田さんは関係ない。
だけど、好きって・・・。何で・・・。
・・・
ダメだって・・・それは、ダメなんだよ。
・・・また関係壊れちまう。
吉田さんとは、俺と祐樹と3人でクラスで仲良くて・・・あ・・・祐樹・・・とも?
・・・なんて言えば正解だ?何が正解なんだ?
今まで告白された事なんてなかった。俺が恋愛から離れていれば、あんな苦しい事にはならないと思っていた。
暑いはずなのに、冷たい汗が流れる。
「・・・俺は。」
「うん。」
吉田さんは答えを待ってる。俺は・・・吉田さんを笑顔にできる言葉をもっていない。
・・・それでも・・・それでも言わなきゃならない。こんなに真剣に向き合ってくれている人から・・・逃げてはならない。
「俺は・・・吉田さんの気持ちに・・・答えられない。」
「・・・!!・・・・・・好きな人がいるの?」
「そうじゃ・・・ない。」
「うそ。柚葉ちゃんの事が好きなんでしょう?」
「好きとか・・・そういう事じゃないんだ。」
「・・・じゃ、じゃあ、どうして?私じゃ・・・ダメかな?い、今は私を好きじゃなくてもいいの!付き合ってダメだったら、その時に断ってくれてもいい。」
・・・!!!
だから、何で!
「私にチャンスをくれないかな?」
何でだ?
何で別れる事が含まれるんだ?その先に何がある?積み上げてきたものが壊されるときのあの絶望をまた?・・・そんなの・・・そんなのお互いに不幸じゃないか!
付き合うって何だ?何で自ら傷つこうとするんだ?
・・・俺は混乱する頭で、それでも何とか口を開き
「ゴメン」
そうつぶやいた。
「そ、そっか。ご、ごめんね!えっと、二次会、よろしくね!」
そう言うと、吉田さんは涙を溜めて、走り去っていった。
勇気を出して告白してくれたのは吉田さんなのに・・・傷ついているのは俺じゃないのに・・・
何て情けない・・・
誰もいなくなった公園で誰に届くでもないなか
「・・・・好きって・・・何だ?・・・好きの先に・・・・何が・・・ある・・・」
心の声をせき止めるすべをもたず、口から言葉をこぼしている事にも気づかず、呆然と立ち尽くしていた。




