『Poppy』出撃
対バン当日。参加するグループは全部で6グループで俺たちの順番はなんとトリの6番手。特に鈴木と三坂が震えていた。大丈夫、さすがにこれは俺も震える。今は4番目のバンドの演奏が終わるところで、次の次が俺たちの番だ。
俺と祐樹が出るということもあって・・・いや、正確には吉田さんの布教活動の力でクラスの半分以上が来てくれた。
さらに・・・最近はずっと一緒に活動していたから意識が薄れていたが、宮田さんの影響力を侮っていた。さっき、フロア覗いた時、『えっと、ここ学校?』ってくらいうちの学年の奴が多かった。宮田さんパネェ。やっぱり女神なんじゃないかな?天界から迷子になって降りてきたとか?あり得る。ちょっとおっちょこちょいなところ、あるものね!
中学時代の友達は、当時仲の良かった智也を誘い、智也が何人かに声をかけてくれたところ、ありがたいことに6名くらい来てくれたようだ。
メンバーそれぞれ、学外の友人も誘ってくれた結果、かなりの大盛況だ。
なお今回色々と協力してくれた吉田さんは俺たちと一緒に楽屋にいて、明るい雰囲気で俺たちを和ませてくれている。もはやマネージャー枠である。
本人にそういったら、『ふふん!じゃあ、慎太君をマネージメントするわ!そうね、私の前で腕立て伏せ100回!見下ろしていてあげる!』と嬉しそうに言ってきた。マネージメントをとらえ違えている気がする。あと何そのシチュエーション。ちょっと興奮しちゃう。
お、スマホにメッセージが・・・
「あ、悪い祐樹、妹と幼馴染が着いたみたいだ。ちょっと連れてきていいか?」
「おお!妹ちゃんか!慎太が風邪で寝込んだとき以来だな。もちろんだ!」
入口前に行くと、入っていいのかどうすればいいのか分からないみたいな挙動をしている二人を見つけた。
「小雪!柚葉!来てくれたか。」
「お兄ちゃん。良かった。なんだか人が沢山いて、入りずらいっていうか、何だかライブハウスってドキドキするね。」
まあ、ちょっと独特の雰囲気あるからな。スタジオ以上にエネルギーみたいなものを感じる。
「えっと、や!慎太。」
柚葉が手をシュビッ!と上げて挨拶してくる。こういうところ小動物感がある。相変わらず、危なっかしく見える。柚葉に小雪を守れる能力・・・は無いな。2人まとめて庇護対象というかなんというか。まあ、吉田さんが居れば問題ないか。
楽屋に戻ると吉田さんと目があった。
「あっ、えっとこの前、慎太君の家の前にいた・・・。」
「吉田さん、ですよね。お久しぶりです。1月ぶりくらいですかね。」
「あ、えっとうん!ひさしぶり!柚葉ちゃん、だよね?」
「はい!えっと、改めまして佐々木柚葉と言います。今日はお招き頂きありがとうございます。皆さん、よろしくお願いします。」
「慎太の妹の小雪です。いつも兄がお世話になってます!」
「すげぇぞ慎太。しっかりしたお嬢さん方がいらした。俺の内なるジェントルマンを最大解放してご対応したほうがいいかな?」
「やめなさい変態。その言い方だと変態にしか聞こえないわよ?最初の印象が大事なのだから気を付けたほうがいいわ。変態」
「宮田さん!?俺、伊藤ね?名前忘れちゃった?伊藤祐樹16歳ね?」
一瞬でカオスな雰囲気になったな。さすがうちのバンドメンバー・・・ブレねぇ。そんな事思っていたら三坂が爆弾を投下してきやがった。
「初めまして!柚葉さん、小雪さん!えっと、柚葉さんと佐藤先輩が幼馴染なんですよね?もしかして・・・佐藤先輩の彼女さんだったりぃ?」
おまっ何てこと聞きやがる。
「お前な、初対面で変な事、聞くんじゃねぇよ。柚葉とはただの幼馴染だよ。俺と同い年で一応、三坂の1つ先輩なんだから敬え。」
「・・・」
柚葉が困惑しているのを見て、三坂も申し訳なく思ったのか。
「あ、ごめんなさい!すごく可愛らしいし、愛でたい雰囲気出てて、年下・・・ぎりぎり同い年くらいと思っちゃってました!本当にごめんなさい!」
「りっちゃん。多分、それ謝れてないよ?」
「まあ、気持ちはわかる。」
「“気持ちはわかる”じゃないよ、慎太。慎太がフォローしてくれないと、私の威厳みたいのがさ」
「いや柚葉。無いものを望んではいけない。どんなに塗り固めてもそれはただの虚像だ・・・って痛い痛い」
めっちゃほっぺつねられた。ん、吉田さんがジッとこちらを見てる。あれ?人見知りするほうだったっけ?いや、それは無いな。それだけは無い。断言できる。※失礼
そんな事を思っていると吉田さんが近づいて来て
「・・・柚葉ちゃん、よろしくね!・・・もう、慎太君が柚葉ちゃんの事、虐めるから!ほっぺ赤くなってるよ?」
え、めっちゃ近っ!と思っていたら俺の頬に吉田さんが手を添えてきた。おお、冷やっこい。いや違うな。どういう状況だ?めっちゃ注目されとるがな。
「お、おぉ、大丈夫だから。びっくりしたわ。あれか、追撃食らうところだったか。あぶねぇ」
「・・・ばれたか!やるじゃん慎太君!危機管理能力は問題なさそうだね!」
正直ドキドキしたぞ。美少女がぶっ壊れた距離感で近づいてくれば誰だってこうなる。ただ、リアルに追撃してくる可能性、マジで否定できないからな。そっちの意味合いのドキドキもあるところが吉田さんたる所以だ。
ん?・・・んげ、すげぇ冷たい目で宮田さんが見てくる。軽蔑された感じかな?謝っちゃう。全然謝っちゃうよ?だから目からビーム出さないでほしいな?命にかかわる。
「このやろ!女子に囲まれやがって、残り香、残り香クンクンしちゃうぞ」
「だからやめなさい変態。警察呼ぶわよ?」
「宮田さん?お願い、変態はやめて?呼び捨てでいいから、せめて伊藤って呼んで?警察は呼ばないで?」
そういえば、祐樹、吉田さんの事、どう思ってるのだろうか。俺の予想では吉田さんの事を好きなのだと思っていたんだけれど・・・。最近、そんな素振り見せないな?もしそうなら、変に誤解されたくないと思ったのだが・・・気のせいか?
「さて・・・そろそろ舞台裏に行くか?準備は出来たか?」
祐樹が気合い十分って顔で号令をかける。特に気にしてないようだな。よし、俺も気合い入れるか。
「おうよ。やる事はやってきたしな。あとは楽しむだけだ」
「私も頑張ります―!学!頑張ろうね!」
「うん、りっちゃん!先輩方もよろしくお願いします。」
「鈴木君、私のベースの音、よく聞くのよ。もちろん、伊藤君のドラムの音も。不安になったら慎太君の事を見なさい。それで落ち着くわ。それでも落ち着かなかったらカワイイ彼女の事でも考えてなさい。」
「ちょっ!先輩!」
うん。ベストコンディションだな。
「吉田さん。小雪と立夏の事、頼むよ!」
「おっけー、任せて!皆!かっこいいところ見せてよね!!」
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ステージに立つ。観客のざわつき、スポットライトの光。メンバーの表情。よし、ちゃんと見えてるな。問題ない。鈴木は・・・はは、素直だな、会場全体を見まわして深呼吸してる。お、目があった。いや照れるんじゃねぇよ。男の照れ笑いなんぞ、需要ねぇぞ。ま、でも大丈夫そうだな。
よし、俺たちの音楽を全力でぶつけてやる。
「初めまして!俺たち夜空高校の『Poppy』です!!!本日、最後のバンドになりますが、全力で盛り上げていくので、全員ついてこいよな!!」
会場全体から歓声があがる。心地よい熱気だ。祐樹と目を合わせる。祐樹がスティックを鳴らすと俺たちのライブが始まった。
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ギターをかき鳴らし、仲間とアイコンタクトをし、音を重ねていく。俺も歌よ届けと、オーディエンスを集団としてではなく1人として捉えるように、その1人にどうかこの声が届くように言葉を紡ぐ。時に宮田さんと言葉を重ね合わせながら、それぞれの楽器から奏でられる音にのせて届けていく。
徐々にヒートアップしていく会場、いい感じだ。ふと柚葉と目があった。なんて顔してんだ、口開いてるぞ。
めちゃくちゃ楽しんでいると、気が付いたら次がラストの曲となっていた。最後に一声オーディエンスに投げかける。
「最後の曲です!皆、盛り上げていくぞ!!!」
俺がオーディエンスに投げかけると会場全体が揺れるような歓声が上がった。メンバー、一人一人の目を見てから、俺はギターとともに歌い始める。
メンバーとオーディエンスの心が一つになったような感覚を感じるなか、サビが終わる。次は鈴木のリードだ。鈴木を見ると目が合う。力強い光を宿してる。大丈夫だな・・・やってやれ!そう目で答える。
やけにバスドラムの音が聞こえる。宮田さんも鈴木のギターを支えようと一つ一つの音にメリハリをつけ、安心感を与えるような重低音を奏でる。
鈴木が前にでてギターを奏でる。何度も水膨れをつぶした指先には何の迷いもない。切羽詰まった様子などどこにもなく、余裕すら見て取れる。あいつもちゃんと楽しんでいるな。そしてなんのミスもなく、リードの部分を弾ききった。よしっ!
・・・しかし、その時、鈴木の1弦が切れた。鈴木が混乱する。よくあるアクシデントではある。だが、何故ここで・・・
俺がリカバリーに入らなければ、そう思った瞬間、キーボードの音が鈴木のパートを奏で始めた。大きな違和感もでず曲が奏でられていく。鈴木もすぐに復活して1弦を使わないパワーコードに切り替えて即興でアレンジしはじめる。はは、何だよ。やるじゃん、1年!!
自然と口元がにやつき、俺も即興のアレンジを加えて最後のサビに突入する。アクシデントなど跳ね返して寧ろ、最高潮の盛り上がりを見せ、ラストを歌いきる事が出来た。
このメンバーでやり遂げられたことに、俺は大きな充足感を感じていた。
三坂、鈴木の力になれなくて実は裏で悶々としてました。いつでも助けられるように、準備してたみたい。あの、三坂ががががが。
次回、徐々に巻き起こる波乱。




