ライブ準備完了
自分的に重めのミッションを軽やかに(?)達成し、その後も猛練習して気が付くと夏休みに突入し、何と本日は本番3日前である。
ちなみに柚葉とはあの日から、ようやく徐々にコミュニケーションを取るようになり、昔ほどではなくとも、普通に話す分には何の違和感もなく会話できるようになってきた。
何事も、努力が必要だという事だね。中学校の友達とも意識して声かけないと、何もなくとも疎遠になるもんだしな。俺も柚葉も、何となく機会を見つけて会話をしている感がある。
ややわざとらしさは残りつつ、まあ、そこらへんは仕方がないだろう。わざと距離を置いて、矛盾だらけだった頃よりか大分気持ちが楽だ。
そして、今日は本番前のリハーサルと称し、スタジオ借りての練習だ。バンド練習に使うスタジオは音楽好きが集まる独特の雰囲気がある。
アンプ一つ弄るのも何だか楽しさを感じる。
さて、本日は『Poppy』のファン第1号が観客として見に来てくれている。言わずもがな吉田詩織さんである!!はい拍手!!
吉田さん一人で5人くらいの観客力ある気がする。いや、マジで。
「吉田さん一人で5人くらいの観客力ある気がする。」
「慎太君。それ、褒めてくれてるのかなぁ?褒めてくれてるんだよねぇ?」
やべ、声に出てた。
「もちろんだよ!そんな!吉田さん太陽みたいって事だよ!」
太陽なみに存在感がやばいって事だねっ!うっかりすると燃えて灰になっちゃうっ!
「んなっ・・・ちょっ、恥ずかしいから!」
おお!事なきを得た!
「慎太の心を読むと、太陽なみに存在がうるさいって意味だと見た!」
「ふむ。ほぼ、正解、いや、文句なしの正解だ!やるな!祐樹!」
「し・ん・た・く・ん?」
うん。罪からは逃げられない。無駄な抵抗はやめて自首してみたけど、刑は軽くなるかしら?ならない?ならなそうだね?いや、太陽が無いと生命が存在できないから!重要だから!褒めているというのも嘘じゃないですから!
それはさておき、吉田さんには色々ご協力頂き、ある程度通しで出来るようになってからは何度か観客として聞いてもらい、意見してもらっていた。
最初は遠慮がちだったものの、段々皆と仲良くなり、今ではすっかり打ち解けてバンバン良い意見頂いている。さすがコミュ力お化け。
「ん??」
兼、エスパー
「吉田さんジュースいる?」
「お!慎太君ったら気が利く!嬉しい!」
吉田さんは感情を包み隠さず出すから、なんていうか人たらしだ。吉田さんの事、嫌いな人いないんじゃないかな。
そんな事、考えていると。
「慎太君、私もほしい・・・。」
服をくいっと引っ張られ宮田さんからも飲み物のオーダー頂いた。おお、何だその上目遣い。女神の上目遣いは時に凶器に姿を変える!おや?心臓がびっくりしてるよ?あれ?止まってない?起きて!心ちゃん!朝よ!っっっっんは!よかった。マジであぶねぇ。
宮田さんは当初、俺の事を苗字で佐藤君と呼んでいたが、吉田さんが下の名前で呼んでいるのを見て、
『バンドメンバーなのだし、へ、変に白々しいのは良くないわね。私も慎太君って呼ぶわ!』
と何だかカンペが見えているのではないか?と邪推してしまいそうな棒読みな宣言をしてから、下の名前で呼ばれている。
それ自体は全然かまわないのだが、祐樹の事は今でも苗字で呼んでいる。一瞬、祐樹君と呼び始めたのだが、
『ちょっと違和感あるわね』
といつも通りクールなご発言後、呼び方を戻したようだ。
ちなみに、祐樹は
『儚い夢だった』
と空を見ていた。ちなみに三坂から
『宮田先輩、佐藤先輩に気があるんじゃないですかー?佐藤先輩だけ下の名前で呼び続けてますしぃ』
とかのたまって来られたが
『いや、そんなわけないだろ。普段の宮田さんと俺の物理的な距離感見たらわかるだろ。見ろ、気が付くとなぜか部屋の対角線上にいらっしゃるんだぞ?これに気づいた時、ちょっと泣きそうになった』
『あー・・・色々とドンマイです!先輩!』
と、無駄に凹む結果となった。それはそうと
「ほいよ!沢山買ってきたからな。好きなの取ってくれ」
スタジオの練習するスペースでは飲食禁止なのだが、飲食可能なスペースがあってそこで休憩することができる。ただ、スタジオ内の自動販売機は大分高く設定されているので、皆から事前にお金を集め、スーパーで安売りしているジュースを大量に買ってきた。
「さて!息も整ったしやるか!MCとかはカットして、一回5曲全部、通しでやろう」
チューニングや音取り、ドラムの位置調整、アンプやエフェクター等々、準備を終わらせ、祐樹がスティックを交差させて3回鳴らす。
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4曲目まで安定して演奏し、続くライブでの最後の5曲目。俺たちが演る曲の中でも一番難易度が高い。
アイコンタクトをとり、最初は俺のギターと歌からの入り・・・そこから鈴木のギターが入ってきて、三坂のキーボードにより音に厚みが載る。祐樹のドラム、特にバスドラムと宮田さんの指引きでのベースがクロスし、腹の底に心地よい重低音が響く。ここで俺と鈴木は先ほどまでの柔らかな音から一気にギターをかき鳴らし、短めの間奏で初っ端から最高潮にテンションを爆上げさせる。
そしてその間奏後、俺は、練習しているスタジオの何倍もの広さの会場を想像し遠くに声を飛ばすイメージで再び歌いだす。
この曲は途中で変調し、雰囲気が変わる。このタイミングが難しいのだが、ここは祐樹のドラムが安定して皆を導き、一本の柱となり音がまとまっていく。
ここまでは順調なのだが、ここからだ。サビが終わったあとの鈴木の最大の見せ場のリード部分だ。だが・・・。何とか、最後まで演奏しきったところで吉田さんから感想を聞く。
「えっと、すごくよかった!皆、息があっててかっこよかった!うんと、・・・あえて言うとだけれど・・・」
「・・・・・・自分っすよね。ごめんなさい。練習頑張ってるんすけど。上手くできなくて・・・。」
上手くできない。その表現が間違っているわけではない。鈴木はこの3週間ほどの期間、かなりの頑張りを見せていた。リード部分については、すごく難しいフレーズというわけではなく、鈴木の技術は恐らく必要基準に達している。
何が足りていないのか。それはおそらく自信が足りてないのだ。自信を持てない鈴木は、いつもあのフレーズになると焦って音が“走る”。要するに鈴木だけテンポが速くなって全体の音がばらけ始めるのだ。
そうなると鈴木はテンパって運指をミスり、音を外す。そういった悪循環に陥っていた。
「ま、学!大丈夫だよ!あと3日あるし、ここ以外は完璧だもん!」
「・・・りっちゃん。ありがとう。でも、自分が足引っ張ってるのが情けなくて・・・。ホント・・・ちくしょう・・・ずっと練習してるのに・・・。」
誰もがそれをわかっていた。鈴木の指の先は練習のしすぎで水膨れになって、それを潰して、さらにまた出来て、という状態になっていた。
ギターを始めるとそうなる事はあるのだが、鈴木の場合それが少々痛々しい。
三坂もずっと励ましている。
「・・・佐藤先輩。・・・スミマセン。ここのフレーズ。お願いしてもいいですか?」
相当悔しいのだろう。まだ短い付き合いとはいえ、人前で涙をためているこいつをはじめて見た。
今日のリハーサルまでには、と思っていた節がある事は気が付いていた。鬼気迫るものがあったからな。あーあ、唇嚙み切ってら。
・・・バカめ。
「断る。」
「・・・っ!!何でっすか?あと3日しかないんす!!こんな土壇場になって、出来ていないんす!!自分の変なプライドに拘ってチームの足引っ張るくらいなら、先輩にお願いしたほうがいいに決まってます!」
何言ってやがる。対バンに向けた、お前の努力を一番見ていたのは俺だぞ?
「拘れよ、そのプライドをよ。変なわけないだろうが・・・。お前、どんだけ頑張ってきたと思ってやがる!足くらい引っ張れよ。その程度じゃ・・・揺らがねぇよ!」
「おいおい、慎太。鈴木に活を入れてやりたいって気持ちはわかるけど、もうちょっと優しくさ?・・・だけどま、鈴木。俺っちも慎太に同意見だ。もうちょっと周りを頼れよ」
「・・・頼れって言われましても・・・自分が下手なのが問題なんすから。」
鈴木がそう言うと、今まで黙っていた宮田さんが話し始めた。
「・・・鈴木君」
「はい。」
「私も去年の文化祭前、緊張してリズム取れなくて、ベースなのに音が走らせ気味になっちゃったことがあったの。でね?当時の先輩も私に言ってくれたわ。周りを頼れって。つまり、周りの音を頼れ。ドラムのハイハットの刻み、バスドラの全体を締める重低音・・・今回は、そうね、私のベースも頼ってくれていいわ。いざとなったら、あなたの先生の慎太君も助けてくれる。立夏ちゃんは言わずもがなね。」
「・・・」
「音楽は一人でやるものじゃないわよ?」
「・・・」
「バンドのメンバーだけじゃなく、聞いてくれる人がいて初めて成り立つの。吉田さんだって、この音を作ってくれる一人だわ。鈴木君、皆の顔、見えてる?」
宮田さんの言葉を聞いて、しばらくすると鈴木は気持ちを落ち着かせ口を開いた。
「・・・先輩方、すみません。自分、見えてなかったっす。佐藤先輩、生意気言ってスミマセンでした。・・・ちょっといじけてました。自分、頑張るんで、また教えて下さい!」
良かった。なんだか他人事になれなくて、つい熱くなってしまったけれど、また鈴木の目に力が戻った。
「もちろん。俺のほうこそ、強い言葉になっちまってゴメンな。そうだな、鈴木の技術はもう十分、さっきのフレーズをこなせる力はある。あとは、いかにリラックスできるか・・・だな。」
「・・・はい。」
「けど、それが難しいだろ?」
「そうなんです。特にリードの時は緊張すると頭真っ白になっちゃうっす。」
「・・・場を自分に取り込むといいんだよ。」
「???」
「まあ、そうなるよな。詳しくいうと最初に弾くことを考えるんじゃなくて、ライブ会場だったらライブ会場でいいんだけど、ちゃんと会場をよく見るんだよ。で、慣れさせていく。徐々に会場全体を自分の身体の一部だと想像して取り込んでいく。そうすると視野が広まって、皆の顔が見えて来るんだ。まあ、俺も先輩の受け売りなんだけどさ」
「なるほど・・・。まだ、何となくではあるっすけど、・・・わかる気がします!」
三坂がたまらず鈴木を軽く抱きしめている。不思議とイチャつきやがって!とはならず、安心感を覚えた。鈴木は顔真っ赤にして『先輩が見てるよ』とか言ってるけれど、これは後にいいネタになるぞ・・・と、今この瞬間、祐樹、吉田さん、俺の心は一致した。シンクロ率120パーセント!
先ほどとは違い、温かな空気が流れ始めた。これなら大丈夫そうだ。祐樹も同じことを思ったのか声を上げる。
「よっし!もう一度やってみよう!鈴木はスキル的には慎太の太鼓判貰ってるんだから自分を信じろ!あとは宮田さんと慎太のアドバイスを参考にして心のコントロールについての練習だと思ってやろう。じゃあいくぞ!」
そのあともミスする事もあったが、1日で大分完成度を上げる事ができた。これなら間に合う。鈴木は練習後、恥ずかしそうにしながら皆にお礼を言っていた。
しかし、しまったな。動画に残しておけばmetubeで100万再生間違いなしだったのに、惜しい事をした。(※三坂が100万回見るから)
とにもかくにも、後は本番まで調整をして、当日を待つばかりだ。今から楽しみだ。




