ミッション
いつも、私の拙い作品をお読みいただき、ありがとうございます。
活動報告にも記載させて頂きましたが、感想欄につきまして、1点お願いがございます。
作品に関してご意見、皆様の想いを書いていただく分には大歓迎ですが、他の読者様の考えを否定するような発言はお控えください。
色々な方が目にする可能性のある公共の場です。一定のマナーを守れない方につきましては、ブロックさせて頂きますのでご了承下さい。
ご理解ご協力のほど、よろしくお願いいたします。
宮田さんと楽譜を買いに行った日から、学校、家を問わず放課後や土日も使って練習に明け暮れ、1週間ほどが過ぎた。
心配していた鈴木も初めは焦っていたようだったが、ある程度難易度の低い曲を選んだことと、それでも難しいフレーズは俺との構成を交換するなどした事もあり、今のところ大きな懸念なく順調に進んでいる。
・・・・のだが、順調でないことが一つある。それは、柚葉をライブに誘うというミッションが未だに達成出来ていないことだ。
達成しなきゃならないわけではない。ただ1歩を踏み出しただけで、2歩3歩と動き出さないとこれから先、何も変わらない。
とは言え、あの日はちゃんと話し合うことができたものの1年間ほとんどまともに会話できていなかったという事実は思ったよりも影響が大きく、すぐに『へい彼女!お茶しない?(※時代錯誤)』とはならなかった。次の1歩がね、足があがらないのよ。石化かな?町でメデューサにあったかしら?
あの時は柚葉もだろうし俺もだけれど気合いMAXで臨んだことで緊張感が手助けしてくれた部分は大きかった。もしくは、想いが天に届いたのかシリアスの神様が手伝ってくれてた説が濃厚である。もしかしたら俺は神子の才能があるかもしれない。
そういえばなぜ聖女はいるのに聖男はいないのだろうか。おや?女という字を男に変えるだけで神聖レベルがマイナスに振れている気がする!何故だか脳内でスムーズに漢字が性男に変換されるぞ?新発見だ!特許とれるかな?いや、俺の脳がやばいだけだな。
と、ついつい頭の中ですらおちゃらけてしまう。フ・・・所詮、シリアスの神様なしの俺の実力などこんなものだ。
いやまぁ真面目な話、LIFEでメッセージすりゃいいだけなのだが、仲直りしたもののギクシャクしている感が否めないなか、文章で送って事故るとそのギクシャク感が加速しそうで怖い。
柚葉の事を見かけると、まだ心の中で暴れる何かがあるにはある。誤解していた部分があったとは言え、それでも別れを告げられた事は事実なのだ。気持ちが付いて行かない部分は正直ある。
俺がこの1年間で経験した苦しみはそう単純なものではなかった。
柚葉に別れを告げられた苦しみ。田中から告げられた事への怒り。そして絶望。どのくらいだったか、3カ月か4カ月くらいはドロドロした・・・小さい男だと思うかもしれないが憎しみに似た感情が支配していた。
だけれど・・・柚葉と俺が通っていた小学校や中学校、近所の公園やその近くにある図書館、子供の時、300円を握りしめて一緒に行った駄菓子屋、自転車で駆け下りた坂道、一緒に初詣に行った神社——————
それらを見るたびにどうしようもない程、悲しくて切なくて、涙が出てきて、柚葉に対する暗い気持ちとは別に—————たしかに優しく温かい、大切にしたいと想う気持ちがある事に気が付いた。いや・・・本当はわかっていた。その気持ちを無くしたことなどなかったのだと。だからこそ、苦しかったのだ。
大切にしたい。優しくしたい。繋がりを切りたくない。だけれど、どうしても許せない。俺が拒絶して、柚葉が傷ついても、そんなの自業自得だ。ちょっとは悲しめばいいんだ。そう思ってすこし冷たくしてしまい・・・その夜は悲しませただろうか、嫌われただろうかと後悔する・・・。
矛盾だらけでバカみたいだった。その矛盾した気持ちが、自分自身の苦しみを増加させていく・・・
前に踏み出す切っ掛けが欲しかったのだ。背中を押してくれた祐樹。そして踏み出すチャンスをくれた小雪。そして、おそらく田中に話をつける協力を買って出てくれ、柚葉が俺と向き合う事に協力してくれたであろう、柚葉のお友達。そして、俺からこの1年で最大の拒絶をされても、諦めないでいてくれた・・・柚葉。
吹っ切れたわけでは全然ない。まったくもってねちっこくて自分が嫌になりそうだが、不信感がないわけではない。
ただ、恋愛がどうとか考えるからややこしいんだ。柚葉が大切な幼馴染であることは変わらない。許せない気持ちも誤魔化さず全部そのまま連れて行って、それでも新しい絆を築いていこう。
俺はそう決めたんだ。
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決めたんだケドモー
指が、指が動かない!柚葉の家のチャイムを押そうとするものの、何故だ!また石化の魔法か?なんてファンタスティック!だれか!聖水を!聖水をプリーズ!
隣の家なのに、頑なに関わってこなかったからな。一旦、リハビリ施設行っとくか?指、コネコネしてから再チャレンジするか?
くそう、子供の頃はピンポンダッシュの帝王と恐れられたこの俺が、たかだか1ピンポンにここまで躊躇するとは・・・。いや、ピンポンダッシュしたことないけども。
こんなところで立ち止まっていたら不審者と思われかねん。そう自分を奮い立たせ、ようやくチャイムを鳴らす。
しばらくするとインターホンに反応があった。
『・・・・は、はい!!』
声の主は目的の柚葉だ。よかった、家にいたか。
「あー、こんばんわ。って時間でもないか。ちょっといいか?」
『えっと、うん。ちょっと待って!・・・・・ドタドタ、バタン・・・・ガタガタ・・・・』
いやいや、あの子ってばインターホン切り忘れてるから。所々ぶつけてるから。満身創痍で出てきたらどうしよ。そんなことを考えていると
————ガチャ
「えっと、慎太。いらっしゃい!その、どうしたの?」
「いや、大したことないんだ。・・・あー、その、俺さ、柚葉と別れてからギター弾き始めてさ。」
「えっと、うん。知ってる。慎太の家から聞こえてきたことあったから・・・。」
「あぁ、悪い。うるさかったか?」
そう問いかけると柚葉は頭を横にブンブンふって
「そ、そんなことないよ!ちゃんと、聞いてみたいって、ずっと、思ってて。」
「おぉ、そうか。えっと、そいで、今度7月31日にライブやる事になってさ。もしよかったら柚葉、来ないかなと思って。」
そう言うと、柚葉は目を見開いて・・・固まった。ん?これは・・・やっぱ居るな?メデューサさん。そこかっ!!いや、そこかっじゃないわ、思考が飛ぶのは悪い癖だ。
「あ、予定あるんなら無理に誘わないけど」
「えっと、大丈夫!そのライブって事はバンド、だよね?学校のお友達の?」
「そうそう、俺、今、軽音楽部に入っていてそこのメンバーとやってるんだ。当日は俺のクラスのやつとか、中学校の友達も呼ぼうかと思ってるから、柚葉も知っているやつ来るだろうし、小雪も聞いたら来るって言ってたから、2人でどうかなって。」
「結構、沢山来るんだね。」
「まだわからないけどな。でもほら、前に俺の友達紹介するって言ったじゃん?いい機会だと思ってさ」
「友達・・・・・その女の子も?」
「ああ、柚葉と仲良くなれそうなやつばかりだよ。クラスでいくと祐樹っていうやつと大体つるんでて、女の子だとその祐樹と同中の吉田さんって子と仲いいんだ。祐樹はバンドメンバーだから、客席側にいないけど、吉田さんコミュニケーションお化け的なところあるから、すぐ仲良くなれると思う。紹介するよ。」
「・・・・・」
「あと、バンドメンバーも当日紹介するな。」
「あ、えっと・・・・私、その邪魔に・・・ならないかな?」
「ん?いや、何で?ならないよ。あぁ、大丈夫だよ。小雪もいるし、吉田さん本当にコミュ力やばいから。」
「・・・あ、うん。」
「どうかしたか?」
「え?ううん。何でもない。」
何だかはっきりしないな。
「嫌なら・・・無理しなくていいけれど。」
ちょっと意地悪な言い方になってしまった。いや、俺だって気まずいところ声かけてるところあるんだから、柚葉からも距離詰める努力してほしい・・・とか、求めすぎだろうか。
「嫌じゃないよ!慎太が誘ってくれるの嬉しい。ただ単純に慎太のお友達に迷惑じゃないか心配だっただけで・・・」
ん?いまいち要領得ないな?柚葉の事を迷惑がるやつなんて、いないだろうし。
「いや、大丈夫だって。吉田さん、本当にいい子だから!世話焼きだしな。」
「えっと・・・その、吉田さんって、この前、慎太が風邪引いた時に・・・慎太のお家にお見舞いに来てた子のこと?」
「お?おお、そうそう。あれ?なんで知ってるんだ?えっと、あの日やばかったから祐樹にヘルプだしたら、吉田さんも来てくれたんだ。」
「あ、えっと。その、たまたま慎太のお家から女の子が出てきた時に鉢合わせて、少しお話した時に聞いたお名前がたしか吉田さんだったから、その子の事かなって思って。」
「おお!そうそう!その吉田さん!じゃあ尚更ハードル下がったんじゃないか?」
「そう・・・だね。」
ん?何だか歯切れが悪い。何だ?
「えっと、何か気になることあったりする?吉田さんと何かあった?」
「えっと、ううん。何でもないよ。」
何でもないって表情じゃないだろ。何だろう、少しモヤモヤしてきた。
「何でもなくないだろ。嫌なら嫌ってはっきり言ってくれていいし。ちゃんと言ってくれよ。」
「・・・!!嫌じゃないよ!嬉しいって言ってるじゃない!」
いや、逆切れされても・・・。
・・・いや、違うな。俺ら1年間、ちゃんと顔を合わせてこれなかったんだ。恋人同士になる前の、あの頃の距離感に戻したい俺の気持ちばかりを優先させて、また見失うところだった。
「いや・・・悪い。柚葉に喜んでもらいたくて、誘ったんだけれど、あまり乗り気じゃなさそうだった気がして、ごめん。変に焦っちまった。」
「あ・・・私のほうこそごめんなさい!!慎太に強く言える立場じゃないのに。・・・その・・・違うよ?慎太に誘われて、すごく、すごく嬉しいよ?」
「お、おぉ、そうか。いや、じゃあ、どういうこと?」
「・・・いや、別に・・・それは、ホントに何でもなくて・・・」
・・・ああ、なるほど?そうか、これかもしれない。ずっと一緒にいた時には気が付けなくて、1年間離れてしまった時期があったからこそ・・・今ならわかる。これが原因だ。
「・・・柚葉、一つ、約束しないか?」
「約束?」
「そう。これから俺たちの間で“何でもない”を無くさないか?」
「えっと・・・?」
「俺たちさ、ずっと一緒にいたから、言葉が無くてもお互い分かり合ってるって、話さなくても大丈夫って、多分、大事なところ怠けてたんじゃないかなって思ってさ。」
柚葉がハッとした顔で俺の事を見ている。
「もちろん、思ったことを全部言わなきゃダメとかじゃなくてさ。ホントは伝えたかった事、伝えるべきだと思った事はなるべく怠けず言葉にする努力をしないか?」
「・・・」
「多分、それがなかったから、環境が変わってすれ違ったんだよ。お互い分かり合ってるって怠けたんだ。本当はちゃんと話し合って、お互い納得するまで向き合うべきだったんだよ、この前の喫茶店での時のようにさ。」
「そう・・・だね。そうだよね。うん・・・。慎太、改めてだけれど、本当に、本当にごめんね。わたし頑張るね。」
「おう。ちゃんと話していこう。それと、大丈夫だから。そんなに謝るなって。あと、俺に言える立場じゃないとかもやめてな?そんな感じで気を使われたくない。悪かったと思うのであれば、尚更やめてほしい。」
「・・・うん。わかった。それも約束するね。ありがとう。」
「よし!じゃあ気を取り直して。・・・で、さっきのは?」
「っう」
「う・・・———うどん?」
「・・・バカ。その・・・可愛い女の子だったなって・・・。」
「うん?」
「吉田さん、可愛い子だったなって!」
「うん?え?いや、可愛い・・・な?学校でも人気だぞ?」
「え・・・えぇ?これ、伝わらないの?慎太って女の子の気持ちこんなにニブチンだったけ・・・?」
「あれ、ディスられてる?く・・・弾除けがいないと、被弾するな。」
「えっと・・・だから・・・その、私は今でも慎太のこと・・・」
「あー・・・あぁ、なるほど。その・・・ゴメン。柚葉。さすがに柚葉が言いたい事わかったよ。わかったけど・・・俺、恋愛は・・・。」
「・・・!!う、ううん!私のほうこそゴメン!大丈夫、わかってるから!もう、だからお話、濁してたのに。」
「ぐっ。そう言われると空気読めてなかった気がする。」
「・・・ふふふ。まあ、そこでいうと私も慎太の気持ち、ちゃんと汲み取れてなかったからドローだね」
「引き分けか・・・!!次は勝つ!」
「何に勝つの?」
「そりゃ、空気の読めなさだろ。」
「ダメなやつだよ・・・それ。ふふふ!」
「はは、ちょっと恥ずかしくなってきたわ。」
良かった。少しは近づけたみたいだ。
「それじゃあ、ライブに来てくれるかな?」
「いいともー!」
「古っ!」
「言わせたの慎太でしょー!」
まだ、お互いに遠慮は感じる。だけど、今日の所は大金星だろ。昔みたいに、傍にいるのが当たり前っていうのとは程遠い。ぎこちなさだって完全に取れたわけではない。だけど、それはそれだ。一つ一つ進めればそれでいい。
皆さん笑っていいともって知ってます?子供の時に見た事あるかしら?あ、ない?そう?ジェネレーション、ジェネレーションのギャップかしら。




