肉食系男子と女子
私は控えめに言っても、中流家庭の下の中あたり出身で、学生時代もパッとせず、今はしがない中小企業の事務として働いている。
この世に生を受けて26年間、スポットライトを一切浴びたことがない脇役人生だった。むしろ裏方、という言葉が似合う。
しかしこの度、なんの因果か、超上流家庭のタカユキくんからデートのお誘いを受けた。
なんでも、貴族だか華族だかの血を引いてるらしく、清潔だし、白とか淡いピンクとかの色使いのファッションを着こなしてるし、言葉遣いはマナー教室の参考書かよってレベルだし、歯が真っ白だ。
このチャンスを掴まねば、私はずっと舞台袖で照明装置をいじって人に光を当てるだけの人生が待っているだろう。
男子のハートを射止めるためには、まず化粧だな。
化粧なんてほとんどしたことがなく、メイクの動画配信を見ても、目のきわきわの部分に細い筆でラインを描いてるのを見て驚愕した覚えがある。
あんなデリケートな部分に塗料をぬりたくるなんて、狂気の沙汰だ。
慣れない事を動画のままやるよりも、少しはオリジナリティ入れたほうがいいかもしれない。
結局、個性をみてもらうことが大事だしね。
ちょっとインドテイストの化粧にしてみよう。オリエンタルムードってやつだ。
あと、服装は彼の育ちにあわせて、ちょっと高貴な感じがいいのかも。
しかし、これだけでいいのだろうか?
確実に、彼の気持ちを掴む裏技はないだろうか。
よし……。ここは恥をしのんで、学生時代に男性とのお付き合いにばかり労力を割いていた、メグミに相談してみよう。
「君の振る舞いを見ていると、男をとっかえひっかえとは、このようなことかと、よく考えさせられたものだよ」
「失礼な」
「で、さきほどの男性のことなんだけど、どうすれば心を射止められるだろうか?」
「ま、ひとまず男なんてさ、アッチ方面ばっかに頭いってんだし、肉食系で振る舞ったらどう?」
なるほど。
ここでいう肉食とは、肉体関係のことだな。
よし、準備は万全だ。
明日のデートで私の人生は変わるぞ。えいえいおー。
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いや、本当だって。
マジで、ディズニープリンセスかっつーような、ドームになってるタイプのスカートのドレス着てきてさ。
肩のとこ、丸くなってんだぜ?
あーあと、メイクがさ。
なんかしらねーんだけど、額に第三の目みたいなの書いててさ。
「それなに?」って聞いたら、「カルマを焼く目です」って何だよそれ?って感じの回答で。
え?
今はさすがに、そんな事はしてないよ。
家では普通に振る舞ってるよ。
結婚の決め手?
うーん……。
レストランで初めて食事した時、お互い、肉好きだったっていうか……。
かな。
***
「なにか食べたいもの、ある?」
「肉!! あ……違くて……すみません……」
「え?」
「えっと……。テリーヌを少々……」
「ぷっ! ねぇ、肉が好きなの? 俺も肉、好きだよ」
「ほんと?」
「一緒にたべよ」
「うん!」