第一話:奇跡の人
・多次元情報発光球体、通称 : オーブ。
発光する色によって内封される情報が異なる。
場所と時間を問わず発生する。
発生に際し、何らかの兆候が観測される模様。
「にいさま、朝ですよ。起きてください。にいさま」
耳に心地よい音色の、歌のような響き。
俺こと、岸 守にとって、忍耐の時間がまた始まる。
朝になると、同い年の姪っ子が寝ぼすけの俺を起こしに来てくれる。それも毎日。
このリア充が。と唾を吐きかけたい人、ちょっと待ってもらえるか?
この姪っ子、どこのお姫様? と首をかしげたくなるくらい綺麗で美しくて凛々しくて、触れたら壊れてしまいそうなほど細いのに、その存在感は思わずひれ伏してしまいそうになるくらい。
長く艶やかな黒髪。
切れ長でありながら、優しげな印象の瞳。
細い手足と括れた腰。
凛とした涼やかな印象でありながら、俺に対しては世話焼き女房みたいに接してくる。
何もかもが俺の好みなんだが、知り合ってまだ一年。
しかも、兄の娘。つまり姪っ子だ。
どれだけ惚れ込んでも、手を出すわけにはいかない。責任取って結婚するとかできないし。
そもそも、『同い年の姪っ子』という段階でおかしいと思う。
そこら辺含めて、順繰りに説明していかなきゃならないと思う。
今から30年ほど前、多次元情報発光球体、通称 《オーブ》と呼ばれる光る球体が発見された。
26年ほど前の、当時俺が15歳だった頃に、死に至る不治の病に冒されていることが発覚した。
そして、《オーブ》によってもたらされた情報・技術により、コールドスリープが可能となっていた。
それにより、当時は不治の病でも、研究が進んだ未来ならと希望を託し、眠りにつくことになった俺。
それからは、病気の研究と治療法の確立に25年もの月日が流れていた。
それだけ時間が経てば、兄は結婚して子どもがいるし、父は記憶の中の祖父と同年代になっているし、祖父は、既に鬼籍に入っていた。
また、25年もの間コールドスリープで眠り続けた俺は、一時期『奇跡の人』とか言われて、マスコミやあやかりたいという病気の人が病院や病室に押し寄せたりして大変だった。
それらは、国や病院の後ろ楯になっていた《賢人会》によって火消しがされて、ネットに流れた情報も完璧に処分されたと聞く。
そのため、《賢人会》には返せないほどの恩があるわけだが、医師とは違うっぽい研究者じみたジジイどもが「人体実験じゃっ!」と認可の降りていない試薬を無理やり飲ませたり、試作の医療用ナノマシンを勝手に血中投与したりしていて、正直《賢人会》にはいい印象がない。
せめて臨床試験と言えや。
そんな感じで、過ぎ去った時間と変わった環境に戸惑いつつリハビリをこなしていたある日、記憶の中の父そっくりに年を取った兄を名乗る男性とその伴侶の女性、外見は好みどストライクの姪っ子の三人と顔を合わせることになった。
25年も氷漬けで寝ていたにしては、1ヶ月でリハビリは終了。親子ほど年が離れてしまった兄を頼り、懐かしい日本家屋へと帰宅して、今に至る。
……至る、までには、まだたくさんの紆余曲折があったが、寝覚めてから帰宅するまでの話はこんな感じだった。
「にいさま、そろそろ起きてくださいませんと。朝ごはんをゆっくり食べる時間がなくなってしまいますよ? それとも、体調が優れませんか?」
いや、あのね? きみの声聞きながら布団越しに優しくトントンされると、むしろ眠くなるんだよね。
「いや、体調は悪くないから、起きるよ。おはよう、刀華」
「はい、おはようございます。にいさま。今日のお味噌汁は、私が作ったんですよ」
「そっか、そりゃあ楽しみだ」
寝ぼけまなこをこすりながら挨拶すれば、満面の笑顔を浮かべる美しい少女。
毎朝木刀を振り、体を鍛えることに余念がない姪っ子は、既に汗を流した後なのか、長く艶やかな髪はしっとり濡れているようで、いつにも増して魅力的だ。
好き。愛してる。一目惚れだった。
……しかし、兄の娘である姪っ子と叔父とでは、法律上結婚できない。
触れてしまえば、きっと我慢できなくなる。身内だからか、距離感の近い同い年の姪っ子相手に、ドキドキ悶々としながらも、決して気づかれてはいけない想いを胸に秘めて、今日も気だるげに1日を始めるのだった。
・オーブの色
赤 : 純粋なエネルギー。《オーブリアクター》の主原料となる。
青 : エネルギーを込める器になる。《オーブリアクター》の本体になる。
黄 : 物質を混ぜることで、上位物質ないし別物質に変化する。《怪人》のボディや変身スーツの武器・装甲などに利用される。また、現存する物質を大量に発生(例えば、金1キログラムから1トンへ増幅など)させることもできる。
緑 : 《賢人会》が求める情報の集合体。現在利用できるものが多い。
灰 : 利用不能な雑多な情報。《赤》と違い、変換効率のよくないエネルギー体。通称カスオーブ
黒 : 《賢人会》が提言する、触れてはいけない禁忌。24時間ほどで消滅するため、禁忌に触れないよう慎重かつ厳重に保管することが求められる。
他の色 : 現在においても調査中。




