第08話 プレイヤーと初めてお話します!!
「アナタがイズミね?自己紹介でバズった。」
初対面なんだし『さんを付けろよデコ助野郎!!』と一瞬思ったが、彼女の風貌や口調から不遜な態度でいるのが自然だとも思ってしまえる。
彼女は背はわたしより少し低いくらいだけど胸はそこそこ。顔立ちはかなり幼い童顔な感じでブロンドの長い髪をツインテールにして、全体的にふんわりとした。貴族を思わせる赤いドレスを着て頭には金色のティアラを載せている。
「ああ、ごめんなさい。あたしはショウ。よろしくね。」
唖然とした感じで様子を見ていたら、女の子の方からショウと名乗った。
「こちらこそ。わたしがイズミで、今寝てる子がパートナーのクロエですよ。」
「寝てると言うか、さっきからビクンビクンって震えながら喘ぎ声漏れてるのは気のせいかしら?」
わたしはショウさんと話しながらも、クロエの髪をなでる手は休めていない、
ゆっくりと髪の流れに沿ってなでる度に、クロエは喘ぎ声を漏らしつつ体を震わせている。
「ごめんなさい。クロエの髪なでるの気持ちよくて、ほとんど無意識で。」
「謝らなくてもいいわ。すごくかわいいし。」
両手を両頬に添えて顔を赤らめながらもじもじしだすショウさん。
「でね!」
ひとしきり自分語りした後、突然ズイっとわたしに顔を近づけてきた。
「アナタに声かけたのは、こんなかわいいメイドタイプのパートナーでどうやって依頼を攻略してるの?ってとこなのよ!!アナタも特に戦えるってワケでも……ないわよね?」
ショウさんが求めるのは『#はじめまして』チャンネルで危惧されていた内容だった。
「ん-……特に攻略ってのは考えてないですよ?ゆっくりでもいいからクロエと二人で頑張ろう!って思ってるし、ウェイトレスとかのバイトもかわいい衣装着れたりして面白そうだし。」
「え?攻略……してないの?」
わたしの回答に左手で口を覆って驚きの表情を見せた後、クロエが足を伸ばしている反対側、わたしの隣に空いているスペースに腰かけてきた。
「うん、はじめたばかりでよくわかってないのもあるけど、このクロニクル・ワールドって決まった『目標』ってのが無い気がするんだよね。何にも縛られなくて、何でもできる……だからわたしはわたしがやりたいこと……『クロエと一緒に楽しく過ごしながら、かわいい衣装を集める』を目標にしてるんだ。」
「かわいい衣装!!いいよね!!うんうん、すっごくよくわかるわ。なんだかアナタとは気が合いそうね。うふふっ」
ショウさんがわたしの右手、クロエの頭を撫でている手とは反対の手を両手で握りながら目をキラキラさせている。
その間にも、わたしの眼下ではクロエが「あんっ……んんっ……」と小さく喘ぎ、身を震わせている。
「それで、どんな服持ってるの?今着てるのってアバターメイキングの時に選べるデフォルト服よね?」
「まだ始めたばかりだから何も……。あ、でもさっき『和風メイドの着物ワンピ』ってのを買ってみたよ。」
「あー、あれね?あれは『夜羽ショック』前のだからちょっと質感とか作りが昔っぽい感じだけど、かわいいのは間違いないわね。」
なんだか聴き慣れない単語が出てきた。
「夜羽ショック?」
「転生モンスターシリーズ第一期の第一弾『転生ナイトフェザー』が出た時、衣装の質感が飛躍的に向上して、パートナーをはじめNPCのAIが刷新されてより人に近い表情とか仕草とかするようになったのよ。」
「へぇー、そんなことがあったんだ。」
他にもショウさんは色々と『クロニクル・ワールド』について教えてくれた。
夜羽ショック以降も度々衣装やアバターモデリングの質感が上がったり、AIの刷新も何度か行われた結果『クロニクル・ワールド』が『VRセカンドライフ』として採用されるクオリティにまでなったらしい。
「んっ……んんっ……」
ショウさんと話している内に、クロエが目を覚ました。
「あ、クロエおはよう」
「はうぅ、ご主人様、寝てしまってごめんなさいー」
クロエは謝りつつ体を起こす。
「いいのよクロエ、わたしが無理させちゃったんだし」
涙目になっているクロエの髪をそっと撫でてあげる。
「アナタたち、ほんと仲いいわよねー。ねぇ、攻略Wikiのパートナーのとこは読んだ?」
わたしとクロエのやり取りを微笑ましい感じで眺めながら、ショウさんが質問してきた。
「はい、読みましたよ。みなさんすごく考察されてますよね。特に騎士タイプのとことか情報量も多かったですし。」
「そうね……大体の人はパートナーのこと、攻略のための駒、護衛、便利な使用人やATMみたいに思ってるの。もちろん悪いことじゃないんだけど、所詮はNPCと同じようにAIが動かしている仮想空間内のモノ……って認識の方が多数を占めるわ。」
確かにわたしも攻略Wiki読んだ時には強いパートナーだったり便利なパートナーだったりが欲しいと思った。
さっきショウさんが話してくれた新しいガチャパートナーのことも気になるけど……
「でも、アナタはクロエを一人の人間として、ホントに『パートナー』として見てるような気がするわ。」
ショウさんの言う通り、クロエと触れ合っているとクロエがAIであることなんて忘れてしまう。
幾度にも渡るAI刷新の賜物なのだろうか、クロエの言動はプレイヤーと区別がつかない。
「うん、『クロニクル・ワールド』を始めてクロエに出会って、まだ数日だけど一緒にいてすごく楽しいし」
リアルの方で、最後に付き合った彼女と別れて40年近く、久しく忘れていた感覚が蘇ったかのようだ。
できれば主従の関係じゃなくてもっと……
「その気持ち、わかるわぁ。ねぇアナタ、あたしのフレンドになってくれない?」
ショウさんは立ち上がり、わたしの方を向いて手を差し伸べてきた。
「はい、こちらこそよろしくお願いします」
わたしとクロエも立ち上がって、わたしはショウさんの手を握り、クロエは笑顔を浮かべつつ頭を下げた。
「これでフレンドね、それじゃまた」
「また色々教えてくださいね、今日はありがとう」
『クロニクル・ワールド』で初めてできたフレンドの背中を、人混みに消えるまで見送った。