第07話 かわいい衣装を買ってみます!!
午後になって、わたしはクロエと一緒に南大通りに繰り出した。
目的はもちろん、かわいい衣装!!
「でもご主人様。衣装買うならクローゼットも欲しいですね。」
「あー、そうだねぇ。でもGoldの方はないんだよねぇ」
NPCの家具屋で売られているものはGoldで取引される品物に対し、今はジュエルがそれなりにあるもののGoldは変わらずゼロのまま。
普通は課金通貨であるジュエルの方が価値が高いんでしょうけど、戦えないわたしにとっては価値の逆転現象が起こっていた。
「ガチャ産の家具ならジュエルで売ってると思いますし、衣装以上にハズレ扱いなので結構安いはずですよ。」
並んでいる露店を見ていくと価値が高い順に、パートナー>ライドパートナー、越えられない壁があってヘアカタログ、さらに大きく下がって衣装>家具>消耗品、と言った感じ。
衣装の中でも種類によって価格差があって、特に女性用の靴下類が異様に高く、ヘアカタログに迫る、もしくは超えているのもあるのが印象に残った。
「ねぇクロエ、なんか靴下異様に高くない?」
「それはですね、靴下は下着とセットになってるからです。かわいい下着とセットになってる靴下は人気が出てしまって高くなっちゃうんですよ。」
と言うことは、下着が欲しければ靴下を買うしかないってことか。
「ん-……クローゼットってのもなかなかないねぇ。」
「ガチャ産の家具は、そのガチャのテーマに沿った家具が多い感じなので……っと、ありましたよ?これなんてどうでしょう」
クロエが指したのは、クローゼットと言うよりかは和風の衣装箪笥。お値段は5ジェエル也。
幅150cmほど、全体的に重厚な木目調をしていて、二段の引出しの上に観音扉があり、観音扉の中に衣装をハンガーでかけられるくらいのスペースがあった。
その衣装箪笥が置いてある露店は、他にも和風な階段箪笥であったり、和風なちゃぶ台であったり、和室っぽい壁紙、畳の床と言ったものを並べている。
「なにこの和風特化露店」
「ガチャがいっぱい回されるようになったのって転生モンスターシリーズ第一弾が出てからなので、それより前のこの和風ガチャのがよく残ってましたと思いますよー」
クロエが薦めてきた衣装箪笥は、見た感じかなり高級っぽい外観をしていていい感じではあるんだけど、部屋のバランス的にちょっと浮いちゃうかも知れない。
いっそのこと壁紙と畳の床も買って完全に和室にするのもアリかなぁ。
「でも和室にしちゃうとベッドとかのバランスもあるし……うーん」
「でしたら、マイルーム拡張チケットで和室を作るのはどうでしょ?ちょうどこの露店に売ってますよ。」
と言いつつ『全品1ジュエル』と書かれた札がつけられたハズレ消耗品ワゴンセールの中から、一枚のチケットを取り出して見せてくれた。
クロエが言うには、この『マイルーム拡張チケット』のIDタグをコンソールで読込むことでマイルームの部屋数を増やすことができるらしい。
「増築して壁紙と床を和風にすれば、この衣装箪笥がいい感じになるかな?」
「はい、和室は和服系着て撮影する時のスタジオにもいいですし、すっごく映えると思いますよー。」
わたしはクロエの提案に頷く。
「うんうん、いいねそれ。他にも衣装に合った部屋作るのも面白そうだし。」
「それでは一式ここで買ってしまいましょう。家具は値札についてる引換券を店番のゴーレムに渡すといいですよー。」
クロエに促されて家具の引換券をホルダーから抜き取っていく。
まず和風の壁紙、畳の床、あとは衣装箪笥の引換券を二枚。
それにワゴンからマイルーム拡張チケットを確保。
「ここで売ってる衣装も買っちゃおうかな、これかわいいし。」
わたしが指したのはフリルエプロンが付いた丈の短い桃色の着物風ワンピース。
「ご主人様、これもかわいいですねー。」
「でしょでしょ?クロエにも似合うと思うよ?この『和風メイドの着物ワンピ』」
と言うわけで、着物ワンピと着物に合いそうな白い足袋、白いフリルカチューシャをそれぞれ二つずつピックアップ。
家具類の引換券にマイルーム拡張チケットと一緒に店番している露店ゴーレムに手渡す。
「えぇー!?そんなクロエになんていいですよー。」
「和室の家具も整えて、クロエとお揃いで撮影したいな。ね?いいでしょ?」
「ふぇっ!?そ……そんな……ご主人様ぁ」
胸の前で手をもじもじさせながら、耳まで赤くしてうつむくクロエ。もうかわいい。
周りに人がいる中、わたしももう我慢できずにクロエの髪をなでる。
「ん-、クロエかわいいかわいい!絶対一緒に撮ろうね!」
「ご主人しゃまぁ、やめてくださいよぉ」
わたしはクロエの体を引き寄せて髪をなでながら、お買い物の決済を進める。
決済端末の案内に沿って操作している内に『ゴーレム配送サービスを利用する』と言うチェックボックスがあったのでチェックを入れておく。
さすがに重くて大きい家具類を手で運べないし、こういうサービスがあって正直ホっとした。
一通り決済を終えると、何やら周りがざわざわしてることに気づいた。
左手の方を見ると、顔を真っ赤にして蕩けた表情のクロエが足をガクガクと震わせていて、クロエの姿に惹かれた人たちが周りに集まっている。
「あれってイズミちゃんとクロエちゃん?」
「クロエちゃんすごいことになってるけど、野外プレイ?」
「髪なでてるようにしか見えなかったが……」
「すごくエロい……かわいい。」
と言うような会話が集まってる人たちから聞こえてくる。
もしかして、挨拶とツイで結構知られちゃった?
「クロエ、行こ?立てる?」
「はぁ……はぁ……あんっ……ご、ご主人しゃまぁ……」
顔を真っ赤にしたクロエが上目遣いでわたしにしがみついてくる。
ちょっとすぐには歩けなさそうね。
「抱き上げるよ?ちゃんとつかまっててね。」
わたしがしゃがむと、クロエはしがみついていた両手をわたしの首に回してくる。
周りからは「おおー」とか「キマシタワー」とか「あら^~」とかの声が上がる。
クロエが安定したことを確認し、お姫様抱っこで一気に立ち上がると、「おおっ!」と歓声が上がった。
「ベンチで休もう。ごめんなさい、通りますよー、ちょっと通りますよー」
わたしはクロエを抱き上げて、人混みをかき分けつつ、噴水横のベンチへと向かった。
ぐったりしてるクロエをベンチの背もたれに預け、わたしもベンチに座ってクロエを膝枕で寝かせると、すぅすぅと寝息を立てて眠り始めた。
寝ているクロエの髪をなでてあげると、時折ビクンと体を震わせて反応するのがかわいらしい。
「ちょっとそこのアナタ!」
しばらくクロエの髪の感触と反応を楽しんでいると、わたしの正面から唐突に両手を腰に当てて仁王立ちしている女の子から声をかけられた。