007・教会
アーディスカは、真っ白な灰になってしまった。
(う~ん)
なんだか1人にして欲しそうだったので、僕はその間、ちょっとした小遣い稼ぎに勤しむことにした。
「癒しの光」
ピカッ
美しい回復光が、冒険者の腕を照らす。
「おぉっ、この間、魔物にやられた傷が治ったぜ! ありがとな、坊主!」
彼は笑った。
そして、僕の手の中に、チャリンと1枚の硬貨を落とす。
これは、ゴル硬貨という物らしい。
どうやら、1ゴルが100円ぐらい。
それで僕は、1回5ゴルで、冒険者ギルドにいる傷ついた冒険者たちを回復してやっているのだ。
あ、ちなみに受付嬢フランに話して、ギルドの許可は取っているからね。
そんな訳で、僕は怪我をしている冒険者たちの間を回っていく。
ピカッ チャリン
ピカッ チャリン
30分ほどで、僕の手元には12枚の5ゴル硬貨が集まった。
(6000円か)
なかなか、いい商売じゃないか。
もしかしたら『回復魔法』が使えるだけで、仕事には困らないかもしれないぞ、ふふっ。
ポケットを重くして、僕は満面の笑みだ。
そうそう、小遣い稼ぎをしながら、実は、みんなから情報収集もしてみたんだ。
具体的には、アーディスカについて。
本名アーディスカ・グリント。
彼女の年齢は19歳で、3ヶ月ぐらい前にこの街を訪れ、冒険者登録をしたばかりの新人なのだそうだ。
同時期に登録したのが、ジャンとリジット。
その縁で2人とパーティーを組んで、昨日まで一緒に活動していたそうだ。
剣の腕は、良い方らしい。
「多分、どこかで剣を習ってたんじゃねえのかなぁ」
とは、先輩冒険者のお言葉。
(ふ~ん)
とはいえ、まだ新人なので安全な『採取クエスト』を受注して、冒険者としての経験を重ねている最中なのだそうだ。
なるほど。
そんな中、昨日は、たまたま強い魔物に遭遇して死にかけた……と。
そして本日、まさかのパーティー解散。
まさに人生、山あり谷あり、だね。
視線を向ければ、食堂の隅に座っているアーディスカは、まだ落ち込んだ顔をしていた。
(…………)
僕は、彼女の隣の椅子に座る。
「大丈夫?」
僕の声に、彼女は少し顔をあげた。
こちらを見て、
「……あぁ」
と無理をしたように笑った。
それからアーディスカは大きく息を吐くと、自分の頬を両手でパンッと強めに叩く。
(わっ?)
びっくりした。
「心配かけてすまなかったな、アオイ」
ううん。
「私は、これから、この町の『ケチャレリオ教会』に行こうと思うんだが、アオイも一緒に来てくれないか?」
と言われた。
(……ケチャレリオ教会?)
知らない名称に、僕は、コテンと首をかしげてしまった。
◇◇◇◇◇◇◇
僕とアーディスカは、教会へとやって来た。
あまり大きくはないけれど、真っ白く綺麗な建物で、参拝する人も何人か集まっていた。
裏には、庭園もある。
そこには、子供たちの姿もあって、
「このケチャレリオ教会は、孤児院もやっているんだ。そこでアオイのことも相談しようと思ってな」
と、アーディスカ。
(……あぁ、そっか)
まぁ、当たり前の話だ。
命を助けられたとはいえ、見知らぬ子供を、いつまでもアーディスカが養っていく必要はないだろう。
特に彼女は、パーティー解散したばかり。
1人ではクエストを達成するのも困難になるし、経済的にも不安定になるかもしれない。
(別れの寂しさは、少しあるけど……)
でも、彼女の判断は正しく、決して間違っていないと思えた。
まぁ、僕には『回復魔法』がある。
孤児院暮らしになっても、いくらでも何とかなるだろう。
ギュッ
アーディスカの手が、僕の手を握る。
「さぁ、中に入ろう」
「うん」
僕は頷いた。
ふと見上げると、アーディスカが、なんだか申し訳なさそうな顔をしているのが印象的だった。
◇◇◇◇◇◇◇
教会のシスターとアーディスカが話をしている。
その間、僕は礼拝所の長椅子に座って、それが終わるのを待っていた。
「…………」
礼拝所には、正面に女神像があった。
ケチャレリオ、という神様らしい。
この世界では一番信仰されている神様なのだと、隣にいた巡礼者のお喋りなマダムに教えてもらった。
(う~ん?)
どことなく、僕の出会った幼女神様に雰囲気が似ている気がする。
気のせいかな?
チラッ
周囲へと視線を向ければ、みんな、女神像へと祈りを捧げている。
僕の前世は日本人。
周囲に合わせて、なんとなく僕も手を合わせ、目を閉じた。
…………。
しばらくして、目を開ける。
すぐ目の前に、真っ白な空間が広がっていた。
(え?)
「――やぁ、久しぶりだね、アオイ」
声がする。
ポカンとしながら視線をあげると、空中に、あの幼女神様が微笑みながら浮かんでいた。