026・深層
僕らは、樹高20~30メートルはある森の中を進んでいく。
ここは『深青の森』だ。
現在は、まだ浅層部で、ここからもっと奥深くに行った深層部に目的の『迷宮』があるそうだ。
これまでの『迷宮攻略隊』の活動で、すでに位置は判明している。
周辺の森では、Cランク以上の魔物も多く目撃され、迷宮内部は、およそ3階層の構造体になっているとの情報だ。
でも、彼らは『迷宮の最奥』までは行けなかった。
階層が深くなるほど、魔物が強力になり、行く手を阻まれてしまったらしい。
(なかなか手強そうだ)
馬上で揺られながら、そう思う。
30名の騎士たちならば、それも突破できるだろうか?
(そう期待するしかないか)
その『迷宮攻略』が『勇者の試練』だったとしても、さすがにアーディスカ1人でどうこうできるとは思えない。
しっかり、アーディスカを手伝ってもらわなければ。
…………。
樹々の葉の隙間を抜けて、木漏れ日が差し込んでいる。
その景色の中を、僕らは進む。
その道中、周囲にいる聖王騎士たちからのアーディスカに向けられる視線を度々感じた。
(…………)
直接は何も言わない。
けど、時に目は口ほどに物を言っている。
勝手なアオイ翻訳だけど、彼らの視線は、こんな感じだった。
『あれは、前に騎士団にいたアーディスカじゃないか?』
『隊長の妹?』
『なぜ、ここに?』
『少年少女を連れているようだが、彼女の従者か?』
『いや、彼女はすでに冒険者らしい』
『あの少年の方は、隊長が直々にスカウトしたらしいぞ』
『本当か!?』
『なんでも優秀な《回復魔法》の使い手らしい』
『ほう……』
『では、あの獣人の少女は何者だ?』
『知らん』
『おい』
ってな感じだ。
まぁ、口調はともかく、ニュアンスとしては概ね間違ってないと思うよ。
「…………」
アーディスカも、その視線には気づいている。
けど、何も言わない。
直接、言われなければ、答えることもできないだろう。
唇を引き結び、気丈に前だけを向いている。
(……ふむ)
そんなアーディスカに寄りかかりながら、僕は、心の中でため息をこぼす。
小さな右手を見つめた。
この手で、たくさんの怪我を治してきた。
でも、心の傷と痛みは消せない。
そのことが悔しくて、僕は目を伏せながら、その小さな指をギュッと握り締めた。
◇◇◇◇◇◇◇
起伏のある森の中を、30騎の騎馬が歩む。
騎士たちもそうだけど、元騎士見習いだけあって、アーディスカも馬の扱いが上手だった。
今のところ、騎士団は順調に進んでいる。
(ん?)
町を出発して、半日ほど過ぎた時だ。
唐突に、周囲が薄暗くなったような錯覚がして、森の空気が重くなった。
なんだ、これ?
少し困惑していると、
「森の深層部に入ったんだ」
と、僕の様子に気づいたアーディスカが教えてくれた。
ここからは、大気の『魔素』が濃くなる。
そして、その影響で魔物たちも活性化し、出現する魔物のランクも高くなるそうだ。
(ふ~ん?)
森の見た目は変わらないのに、不思議なものだ。
ポン ポン
アーディスカの手が、僕の頭を軽く叩く。
「大丈夫だ、アオイ。騎士団もいるのだし、私もいる。だから怖がる必要はないぞ」
そう励ましてくれた。
(いや、怖がってはいないんだけどね)
むしろアーディスカ自身が自分に言い聞かせ、勇気を奮い立たせようとしたのかもしれない。
…………。
まぁ、危険なのは間違いなさそうだ。
(気は引き締めておくかな、うん)
そう思った。
その時、アクレリオ兄上の後ろに座っていたニアが、バッと顔を動かし、右手の森を見た。
「ふしゃあっ!」
そう吠える。
(ん?)
全員の視線がそちらに向いた。
次の瞬間、そちらの樹々が揺れ、周辺の草木がガサガサと大きく動いた。
それが、こちらに近づいてくる。
「魔物だ!」
気づいた騎士の誰かが、そう叫んだ。




