022・Bランク魔物
「なかなか順調だね」
今日も『討伐クエスト』を終えて、冒険者ギルドへと帰ってきた僕は、満足そうに呟いた。
ニアが加入してから1ヶ月。
クエスト達成のペースは、今まで以上に跳ね上がっている。
(ニアのおかげだ)
彼女は、Dランクの魔物レッドテイルですら、無傷で倒せるほどの強さだった。
おかげで『討伐クエスト』で苦戦することもない。
その強さには、アーディスカも触発されて、これまで以上にがんばって、どんどんと強くなっているみたいだった。
(ふふっ、いい傾向だね)
このまま良い意味で対抗心を燃やして、もっともっと成長していって欲しいな。
そして、世界を救ってもらいたい。
(うんうん)
その未来を思って、僕は1人頷いた。
「さぁ、アオイ、ニア、食事にしよう」
「あ、うん」
「はい、なのです」
アーディスカに声をかけられ、僕ら3人は食堂へと向かった。
よし、明日もがんばるぞ~!
◇◇◇◇◇◇◇
翌日、『深青の森』でのクエスト中、体長5メートルはある巨大カマキリに遭遇した。
キラーマンティス。
確か、Bランクの魔物だ。
本来、この森の浅層部に現れるようなランクの魔物じゃない。
(これも『迷宮』の影響か)
驚く僕ら3人に、キラーマンティスは容赦なく襲いかかってきた。
『キシャアア!』
「くっ!?」
「速い、なのです!」
ガギィン ガヒュン
振り下ろされた鎌に、アーディスカの盾が激しい火花を散らし、ニアは間一髪で後方へと避けた。
(あれは強いぞ……っ)
素人目でも、それがわかる。
巨大なキラーマンティスに、アーディスカとニアは2人がかりで挑みかかっていく。
けど、それでも押されている。
さすが、Bランクの魔物。
その時、キラーマンティスの鎌がパァッと光り輝いて、それが鋭く振り下ろされた。
「アオイ!」
アーディスカの警告。
(!?)
反射的に『金属の円形盾』を持ち上げたのは、偶然だった。
ガギィイン
凄まじい衝撃。
気がついたら、僕の身体は、大きく弾き飛ばされていた。
(真空波か!)
空中でそれを悟り、地面へと落ちる。
ゴロゴロ
数メートル転がって、ようやく止まった。
(なんて奴だっ)
そう思いながら立ち上がろうとして、自分の右足の膝から下がなくなっていることに気づいた。
え?
「アオイ!?」
「アオイ様!?」
アーディスカとニアの悲鳴のような声が聞こえる。
うぐぐ……。
やってしまったか。
痛みを堪えながら、僕は、小さな両手を血を流している自分の足に向ける。
「癒しの光」
ピカッ
放たれた回復光の中で、失われた足が再生する。
(ふうっ)
それを確認して、
「こっちは大丈夫! ちゃんと支援するから、アーデとニアは、キラーマンティスに集中して!」
そう指示を出した。
2人は頷いて、
「よくもアオイを!」
「もう許さない、なのです!」
怒りの表情で、キラーマンティスへと襲いかかっていく。
(お?)
2人の戦い方が変化した。
さっきまでは個別に挑みかかっていたのに、今は、連携しながら攻撃を仕掛けている。
なかなか良い感じだ。
『キシャアア!』
それでもキラーマンティスは手強くて、2人には合計30回以上、僕自身にも7回も『回復魔法』を使うことになった。
…………。
…………。
…………。
ズズゥウン
やがて、1時間の激闘の果て、僕ら3人はBランクの魔物キラーマンティスを倒した。
◇◇◇◇◇◇◇
(……やばかったな、今回は)
冒険者ギルドに帰った僕は、長い吐息をこぼした。
キラーマンティス。
Bランクの魔物は、本当に手強かった。
これほどの魔物とランダムエンカウントしてしまう現状は、今のアーディスカの実力では、かなり危険だと思える。
いや、それ以前に、
(ぶっちゃけ、僕の方が死にそう……)
正直、事故のように即死してしまう確率は、かなり高そうだった。
やはり『迷宮』か。
根本となるこの原因を取り除かない限り、この問題は解決しないだろう。
迷宮発見から2ヶ月。
内部で取れるという貴重な素材を求めて、腕に覚えのある冒険者たちが『迷宮攻略隊』として日々、挑んでいる。
けれど、いまだ攻略はされていない。
(やはり、アーディスカがやらないと駄目なのかな?)
そう悩む。
もしも迷宮攻略が『勇者の試練』だとすれば、彼女が挑むしかないのかもしれない。
「癒しの光」
ピカッ
「ありがとよ、アオイ」
チャリン
考えながら、『小遣い稼ぎ』に精を出す。
最近は『迷宮』の影響で魔物が増えたせいか、怪我をする『冒険者』も多くなった。
稼げるのは嬉しい。
けど、酷い怪我をしている『冒険者』もいて、このままだと、いつか死人が出てしまいそうだ。
(う~ん)
ピカッ チャリン
ピカッ チャリン
そうして怪我人を全員、治して、アーディスカの元へと戻る。
「お疲れ様、アオイ」
そう笑顔で迎えられる。
僕は「ううん」と首を振った。
それからアーディスカに『迷宮』についての話題を、さりげなく振ってみた。
「あぁ。確かに、これほど攻略が長引くのは珍しいな」
との返事。
(そっか)
ニアは、僕らの話には興味を示さず、魚料理に夢中になっていた。
そんな話をしていると、
「あら、アーデ、アオイ君」
ちょうど休憩に入ったらしい受付嬢フランが、食堂へとやって来た。
「ご一緒してもいい?」
「あぁ」
「うん」
笑顔の彼女も、そのまま僕らと同席する。
(ちょうどいいや)
せっかくなので、僕は、フラン嬢にも『迷宮』の攻略状況を聞いてみた。
すると、
「あまり進展はないみたいね」
と難しい顔だった。
そうか。
でも彼女は、
「まだ内密なんだけど……」
と声を潜めて、
「実は、あまりに『迷宮』の攻略が長引いているから、レイモンドの町議会の方で、聖王都から『聖王騎士団』を派遣してもらうことになったらしいわ」
と、こっそり教えてくれた。
(へぇ、騎士団か)
だいぶ大事になってきたみたいだね。
そう思って、ふと隣を見ると、
「…………」
なぜかアーディスカの顔色が青くなっていた。
……はて?




