021・対抗心(アーディスカ視点)
(アオイの同郷……か)
先日、そう紹介されて、私は1人の獣人の少女を雇うことになった。
少女の名は、ニア。
年齢は、15歳前後だろうか。
同性の私から見ても、なかなかに見目麗しい少女だった。
アオイとニアは、いったいどこの出身なのかと少し気になったが、プライベートなことなので詮索するつもりはない。
姉と弟。
そんな関係かと思ったが、実際は、アオイの方が兄のような感じだった。
(……まぁ、アオイは大人っぽいしな)
それが10歳の子供にとって正しいのかは、悩ましいところだが……。
ニアは、そんなアオイにべったりだ。
アオイは可愛らしい少年だから、その気持ちもわからなくはない。
「…………」
だがその反面、私への視線は、妙に険しい気がする。
……気のせいだろうか?
◇◇◇◇◇◇◇
「にゃっ!」
ヒュカッ ザシュッ
伸ばされた鋭いニアの爪が、目にも止まらぬ速さで、ジャイアントアントを斬り裂いていく。
体液を噴きながら、魔物は倒れる。
これで15体目。
恐ろしい強さだった。
アオイといい、ニアといい、2人の故郷はどんな土地なのかと恐怖を覚えるよ。
一方の私は、まだ7体しか倒せていない。
ニアの半分以下だ。
(……悔しいな)
そう正直に思う。
しかも、私はこれまでに3回も『回復魔法』の支援を受けていた。
ニアは0回だ。
そう、彼女の動きはあまりにも速すぎて、魔物たちの攻撃が当たらないのだ。
これは、獣人との身体能力の差か?
(……いや)
違うだろう、アーディスカ。
これは、明らかな実力差だ。
認めよう――あのニアという少女は、この私よりも強いのだと。
…………。
…………。
…………。
気がつけば、その日の『討伐クエスト』は、いつもの半分以下の時間で終わってしまっていた。
「アオイ様、褒めて褒めて、なのです♪」
ニアが笑う。
アオイも微笑みながら、
「うん。ニア、強かったね。偉いよ」
その小さな手を伸ばして、ニアの茶色い髪を優しく撫でていた。
ナデナデ
ニアは「えへへ♪」と表情を緩めている。
とても気持ちが良さそうだ。
(……私も、アオイに撫でてもらいたいな)
ふとそう思った。
…………。
……って、何を考えているのだ、私は!?
そんな自分自身に驚いていると、アオイが私の方へと歩いてきた。
「アーデもお疲れ様」
笑って、そう労いの言葉をかけられる。
あ……。
向けられた笑顔に、心の奥が温かくなったのを感じた。
「あ、あぁ」
私はぎこちなく頷いた。
アオイの綺麗な瞳が、私を見上げている。
「アーデも強くなったよね。今度からは、もう少し難易度の高い『討伐クエスト』を受けてみようか?」
「そ、そうだな」
目を合わせていられなくて、つい視線を外してしまう。
「? アーデ?」
アオイは不思議そうな顔だ。
コテン
首をかしげる仕草は、とても可愛らしい。
(く……っ)
と、その時、逸らした視線の先にいたニアと目が合った。
「…………」
「…………」
その少女は、どこか勝ち誇った顔をしている。
…………。
なんだ、その顔は?
よくわからない感情が、私の胸の中で渦巻いた。
(負けたくない……)
この少女には、絶対に……。
ギュッ
右手を強く握り締める。
(いいだろう)
確かに今は敵わないかもしれない。
だが、私は必ず、この獣人の少女ニアよりも強くなってみせるぞ!
次のクエストを見ているがいい。
決意を込めて、ニアを睨みつける。
「???」
そんな私たち2人を見て、アオイは、1人キョトンとした顔をしていた。




