002・回復魔法
気がついたら、森にいた。
「転生したのか」
その事実を噛み締めるように、声に出して呟いてみた。
周囲にあるのは、20~30メートルはある樹々ばかりで、どうやら自分は、その1本の根元に座り込んでいるみたいだった。
(1人きりか)
なかなかハードな始まりみたいだ。
そう思いながら立ち上がろうとして、
「ん?」
布の服を着ている自分の手足が、なんだか思った以上に短いことに気づいた。
ペタペタ
全身を触って、確かめる。
「これは、子供?」
推定10歳ぐらいの身体になってしまっている。
なるほど、転生か。
改めて、その事実を味わい、我が身に起きた不可思議な現象を受け入れてしまった。
思えば、前世の記憶も曖昧な気がする。
(ふむ)
これも新しい肉体になったせいだろうか?
いや、構わない。
転生したならば、前世のことは忘れて、今の自分として生きていくことが大切だ。その方が、きっと良い人生を歩める気がする。
(子供、か)
なら、1人称は『僕』でいい。
言動も、今の僕の精神状態に合わせて、幼いものにアジャストしていこう。
…………。
よし。
僕は、現状の『僕』を受け入れた。
差し当たっては、こんな森の中にいつまでもいるのは問題があるだろう。
(まずは、森を抜けよう)
当面の目標だ。
そう思いながら、僕は新しい人生を歩むため、第1歩を踏み出した。
ドグシャ
のだが、慣れない子供の足だったために、目測を誤り、木の根につまづいて盛大にすっ転んでしまった。
(うぐぐ……)
派手に膝を擦り剝いてしまった。
痛い。
傷口から、赤い血が滲んで流れる。
……ん?
それを見ていたら、なんとなく、その傷をどうにかできそうな感覚が生まれてきた。
(これは……?)
その感覚に従って、小さな2つの手のひらを擦り剝いた膝に向ける。
次の瞬間、
「――癒しの光」
言葉は、勝手に口から出た。
同時に、僕の足元には魔法陣が展開され、細い両腕には、光のラインが2~3本、手のひらへと伸びていった。
ピカッ
手のひらが輝く。
その光に包まれた傷口が、あっという間に塞がった。
(おおっ!)
僕は、目を丸くする。
両腕の光のラインと足元の魔法陣が消え、目の前にある僕の膝は、傷1つない綺麗な肌になっていた。
なるほど。
「これが『回復魔法』か」
自らの起こした奇跡に、僕の声は少しだけ興奮に震えていた。