019・とっても強い
「つまり、君はあの『猫の生まれ変わり』なの?」
僕は、そう確認した。
ニアは、
「そうなのです!」
と嬉しそうに答える。
(ふ~む)
ということは、あの時、僕は助けたつもりだったけど、あの『猫』もトラックに轢かれて死んでしまっていたのか……。
地味に、ちょっとショックだ。
「アオイ様?」
不思議そうな顔のニア。
僕が「助けられなくて、ごめんな」とそのことを謝罪すると、ニアは慌てた顔をした。
両手を振って、
「ち、違うのです! ニアは、あの時、ちゃんと助かったのです!」
(え?)
それから教えられたのは、こんな内容だ。
あの時、ニアは無事に助かった。
そして、代わりに死んでしまった人間のことを心配して、神様――つまりケチャ様に、その善良な魂に良き計らいをして欲しいと願ったのだそうだ。
魂の霊格の高い猫は、そういう神との交信もできるらしい。
ケチャ様は、その願いを受け入れてくれた。
けど、
「しばらくして、アオイ様の転生したのが『危険な世界』だと知ったのです……」
獣耳を倒して、ニアは言う。
ニアは、恐れ多くも神であるケチャ様に文句を言った。
ケチャ様は困ったように、
「しょうがないんだよ。神の世界にも、色々と都合があるんだ」
と、おっしゃったとか。
でも、ニアは納得できなかった。
そして、
「だからニアは、神様にお願いして、ニアを助けてくれたアオイ様の力になるために、ニアもこっちの世界に転生させてもらったなのです!」
とのことだ。
僕は目を丸くして、目の前の獣人の少女を見つめてしまった。
(……義理堅い猫もいたもんだね)
ちょっと驚く。
別に、そこまで恩義を感じなくてもいいのだけど、そこは動物ゆえの純粋さかもしれない。
まぁ、気持ちは嬉しい。
それに今更、『元の世界に帰れ』と言ったって、できないだろう。
「えへへ!」
ニアは、誇らしげな顔で僕を見ている。
僕は苦笑した。
それから、
「そういえば、ニアは、こっちの世界に来る時に何か『力』をもらったの?」
と聞いた。
僕が『回復魔法』の力を与えられたように、ニアにも、ケチャ様から何らかの『力』を与えられたんじゃないかと思ったのだ。
ニアは、
「はい! もらいました、なのです!」
元気よく言った。
(おお!)
本当にもらったんだ?
驚く僕の前で、彼女は、思ったよりも大きな胸に、ポンと自分の右手を当てる。
そして、
「ニアは『とっても強い』をもらった、なのです!」
と、笑顔で答えた。
◇◇◇◇◇◇◇
「アーデ、この子も雇ってくれないかな?」
僕は、アーディスカにそう頼んだ。
ここは、冒険者ギルドの食堂だ。
そこで待ち合わせをしていたアーディスカに、僕は、獣人の少女ニアを紹介したんだ。
「どういうことだ?」
アーディスカは、困惑している。
僕は、言った。
「この子は、ニア。僕と同郷の知り合いなんだ。けど、こっちに来たばかりで仕事を探してる」
「…………」
「損はさせないよ? 実力は、僕が保証する」
そう彼女を見つめる。
アーディスカは、僕の隣の少女を見た。
「…………」
そんなニアは、なぜかアーディスカのことを睨んでいる。
(???)
僕は手を伸ばして、
グイッ
ニアの頭を、強引に下げさせた。
「お願い」
そう言いながら、僕も頭を下げた。
そんな僕ら2人を見つめて、やがて、アーディスカはため息をこぼした。
苦笑して、
「わかった。アオイを信じよう」
そう言ってくれた。
よかった。
「ありがとう、アーデ」
僕は、安心して笑った。
それを見て、アーディスカも微笑んでくれる。
「…………」
そんな僕ら2人に、なぜかニアは不機嫌そうな顔をしていて、ずっと黙り込んでいた。
◇◇◇◇◇◇◇
まずは『腕試し』ということで、僕ら3人は『輝きの草原』へとやって来た。
「あ、いた」
草原の中に、黒い兎の群れを発見した。
Fランクの魔物、『ホーンラビット』だ。
数は5匹。
その額からナイフのような角が生えていて、陽光に怪しい光を反射している。
「ニア、行ける?」
僕の確認に、
「はい、なのです」
ニアは余裕の笑みで答えた。
ザッ ザッ
草を踏み分け、1人でホーンラビットの群れの方へと歩きだす。
その背中を、僕とアーディスカは見守る。
いざとなったら、いつでも加勢できるように、2人で備えていた。
魔物の群れも、ニアに気づいた。
ダダダッ
ナイフみたいな角を突き出して、5匹全部が獣人の少女に襲いかかってくる。
ニアの歩みは変わらない。
ジャキン
彼女の両手の爪が、30センチほどに伸びた。
(おっ?)
そして次の瞬間、ニアの立っている地面が弾けて、その獣人の少女の姿がかき消えた。
ドンッ
その重い足音は、あとから聞こえた。
気がついたら、ニアの姿は瞬間移動したみたいに、5匹のホーンラビットの向こう側に移動していた。
ドサッ ドサッ ドサッ ドサッ ドサッ
ホーンラビットたちが倒れた。
見れば5匹とも、その首と胴体が切り離されている。
「!」
アーディスカはその金色の瞳を、大きく見開いていた。
僕も驚いていた。
ニアの爪が、魔物の血に濡れている。
「ふん」
軽く手を振って血を払い落とし、その爪は元の長さになった。
(瞬殺か)
その動きは、まるで見えなかった。
ニアは僕を見て、
「アオイ様! やりました、なのです~!」
そう笑顔を輝かせた。
(なるほど)
僕は頷いた。
どうやらニアは、本当に『とっても強い』を与えられたみたいだ。




