018・獣人少女
「今日も駄目、か」
ふぅ……。
礼拝所にある女神像の前で、僕は大きくため息をこぼした。
前回、ケチャ様に会ってから毎日、拝んでいるけれど、あれから『真っ白い世界』に招かれることは1度もなかった。
(色々と聞きたいこともあったのにな)
でも、相手は神様。
毎日、世界中の人々から祈られている存在で、そうそう僕1人に構ってもいられないだろう。
ま、仕方ない。
(気を取り直して、今日も冒険者ギルドに行って『小遣い稼ぎ』をしてくるかな)
そう思った時、
「アオイ、ちょっといいかしら?」
(ん?)
後ろから、声をかけられた。
振り返れば、そこには教会のシスターがいた。
シスターは、
「教会の方に、アオイに会いたいという人がいらしているのだけど……」
と教えてくれた。
僕に?
(誰だろう?)
アーディスカのことは、シスターたちも知っているので、こんな言い方をしない。
となると、
(もしかして、また『回復魔法』を目当てにした人かな?)
と予想した。
実は、僕が冒険者ギルドで『冒険者』を治しているという話は、少しずつ町に広がっていたんだ。
それを聞きつけ、
「俺の怪我も治してくれ!」
と、教会まで来る人も出始めたんだよね。
今のところ、1日10人ぐらい。
もちろん、お金はもらっている。
中には、教会なので無料で治してもらえると思ってた人もいたけれど、そういうのは相手にしなかった。
1回5ゴル。
対価は、ちゃんと払ってもらうのだ。
ちなみに、収入の半分は、孤児院の運営費に回している。
おかげで、孤児院で出される食事の量も増やせたみたいだし、ちびっ子たちの表情も明るくなったように思う。
シスターたちからも、感謝されたしね。
…………。
そんなわけで、今回もそういう人かと思ったんだ。
なので、
「わかりました、すぐ行きます」
僕は、笑顔で頷いた。
そうして、その待ち人に会うために、シスターに一礼して礼拝所を出ていった。
◇◇◇◇◇◇◇
待ち人は、教会の外の花壇近くにいた。
獣人の少女だ。
年齢は、15歳ぐらいかな?
ボブカットされた茶色い髪からピョコンと獣耳が生えていて、ズボンのお尻からも細長い尻尾が伸びている。
(多分、猫系かな?)
そう思った。
でも、怪我をしているようには見えない。
(……はて?)
内心で首をかしげる。
そんな獣人の少女は、僕を見つけて、その縦長の瞳孔をした薄緑色の瞳を大きく見開いていた。
とりあえず、僕は、そちらに近づいて、
「お待たせしました」
と挨拶した。
その途端、
「アオイ様!」
ガバッ
突然、その獣人の少女に飛びつかれ、思いっきり抱きしめられてしまった。
(おおっ?)
僕は目を丸くする。
少女は、2つの膨らみを僕の顔に押しつけながら、
「ずっと会いたかった! やっと会えました! アオイ様に助けてもらったご恩を、これでようやく返せます!」
そう泣きながら叫ぶ。
ギュウウ……
く、苦しい。
獣人だから、見た目に反して力が強い。
ペシペシ
その腕を必死に叩いて、訴えた。
「あ……」
少女はようやく気づいて、僕を解放した。
(ぷはぁっ!)
し、死ぬかと思った。
呼吸を荒げる僕に、獣人の少女は「す、すみません」と焦った顔で謝ってくる。
…………。
いや、やはり見覚えがない。
けれど、どうも向こうは、僕のことを知っているみたいだった。
う~ん?
「えっと、君は誰?」
僕は、素直に聞くことにした。
ピンッ
少女の獣耳が、真っ直ぐに立つ。
「ニアです!」
そう名乗った。
(ニア?)
やっぱり知らない名前に、僕は首をかしげた。
そんな僕に、ニアと名乗った獣人の少女は、明るい笑顔を輝かせる。
そして、
「ニアは、前世の日本で、アオイ様に命を助けてもらった『猫』なのです!」
と、元気よく告げた。
…………。
……ほほう?
ご覧いただき、ありがとうございました。
もしよろしければ、作者の執筆や更新の励みになりますので、ブックマークや★★★★★の評価などして頂けたら嬉しいです。どうぞよろしくお願いします~!




