015・初討伐クエスト
「はああっ!」
ザキュン
アーディスカの振るった剣が、体長1メートルもある巨大なアリを切断した。
体液を撒き散らして、アリは死ぬ。
けれど、周囲には、まだ8体もの巨大アリたちが残っていて、次々と赤毛の女冒険者に襲いかかっていた。
「せいっ!」
ガシュッ
アーディスカは反撃する。
それでも魔物たちは、怯むことなく攻勢を弱めない。
この魔物の名は、『ジャイアントアント』。
今回の『討伐クエスト』は、『輝きの草原』で繁殖したこの巨大アリたちを駆除することだった。
Fランクのクエストなので、初心者向け。
単体なら、魔物もそんなに強くない。
けれど、ジャイアントアントたちは群れを形成するので、1人冒険者だと難易度が跳ね上がるんだ。
ザキュッ
赤毛をなびかせ、アーディスカは戦う。
1対1なら、彼女は負けない。
けれど、相手は複数なので、次々に襲われて休む間がないのだ。
「はぁ、はぁ」
呼吸が乱れている。
それを見て、
「癒しの光!」
ピカッ
僕は即座に『回復魔法』を使い、失われたアーディスカの体力を回復させる。
彼女の動きが戻った。
けれど、その直後、
(わっ?)
ジャイアントアントの1体が、こちらに襲いかかってきた。
敵が複数いるために、たまに僕の方にも魔物が抜けて来るんだ。
慌てて『金属の円形盾』を持ち上げる。
ガギィン
魔物の牙とぶつかり、激しい火花と衝撃があった。
思わず、尻もちをつく。
「大丈夫か、アオイ!?」
アーディスカの焦った声がする。
僕は立ち上がりながら、
「平気!」
と叫び返した。
(いやいや)
本当に『金属の円形盾』を買ってもらってよかったよ。
つくづく思う。
これまでは、『回復魔法』があるから盾がなくても大丈夫、と思っていた。
けど、違った。
当たり前だけど、魔物の攻撃で失神してしまったり、即死してしまったら、『回復魔法』を使うこともできないんだ。
やはり、防具は大事。
それを心に刻む。
「こっちは盾があるから大丈夫! アーディスカは、魔物を倒すことに集中して!」
「わかった!」
僕の指示に、アーディスカは大きく頷く。
そして、
「はああっ!」
ジャイアントアントの群れに、単身で果敢に挑みかかっていく。
敵は複数だ。
アーディスカは何度も負傷をした。
それを見て、僕もすかさず『回復魔法』を使っていく。
何度も繰り返した。
「ぐ……っ」
ズシャアア
アーディスカは、何回も魔物の攻撃で吹き飛ばされ、全身が泥だらけになっていた。
それでも、彼女は立ち上がる。
何度も。
何度も。
その瞳に、強い光を灯して。
(…………)
僕の目には、そんな彼女の姿が、とても格好良く見えた。
…………。
…………。
…………。
やがて、ジャイアントアントたちは全滅した。
「はぁ、はぁ、はぁ」
草原に座り込んで、アーディスカは肩で呼吸をしながら、天を仰いでいた。
長い赤毛の髪が、汗と泥に湿っている。
僕は近づいて、
「癒しの光」
ピカッ
労うように、美しい回復光でアーディスカを照らした。
彼女の呼吸が整う。
…………。
けれど、その金色の瞳は、ずっと青い空を見上げたままだった。
(アーデ?)
僕は首をかしげる。
すると、
「……初めて……『討伐クエスト』を成功させた」
その唇が、そう呟いた。
それから彼女は、突然、僕を振り返った。
目が合う。
驚いている僕の目の前で、アーディスカは、満面の笑みを咲かせた。
そして、
「アオイのおかげだ、ありがとう!」
ギュッ
彼女の両手で、小さな僕は思いっきり抱きしめられてしまった。
(わっ?)
汗と泥まみれなのに。
でも、アーディスカはそれに気づかないまま、嬉しそうに笑っていた。
…………。
(まぁ、今日ぐらいはいいか)
僕は、小さく笑う。
それから、この小さな手のひらで、そんなアーディスカの背中をポンポンと労うように優しく叩いてやった。




