014・買い物(アーディスカ視点)
「わぁ、盾だ!」
私が連れてきた防具屋で、アオイは、手にした『金属の円形盾』を見て、その綺麗な瞳を輝かせた。
その姿に、私も微笑む。
フランの勧めもあって、私たちが次に受けるのは『討伐クエスト』にしようと思っていた。
今までとは、危険度が違う。
討伐対象となるのは、強力な魔物ばかりだ。
だからこそ私は、出発前にアオイのための防具を買おうとしているのだ。
「へ~?」
ガチャ ガチャン
持っている『金属の円形盾』を上下に動かし、眺める表情は、子供らしい好奇心に満ちていた。
(ふふっ)
大人びたアオイには珍しく、年齢相応らしい反応だ。
それが嬉しい。
今朝、アオイを迎えに『ケチャレリオ教会』に行った時に、教会のシスターからアオイの話を聞いた。
孤児院にいる時のアオイは、我がまま1つ言わないらしい。
それどころか、忙しい大人たちに代わって、幼い孤児たちの面倒を率先して見てやっているのだとか。
しかも、それだけではない。
アオイは、冒険者たちを治して得た報酬の半分を、孤児院に寄付しているそうなのだ。
シスターたちも、彼には深く感謝していた。
(…………)
この子ぐらいの年代なら、まだ親に甘えている頃だろう。
それを思うと、少し切ない。
だからこそ、今の子供みたいなアオイに、私は少しだけ安心してしまった。
「よっ」
ガチャン
小さなアオイが円形盾を構える。
大人用のサイズのせいか、なんだか、まるで亀の子みたいだな。
私は、小さく笑った。
そんなアオイは、冒険者ギルドの『冒険者』たちからの評判も高かった。
1回5ゴル。
ポーションが1瓶100ゴルであることを思えば、アオイの『回復魔法』がいかに破格かわかるだろう。
ギルドの冒険者は、ほぼ全員、アオイの世話になっていた。
いや、
(まぁ、私が一番、世話になっているんだがな……)
コホン
私は、小さく咳払いをする。
そういえば最近、私は、他の冒険者たちから『自分たちのパーティーに加入しないか?』と誘われるようになった。
理由は、アオイだ。
アオイの『回復魔法』は、とても強力だ。
そしてアオイは私に雇われているので、アオイ目当てで、私も勧誘してくるんだ。
正直、複雑な気持ちになった。
だから、今のところ、全ての誘いを断っている。
…………。
もしアオイが『冒険者』になったら、より良い条件を求めて、私の元を去っていくのだろうか?
それも仕方がないことだろう。
だが、それを寂しい……と、感じる自分もいる。
(……やれやれ)
どうした、アーディスカ・グリント?
お前は、そんなにも情けない女だったのか?
自分の弱さに、つい苦笑してしまう。
と、その時、『金属の円形盾』を抱えたアオイが、こちらへとヨタヨタやって来た。
「アーデ」
「ん?」
どうした、アオイ?
私は笑みを返す。
そんな私を見つめて、アオイは少し心配そうな顔をしていた。
「本当にこの盾、買ってくれるの?」
そう聞かれる。
「もちろんだ」
私は頷いた。
ここのところ、連続してクエストを達成している。
金銭的にも、何も問題はない。
「でも、僕は『回復魔法』が使えるんだ。怪我をしても、自分で治せる。盾がなくても問題ないんだよ?」
「…………」
アオイ……。
私は彼の前にしゃがんで、目線の高さを合わせる。
その小さな両肩に手を置いて、
「それでも、私はアオイに怪我をして欲しくないんだ」
「…………」
「どうか、その盾を持っててくれないか?」
その目を見て、伝える。
アオイの綺麗な瞳は、しばらく私のことを見つめていた。
それから頷き、
「うん、わかった。――ありがとう、アーデ!」
そう嬉しそうに笑った。
…………。
その子供らしく無垢な笑顔が、なんだか眩しかった。
つい瞳を細めてしまう。
そして私は、この子はいつか歴史に名を遺す『聖人』と呼ばれるような偉人になるのではないか……ふと、そう思ったんだ。




