013・順調
アーディスカに雇われてから、1週間が経った。
「――よし、これで採取も終了だ」
水辺に生える『ポーションの素材』だという植物を、慎重に引き抜いて、彼女は大きく息を吐いた。
丁寧に布に包んで、リュックに詰める。
僕ら2人がいるのは、『深青の森』だ。
本日のクエストも、これで終わり。
この7日間で、僕らは5件の『採取クエスト』を成功させていた。
見れば、アーディスカの表情も満足そうだ。
(ふむ)
この7日間、各地の採取ポイントでは『格上の魔物』は出現しなかった。
やはり偶然だったのかな?
いや、結論を出すのは、まだ早計だろう。
ちなみに、弱い魔物と遭遇することは何回かあった。
(まぁ、当たり前か)
魔物のいる危険な場所にある素材を採取するからこそ、『採取クエスト』として成り立つのだから。
で、その時に1つ、わかったことがある。
それは、
(アーディスカ、思ったより強いや)
ってこと。
相手は、Fランクの魔物だったんだけど、危なげなく、アーディスカはその魔物を倒していた。
実は、1度だけ、Eランクの魔物とも戦闘があった。
けど、1つ格上のランクの魔物とも、なんとアーディスカは普通にやり合えていたんだ。
う~む。
やはり、才能があるんだろう。
だって、アーディスカは、将来の『勇者』になれる素質の持ち主なんだ。
(まぁ、何回か怪我もしてたけど……)
それでも大したものだと思った。
ちなみに、アーディスカの怪我は、僕の『回復魔法』ですぐに治してやった。
それが僕の役目だからね。
ちなみに僕自身は、怪我を負うことは1度もなかった。
理由は、アーディスカが、僕の方に魔物が行かないように、常に気をつけて戦ってくれたからだ。
そのせいで、彼女が怪我をすることもあったけどね。
(……でも、いい人だ)
その人柄は、やはり好ましく思えるよ。
「さぁ、帰ろう、アオイ」
荷物を詰めて、そのリュックを背負ったアーディスカが立ち上がる。
僕は「うん」と頷いた。
その時、
プカッ
彼女の背後にあった池の水面に、大きな気泡が浮かんだ。
ん?
その水面が持ち上がり、水の中から、毒々しい斑模様をした巨大ガエルが浮かび上がってきた。
(魔物だ!)
気づいた僕は叫ぶ。
「アーデ、後ろ!」
「!」
その警告に、アーディスカが振り返った。
同時に、巨大カエルの口から吐き出された黒い液体が、アーディスカに直撃する。
バシャッ
「ぐ……っ!?」
途端、アーディスカが膝をついた。
苦悶の表情。
握っていた剣が、その手の中からこぼれ落ち、カシャンと乾いた音を響かせる。
(アーデ?)
見れば、その肌に紫色の斑点があった。
それを見て、直感する。
――毒だ。
そう気づいた瞬間、僕の中に不思議な感覚が生まれた。
(あれは『癒しの光』では治せない)
そう感じる。
そして、それとは違う『回復魔法』の存在が心の中に思い浮かぶ。
(よし)
僕は、両手を伸ばす。
足元には魔法陣が展開され、両手の先まで光のラインが2~3本ほど伸びていく。
言葉は、口から勝手に出た。
「清浄の光!」
ピカッ
いつもとは違う青白い光だった。
その美しい回復光に照らされた瞬間、アーディスカの肌にあった紫色の斑点が消えた。
乱れていた呼吸が整う。
アーディスカは驚き、けれど、すぐに落ちていた剣を握った。
「はっ!」
ザキュン
振るわれた剣が、巨大ガエルを真っ二つにした。
2つになったカエルの死体は、水面に血を広げながら、水の中に沈んでいく。
ブクブク
水泡が浮かび、やがて消える。
それを見届けて、アーディスカは「ふぅ」と大きく息を吐いた。
それから、
「助かったよ、アオイ」
そう笑った。
僕は「ううん」と首を振る。
「アオイは『解毒魔法』も使えるんだな。2つも『回復魔法』を覚えているなんて、アオイは本当に凄いな」
感心した顔で見つめられる。
(そう?)
まぁ、神様がくれた力だからね。
ポン ポン
彼女の手が、いつものように僕の頭を優しく叩く。
「さぁ、今度こそ帰ろう、アオイ」
「うん」
僕は頷いた。
そうして僕とアーディスカは、今回の『採取クエスト』を終えて、レイモンドの町に戻ったんだ。
◇◇◇◇◇◇◇
「アオイ君が来てから順調ね、アーデ」
アーディスカから採取品を渡されながら、受付のフラン嬢は、そう笑いかけた。
からかうような口調。
でも、アーディスカは笑顔で、
「あぁ、おかげ様でな」
それを認めていた。
フラン嬢は軽く目を見開いて驚き、それから「ふ~ん?」と何かに納得したみたいに頷いた。
ちなみにその間、僕は、
「はい、癒しの光」
ピカッ
「ありがとよ、アオイ」
チャリン
と、近くの冒険者たちを癒して、せっせと小遣い稼ぎに勤しんでいる。
そして、フラン嬢は、少し考えたあと、
「ねえ、アーデ。もしよかったら、次は『討伐クエスト』に挑戦してみない?」
と言った。
(ふむ?)
聞き耳を立てていた僕も、少し驚く。
クエストのランクは同じでも、『討伐クエスト』は『採取クエスト』より危険であり、その分、より高額の報酬が得られるのだ。
つまり、リスクとリターンが跳ね上がる。
「……討伐クエスト、か」
思わぬ提案に、アーディスカも驚いていた。
その視線が、離れた場所にいた僕へと向けられる。
(…………)
僕は何もわかっていない顔をして、コテンと首をかしげておいた。
決断は、彼女の役目。
僕は、そんな彼女の決めたことを全力でサポートするだけだ。
(きっとその方が、よりアーディスカの成長に繋がってくれるだろうからね)
うんうん。
アーディスカは、しばらく考え込んでいた。
それから顔をあげると、フラン嬢と二言、三言、言葉を交わしてから、こちらへとやって来る。
「アオイ」
ん?
「明日はクエストには行かない。だが、すまないが明日1日、アオイは私に付き合ってくれないか?」
そう言われた。
(別にいいけど、なんで?)
僕は首をかしげる。
そんな僕に、アーディスカは金色の瞳を細めて、微笑む。
そして、
「明日は、アオイのための装備を買いたいんだ」




