012・雇用
「これで契約完了だね」
そう笑って、僕はアーディスカに差し出されたお金を受け取った。
冒険者ギルド2階の食堂である。
昨日、アーディスカのあとをつけて行って、レッドテイル討伐を手伝ったことで、彼女も僕を雇うことにしてくれたんだ。
(500ゴル、か)
日本円にして5万円。
まぁ、こんなものでしょ。
これで1ヶ月間、僕はアーディスカに雇われた。
ちなみにこのお金は、レッドテイル2体分の『素材』売却と『採取クエスト』の成功報酬から工面してもらったものだ。
(これで損はさせないからね)
チャリン チャリン
「…………」
そうしてお金を数える僕を、アーディスカはなんか複雑そうに眺めていた。
ちなみに、僕の立場は『雇われ人』だ。
僕は『冒険者』ではないので、受注できるクエストは、アーディスカ1人で許可が下りるものだけに限られる。
(あと3ヶ月だ)
3ヶ月すれば、新人冒険者の登録が行われる。
僕もその時に『冒険者』になるつもりだ。
そうすれば、アーディスカとパーティーを組んで、より高報酬のクエストを受注できるようになるだろう。
僕は笑った。
「それまで、もう少しだけ我慢だね」
「…………」
でも、アーディスカは困った顔をする。
そして、
「なぁ、アオイはどうして、そこまで私を助けようとしてくれるんだ?」
と聞かれた。
(え?)
アーディスカの瞳は、僕を見つめてくる。
…………。
そんなのは決まってる。
この世界を『魔王』に滅ぼされないために、アーディスカには1人前の『勇者』になってもらいたいからだ。
転生したばかりで、僕はまだ死にたくない。
だから、
「アーデのそばに、ずっといたいんだ」
彼女を見つめ返して、そう告げた。
アーディスカは驚いた顔をする。
「あ……う、えっと……」
その頬を少し赤くしながら、視線をキョロキョロと彷徨わせて、
「そ、そうか」
と、そっぽを向きながら言った。
(???)
何、その反応?
そんな不思議なアーディスカに、僕は、幼い自分の首をコテンとかしげた。
◇◇◇◇◇◇◇
「年下の男の子からの一途なアタックに、ついにアーデもほだされちゃったかぁ」
受付のフラン嬢が、そう微笑む。
アーディスカは焦った顔で、
「へ、変なこと言うな、フラン!」
と、顔を赤くして抗議していた。
(なんか楽しそうだね)
そんな風にアーディスカが新しいクエストの受注手続きに向かっている間、僕はいつもの小遣い稼ぎに精を出す。
「癒しの光」
ピカッ
「お、ありがとな」
チャリン
そんな感じで、怪我の治った冒険者たちからお駄賃をもらっていく。
(これで30ゴル、と)
日本円で3000円。
短い時間でも、いい金額になるもんだね、ふふっ。
もちろん、情報収集も欠かさない。
今回は、魔物についての情報を集めてみた。
理由は、アーディスカが出会った『ライトニング・ウルフ』と『レッドテイル』という格上の魔物が気になったからだ。
どちらも現れたのは、本来の生息域とは違った場所だという。
これは偶然か?
(いや……)
もしかしたら、アーディスカが引き寄せているのではないだろうか……と、僕は予想していた。
彼女は『勇者候補』だ。
ケチャ様が言うには『勇者候補』たちには、『勇者の試練』が運命づけられているという。
つまり、
(あの2種の魔物は、その試練だった?)
と考えたのだ。
けれど、話を聞いてみると、
「最近、魔物の分布が少しずれてきてるみてえなんだよな」
という冒険者からの情報があった。
アーディスカ以外にも、本来の生息域以外で見かける魔物が多くなっているそうだ。
……むむ。
もしかして、本当に偶然?
それとも、この現象を解決することがアーディスカに課せられた『勇者の試練』とか?
(う~ん)
ちょっとわからないな。
悩んでいると、
「どうした、アオイ?」
ポン
僕の頭の上に、アーディスカの手のひらが乗せられた。
どうやら受注手続きが終わったみたいだ。
「ううん」
僕は、首を横に振る。
それから、
「今日からよろしくね、アーデ」
そう笑顔で声をかけた。
「あぁ」
アーディスカも笑って、頷いてくれる。
(うん、がんばろう)
そうして僕とアーディスカの2人は、受注した『採取クエスト』をこなすため、一緒に冒険者ギルドを出発した。




