010・提案
「どうして、アオイがここにいる?」
僕の姿を見つけたアーディスカは、とても驚いていた。
孤児院で一夜を明かした僕は、翌朝、再びレイモンドの『冒険者ギルド』を訪れていたんだ。
僕は言う。
「仕事だよ」
そうして目の前にいる1人の冒険者へと、幼い両手を向けた。
魔法陣が展開。
細い両腕に光のラインが輝く。
「癒しの光」
ピカッ
美しい回復光で傷が治った冒険者は、「ありがとよ、アオイ」と笑って、僕の手のひらに1枚の硬貨を落とす。
チャリン
(毎度あり)
まぁ、こんな感じである。
荒事をこなす冒険者たちは怪我人も多いから、僕としても冒険者ギルドは良い稼ぎ場になるのだ。
ちなみに稼いだ半分は、孤児院に寄付するつもりなんだけどね。
見ていたアーディスカは、
「そうか」
と、少し複雑そうな顔だった。
それから彼女は、クエスト掲示板に向かうと、しばし吟味し、そこから1枚の依頼書を剥がして受付へと向かった。
「これを頼む」
受付嬢フランと手続きをする。
それを済ませると、僕の方へとやって来た。
「行ってくるよ、アオイ」
ポン ポン
微笑みながら、見上げる僕の頭を軽く叩く。
僕は「うん」と頷いた。
気をつけてね。
アーディスカは笑みを深めると、すぐに前を向いて、冒険者ギルドを出ていった。
…………。
それを見送った僕は、すぐに受付へと向かった。
「フラン。今、アーデは、どんなクエストを受けたの?」
そう訊ねた。
フラン嬢は驚いた顔をする。
「えっと、『輝きの草原』でポーションの材料となる『虹の水草』を集める『採取クエスト』ね」
採取クエストか……。
僕は聞く。
「危険?」
「そうでもないわ。『輝きの草原』には低ランクの魔物はいるけれど、アーデの腕なら負けることはないと思うし」
そう教えてくれる。
(そっか)
とりあえず、難しいクエストではなさそうだ。
少し安心。
でも、アーディスカはなぜ1人でクエストを受けたのだろう?
新しい仲間、探せばいいのに。
それも聞いてみると、フラン嬢は、難しい顔をした。
「それは無理ね」
なんで?
それから教えられた事情は、こうだ。
まず、このレイモンドの町の冒険者ギルドには、約60名の冒険者が登録、在籍しているんだって。
そして全員が、すでにパーティーを組んでいるそうだ。
戦いで、連携は大切だ。
新しい仲間を加えるというのは、簡単なことではない。
まして、アーディスカは、まだ新人だ。
そんな彼女とパーティーを組もうとしてくれる冒険者は、そうそういないのだそうだ。
(なるほどね)
ジャンとリジットがいなくなる時、だからアーディスカも必死で引き止めてたんだ。
フラン嬢は、
「冒険者登録が行われるのは、半年に1回なの。次は3ヶ月後。それまでアーデは、誰とも組めないと思うわ」
そう残念そうに言った。
3ヶ月……か。
それまで、彼女は1人きり。
…………。
ピカッ
「ありがとね、坊や」
チャリン
それからも僕は、彼女の行く末を案じながら、夕方まで仕事をがんばった。
◇◇◇◇◇◇◇
太陽が西へと傾く。
その日の夕方、赤毛の冒険者は、ボロボロになって帰ってきた。
(アーディスカ!?)
僕は、慌てて彼女に『回復魔法』を使った。
「……すまない、アオイ」
傷を治されながら、彼女は落ち込んだ顔で謝ってくる。
いったい何があった?
フラン嬢の話では、そんな危険なクエストではなかったはずだ。
「レッドテイルがいたんだ」
と、アーディスカ。
(レッドテイル?)
僕は首をかしげる。
レッドテイルというのは、火属性の巨大トカゲの魔物だそうだ。
けど、その魔物はDランク。
本来、『輝きの草原』には出現しないはずのランクで、けれど、アーディスカはそれに遭遇してしまったのだそうだ。
アーディスカは、Fランク冒険者。
とても勝てる相手じゃない。
そのレッドテイルから、彼女は命からがら、何とか逃げてきたのだという。
…………。
なんという不運。
(いや……)
もしかしたら、これが『勇者候補』の宿命?
怪我が治っても、アーディスカは、疲れ切った顔で椅子に座り込んだままだった。
(はぁ)
僕は、ため息を1つ。
それから、彼女を見つめて、
「ねぇ、アーデ。もしよかったら、僕を雇わない?」
と提案した。
ご覧いただき、ありがとうございました。
本日、もう1話更新いたします。もしよかったら、どうか読んでやって下さいね。




