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宝石竜と赤い瞳の王子  作者: 森谷玻乃
ガーネットとの出会い
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 姉さんが勇者とか言う人間に切られた!僕が後先考えずに突っ込んで行ったせいだ…。

 姉が勇者に切られる所を、しっかりと見てしまった翠玉は、動揺してしばらく動くことができなかった。

 翠玉の方を振り向いた黄玉は、翠玉の無事を確認してほっとした顔をした。しかし、翠玉は振り向いたことで見えた、黄玉の負った傷に、呆然としてした。

 左の鎖骨の辺りから、右の胸の下まで深く傷が走っている。所々白い骨が見え、酸で焼けているのか、煙が上がって黒くなっているところもある。

 僕が…、僕のせいで…姉さんがこんな傷を…。どうしよう…姉さんまで死んじゃったら…。

 翠玉は、怖くて余計に動けなくなった。そうこうしているうちに、黄玉は一瞬、勇者の方を確認してから、翠玉の手を繋いで歩き始めた。


 しばらく手を引かれるままに歩いていたが、翠玉ははっとして、歩きながら黄玉の傷を魔法で治療した。

 酸で焼けて血は止まりつつあるが、傷が深い。なかなか治らない。翠玉自身が動揺しているせいで、魔法が安定しない…。どうしよう、と思っているうちに、黄玉は倒れてしまった。

「姉さん!寝ないで、起きて、お願いだから死なないで!」

 必死に呼びかけたが、黄玉はそのまま意識を失ってしまった。

 その途端、魔力が切れたのか、黄玉は竜の姿に戻った。擬態にも僅かとはいえ魔力を使っているため、魔力が切れると保てなくなる。

 竜の姿に戻った黄玉を見て、翠玉は考えた。姉さんは、攻撃でほとんどの魔力を使ってたけど、擬態をしていて魔力切れになるほどではなかった。何で急に魔力切れに?考えつつ、黄玉を観察した。

 そして、黄玉の傷を見て、傷が切られてすぐのときより、僅かに小さくなっているように見えた。ただ、翠玉の願望がそう見せたのかもしれないが、彼はそれを見て、姉さんは気を失う寸前まで光魔法で傷を治していたんだ!と思った。

 姉さんは生きたいと思っている、なら僕が頑張って治療すれば助かるかもしれない!と考え、そこからは、魔力が尽きるまで必死に光魔法で傷を塞いだ。


 そして、翠玉の魔力が切れる直前に、どうにか全てが塞がった。後は、黄玉が目を覚ましてくれるのを、助かるのを願うことしかできることが無い。

 黄玉の傷を塞いだことで少し安心して、翠玉は辺りを確認する余裕ができた。


 周りを見回すと、暗くてもう真夜中のようだ。でも、木が生い茂っているのが月明かりで見えるから、ここは森の中のようだ。地上に明かりが見えないから、人間も近くには居ないようだ。物音もしないし、魔物の気配も特に感じないから、一先ず危険は無いと判断して、翠玉も黄玉の隣で眠った。


 翌日、お昼くらいに翠玉が目覚めた。翠玉が、寝すぎた…。と思って慌てて隣を見ると、黄玉はまだ眠っていた。傷はちゃんと塞がっている。

 翠玉はほっとして、安心したらお腹が空いた。何か食べられそうな物は無いか、と辺りを見回すと、近くの木に実が生っていた。これは、お母さんが偶に採ってきてくれた木の実だ!と思って、まず人間に擬態して、皮膚に果汁を付けてみて、異常が無い事を確認してから食べた。


 この方法は、黄玉が翠玉に教えた。前に翠玉が、見た目で判断して、食べようとしたときに、

「待って。見た目が同じようでも、違う種類の実で毒があるかもしれない。食べるときには、必ずまず皮膚に果汁を付けて、皮膚に異常が無いことを確認してから、食べるようにして」

 翠玉が食べようとした実を潰して、黄玉が人間に擬態し、自分の腕に付けた。その実は毒だったようで、付けたところが赤くなって少し腫れていた。

 黄玉は、実に毒がある事は、「鑑定」により知っていた。しかし、何故確かめなければいけないのかを、翠玉に教えるために、実際にやって見せた。このことが衝撃的だったようで、それ以来、翠玉は必ず毒の有無を確かめてから、食べるようにしている。


 食べ物は、木の実が周りで収穫できるし、持っていたマジックバッグを探したら、魔物の肉も出てきた。これで、ここに留まっても食料はしばらくの間は大丈夫。でも、水も必要かな。

 魔法で出してもいいけど、こういうときは魔力をできるだけ温存したい。水が近くに無いかと思って、翠玉は少し周りを歩いてみることにした。

 黄玉の姿が見える範囲で歩き回ると、近くに泉を発見した。泉の周りには、食べられる実が生る木も生えている。これで、しばらくここにいても、水も食料も確保できそうだ。

 翠玉は黄玉の隣に戻って、黄玉が目覚めるのを待つことにした。その間、黄玉の事をずっと考えていた。



 僕にとって姉さんは、一番大切な人だ。勿論、お母さんもとても大切だけど、僕の事を一番に考えて、色んな事を教えてくれたり、してくれたりする姉さんが昔から大好きだった。

 姉さんは、僕に色んな事を教えてくれた。宝石竜という種族の事、魔法の事、人間の町、図書館の本、人間の作る料理など、僕の隣で楽しそうに話してくれた。そして、僕がその話を聞いて笑ったり、気になったことを聞いたりすると、とても嬉しそうに答えてくれた。

 姉さんの話も楽しかったけど、嬉しそうな顔を見るのが一番好きで、色んな事を姉さんに訊いた。

 姉さんは、毎日必ず何処かへ出掛ける。行き先は町だったり森の中だったり、色々だ。

 そして、姉さんが出掛けている間、僕は人間に擬態する練習を、お母さんと行っていた。この練習が僕は苦手で、どうして人間に擬態しなきゃいけないの、と駄々をこねていた。


 勿論、人間に竜の姿で見つかると殺されてしまうから、というのはお母さんから教わって、わかっている。でも、本物の人間は見たことが無かったから、人間の何が恐ろしいのかわからなかった。だから、何でこんなに苦労して人間にならなきゃいけないの、とずっと練習を嫌がっていた。

 それに、僕は擬態の練習をしている間に姉さんが居ないことが寂しかった。ずっと一緒に居て、隣で話を聞かせて欲しかった。だから、一度姉さんに八つ当たりのように訴えたことがある。

『何で人間に擬態しなきゃいけないの!人間は僕達みたいに鱗も鋭い爪も大きな牙も無いんだよ!?何であんな弱そうな生き物に見つからないようにしないといけないの!』

 すると、姉さんは、

『翠玉、確かに人間は鱗も無いし鋭い爪も牙も無い。でもね、そうしたものを持たないからこそ、武器や鎧といった道具や、1人ではなく多数で集まって戦う戦略という物を生み出した。道具を作ることで、私達の鱗を貫いたり、私達の爪を防いだりできるようになったの。そして、人間1人では弱くて、たとえ道具を使っても何もできないかも知れない。でもね、人間はたくさんいるから、集まることができる。たくさん集まって、みんな同じように私達の鱗を貫く道具を持って向かって来たら、たとえ鱗が硬くて鋭い爪を持っていたとしても、果して生き残れるかしら?』

『う〜ん、わかんないよ。生き残れるかどうか、なんて言われても、人間に会ったこと無いし、人間の作った道具もあんまり見た事無いもん』

『そうね…。ねぇ翠玉、人間の作った道具とか町とか、見てみたい?』

『うん!それは見てみたい。お姉ちゃんやお母さんから話を毎日聞くから、最近は見てみたくて仕方ないよ!』

『じゃあ翠玉、一緒に見に行こう。でも、見に行くには人間に擬態する必要がある。だからね、生き残るために必要だから、じゃなくて、人間の町や道具を見に行くために必要だから擬態する、って気持ちで擬態の練習してみたら?人間の町は、人間のために造られている場所だから、見てまわるには人間の姿の方がまわりやすいの。人間の町を見るため、の方が、擬態の練習、やる気にならない?』

 姉さんの言った「人間の町や道具を実際に見る」という目的は、とてもわくわくするものだったから、これで人間への擬態の練習もやる気になった。


 でも、僕は姉さんがずっと一緒に居てくれないことも不満だった。

『人間の町や道具を見たいから、擬態の練習は頑張るよ…。でも、どうしてお姉ちゃんはずっと一緒に居てくれないの?何処にも出掛けないで、ずっと隣でお話をしてよ!』

『私も翠玉とずっと一緒に居たいとも思う。朝、出掛けるときは私も寂しい。でもね、私もまだまだたくさん知らないことがあるから、それを見に行きたい。それに、翠玉に人間の町や森の中の事をたくさん知ってもらって、色んな物を実際に見てみたい!って思って欲しい、そう思って毎日色んな話を翠玉にしているの。でも、毎日話をするには、色んな物を見ないといけない。だから、私は毎日出掛けているの。毎日必ず翠玉のところに帰ってきて話をすると約束するから、出掛けてもいい?』

 寂しいと思っているのは僕だけじゃなかった。姉さんは、寂しいのを我慢して、僕に色んな話をするために毎日出掛けている。毎日必ず帰ってきて色んな話をしてくれる、と約束してくれたから、僕も寂しいのを我慢して、姉さんが帰ってくるのを待つことにした。


 次の日から、僕は擬態の練習を頑張った。お母さんや姉さんと一緒に人間の町に行くため、色んな物を見るために。そして、夕方には姉さんが帰ってきて、毎日その日に見た事、あった事を話してくれた。

 そのおかげで、僕は姉さんの言った通り、姉さんが話してくれた物を自分の目で見てみたくなった。


 僕が卵から孵って1年後、たくさん練習を頑張った結果、僕も人間に擬態できるようになった。姉さんは、擬態した僕の姿を見て、

「竜の姿も可愛いけど、人間の姿でも可愛い!私の弟可愛い!どうしよう!……どうもしないけど」

 と騒いでいた。可愛いよりかっこいい方がいいんだけど…、って言っても、可愛いとしか言ってもらえなかった。…いつか、かっこいいって言ってもらうぞ!とこのとき決意した。

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