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「そういえばガーネット、学校に良い人は居ないの?」
突然、殿下がガーネットにそう尋ねられ、ガーネットが噎せている。
「ゴホッ、…、は、母上、急になぜその質問を?」
「あら、ちょっと気になっただけよ?誰か居ないの?」
「……今の所、特には。黄玉と翠玉が居てくれればそれだけで十分、と思うので、あまり他人に興味が持てません」
「…そう。まあ、先は長いし、ゆっくり気の合う相手を見つければ良いのよ。陛下のように、学校を卒業した後、色々な所を旅してもきっと楽しいわよ」
ガーネットは、考えてみます、と答えて、その後は黙々と食事を進めた。
「黄玉様と翠玉様は如何かしら?この国では、魔物と人間の結婚も認められているし、どなたか気になる方はいらっしゃる?あ!勿論、ガーネットでも良いのよ?」
と、殿下が今度は此方に話を振ってきた。
「ガーネットは、友人として、主として、慕っています。それに、特にそういう相手を持つつもりは、今の所ありません。今は、翠玉とガーネットと一緒に居られることが幸せなので」
「僕も、ガーネットは友達であり、主として、大事に思っているよ。僕も今は、姉さんとガーネットと一緒に居られれば、それで良い」
私達がそう答えると、
「あら、出過ぎた事を申しましたわ。お許しになって。でも、ガーネットを大切に思って下さって、嬉しいわ。ありがとうございます」
と殿下は仰られた。
食事が終わった後、私達は寮に戻ることにした。
「また、いつでもいらしてくださいね。ガーネット、いつでも、好きなときに帰ってくるのよ。別に長い休みでなくては帰ってはいけない、なんて校則にありませんもの」
と仰り、殿下が見送って下さった。
「ありがとうございます。それでは、行ってきます」
とガーネットが答え、私とガーネットは一礼して、寮に向かった。
森の中を歩きながら、
「黄玉、さっきの母上との会話の中で、特に相手を持つつもりは無い、って、これから先ずっとか?…ああ、答えたくないなら、答えなくて良いんだが」
とガーネットに尋ねられた。
「今の所、そのつもり。……ねえガーネット、この国は、宝石竜を保護しようとしているんだよね?」
「ああ。何代も前の王が、保護しようと決定して、保護するために、努力している。保護している、と情報を流したり、宝石竜の情報を集めたりしているが、今の所、この国に来た宝石竜は、黄玉と翠玉だけだ。それがどうした?」
「それだけ、情報を流したり、集めたりしているのに、ほとんど何も集まらない、ということは、もう種を存続させられるほど、宝石竜は多く無いんじゃないか、と思うの」
私がそう言うと、
「相手は宝石竜じゃないと駄目なのか?」
と尋ねられたので、私は、他にも理由があって、前置きして、
「前にガーネットが、“過去には、この鱗や結晶をめぐって、家同士や国同士で、争いも起きたそうだ。だから、もし宝石竜がアステシラー王国に居る、鱗や結晶がある、などと公言しようものなら、それらをめぐって、戦争が起こる可能性がある”って言っていたでしょう?戦争では、多くの命が失われる。宝石竜という種が、今後も戦いの種になるのであれば、いっそのこと、このまま絶滅すべきではないか、と思うの」
翠玉とガーネットは、私の意見を聞いて、その場で立ち止まって考え込んだ。
少し経って、翠玉が、
「僕は、まだ姉さんほどちゃんとした考えは無いけど、これから色々と考えてみるよ。でも、どんな答えになろうと、姉さんと離れる気はないから」
と言った。
「別に、慌てなくて良いんだよ。私も、今の所、そう考えているだけで、私が生きている内に、人間が争わなくなれば、この考えも変わると思う。……まあ、難しそうだけど」
私が翠玉にそう答えると、
「黄玉、俺達人間のせいで、そんな考えにさせてしまって、ごめん。俺も、これから、色々と考えてみる」
とガーネットが言った。
その後は、3人共黙ったまま、森を抜け、寮に戻り、少し早めに夕食を食べて眠った。
翌日。
いつも通り起きて、3人で寮の食堂で朝食を摂り、学校へ向かった。
「さて、今日は1、2時間目が魔法の授業だが、何か学びたい事はあるか?魔法に関する事なら何でも良いぞ」
と、教室に入ってきたレムリア先生が言った。
レムリア先生は偶に、その日の授業の内容をその場で生徒に決めさせることがある。
生徒から、疑問や興味がある事などを授業の最初に聞き、あがってきた事に対して、答えたり説明したり、という形で、授業を進めていく。
今日は、ガーネットが手を上げた。
「先生、従魔契約の歴史、従魔契約と奴隷契約の違い、従魔は、周りの人からどう見られるのかなど、従魔に関する事が知りたいです」
先生はそれに頷き、
「では、今日の授業は従魔に関する事としよう」
と言った。
「さて、まずは従魔契約と奴隷契約の歴史から語ろうか」
と言い、先生が契約の歴史について説明し始めた。
先生によると、従魔契約は昔からあり、魔物同士でも行われることがあるらしい。
魔物同士では、弱い者が強い者とこの従魔契約をして、守って貰う代わりに身の回りの世話をするなど、互いに利害が一致するときに、この契約が使われる。また、魔物の中には、群れを作るときに、この契約を互いに結ぶ種もいるらしい。
人間も、魔物と互いに利害が一致するときや、ずっと一緒に居たいと思ったときに、昔からこの契約をしてきた。
しかし、従魔契約は、互いの同意がなければ、行うことができない。
それを煩わしく思ったのか、人間は、それまで人間の犯罪者にのみ使えた奴隷契約と、従魔契約を研究し、魔物にも有効な奴隷契約を生み出してしまった。
これにより、労働力として魔物が奴隷のように扱われ、近年では魔物と人間は、互いに相容れない存在となりつつある。
「かつては、人間も魔物も、同じ立場だったが、人間が魔物にも有効な奴隷契約を作ったせいで、人間が魔物より上だ、と考える者が増えてきている。この考えのせいで、魔物に乱暴なことをするから、魔物も人間を忌避し始めている。君達は、ちゃんと魔物がどういう存在なのかを学び、“魔物”という固定観念に囚われず、ちゃんと相手を見られるようになってくれ」
と、先生は締めくくった。
「では次に、従魔契約と奴隷契約の違いについて話そう」
従魔契約は、歴史について語ったときに述べたように、互いの同意がなければ契約できない。
この契約では、どちらが主、というような明確な上下関係は、契約上は無い。互いの心理で上下が決まるだけで、此方に従わなければならない、などという決まりは、契約の中には無い。
契約上は上下関係が無いので、主に従魔が反抗しても、特に問題は無い。
また、従魔契約は、片方が契約を破棄したい、と思ったときに、勝手に破棄できる。
これらのことから、従魔契約は、互いの同意や意思が重視された契約である、と言える。
一方、奴隷契約は、明確な上下関係があり、主に絶対服従でなければならない。主の命令に反抗すると、主が契約時に予め決めていた罰が下る。
そして、主となる者は、相手の同意無しに奴隷契約を結ぶことができる。そのため、無理矢理奴隷契約で奴隷として働かされている魔物もいる。
また、主の方から一方的に契約の破棄はいつでもできるが、奴隷の方から契約の破棄は難しい。
奴隷契約には、紙全体に模様が描かれた、専用の書類が必要で、その紙を破るか、跡形も無く燃やせば、奴隷からでも契約を破棄できる。しかし、大抵、主により厳重に保管されているので、奴隷は自分の契約書を手に入れることが難しい。これにより、奴隷側からの契約の破棄が難しくなっている。




