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宝石竜と赤い瞳の王子  作者: 森谷玻乃
黄玉と翠玉
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 お母さんは、宝石竜の体の色についても教えてくれた。宝石竜の体の色は、必ず両親から1〜2色は遺伝する。


 私たちの父親の竜は、体や顔、手足は緑で、角と瞳、翼、尾は赤だったそうだ。

 お母さんは体と翼は黄色で、顔や手足、尾は紫だから、緑、赤、黄色、紫が両親からの遺伝の色のようだ。

 私たち姉弟の体の色は、翠玉が、顔、体、爪が緑で、瞳や手、足、尻尾が黄色、角が透明。私が、角は紫、瞳や爪、胸の辺りが黄色、顔と手は水色、腹から足と翼は赤、尾が透明、らしい。

 自分じゃ見れないから、翠玉が教えてくれた。一生懸命な姿が可愛かった。…話が脱線した。


 え〜と、体の色はつまり、私はお母さんから黄色と紫、お父さんから赤を受け継ぎ、翠玉はお母さんから黄色、お父さんから緑を受け継いだ、ということになる。

 そして、私の水色と透明、翠玉の透明はそれぞれ独自に発現した色で、個性のようなものらしい。これを聞いて、翠玉が少しほっとした顔をしていた。どうやら、自分だけ母や姉と違う緑色を持っていたことを気にしていたらしい。

 気にしていることにもっと早く気がつけていれば…、と思ったが、翠玉は

「理由がわかったんだから、気にしないで」

 と言って、にっこりと笑ってくれた。やっぱり私の弟はとっても可愛くて優しい。天使ってこういう子のことをいうのかな?そんな事を考えながら人間の姿で抱き締めていたら、翠玉に呆れられた…。

「お姉ちゃん、僕、可愛いより格好いいの方が、嬉しいんだけど。だいたい、可愛いのはお姉ちゃんでしょ」

 と言われたけど、何度見てもやっぱり翠玉は可愛い。そう言ったら、拗ねてしまった。

 こんなやり取りを、お母さんが話している間に繰り返していたら、

「翠玉が可愛いのはわかっているから、いい加減話をちゃんと聞きなさい!」

 と怒られてしまった。反省はしているが悔いはない。


 気を取り直して、宝石竜についての勉強を続ける。

 宝石竜は、背中にトゲトゲとした、結晶が生えている。この結晶は、自分の体と同じ色のものが生える。

 そして、ここは傷が付いても、根元から折れても痛みは無く、数年から数十年で元通りに治る。この結晶は、かつて人間と共存しようとしたときに人間に提供できるものを考え、背中の鱗を進化させたものらしい。

 かつて宝石竜は、人間が宝石竜自身を宝飾品にしようとしたとき、背中の結晶を数十年に一度、人間に提供することで種を存続させようとした。一部ではこれを受け入れ、共存を目指した国もあった。

 しかし、人間はこの数十年を待つことができなかった。そもそも、宝石竜はそれほど数の多い種族ではなかったため、人間の需要に答えられるほど結晶を、生み出すことができなかった。数が少ないこと、数十年待たなければならないことに苛立ち、人間は宝石竜を殺すようになった。

 そして現在、宝石竜は人前に現れることは滅多に無く、数もかなり減ってしまった。


 お母さんに、前にも宝石竜が減った原因について聞いたことはあったが、今回はより詳しく教えてくれた。

 前の世界でも、人間により絶滅した生物や絶滅が危惧されている生物はいた。人間が他の種を絶滅に追い込んでいるのは、前の世界も今の世界も同じなんだな…と悲しくなった。


 お母さんの、宝石竜の歴史についての話はここまでだった。そして、お母さんは翠玉にお父さんについての話をし始めた。内容は、私に語ってくれたことと同じだった。翠玉は、

「そう…。お父さんは僕たちを守って死んじゃったんだ…」

 と言って、黙り込んでしまった。しばらく1人で考えたいようだったから、その日はそっとしておき、次の日にまた話すことにした。


 次の日、翠玉は朝起きてくると、

「僕もお父さんみたいにお母さんやお姉ちゃんを守れるようになる!でも、死んじゃったら、守ってもらった方も悲しくなるから、生きて守れるようになる!」

 と宣言した。お母さんはしばらく言葉を失っていたが、

「ちゃんと、自分が生きることを考えられるのは偉いわ。そう、死んでしまったら遺された方はとても悲しいの。それに、私はあなたに長生きしてほしいの。だから、もし戦っても生き残れるよう、これから戦いの訓練も頑張りましょう」

 と応援した。私も

「私もお父さんの話を聞いて、知識と力を身に付けたいと思ったの。お母さんと翠玉を守れるように。これから、2人で頑張ろうね!」

 というと、

「僕がお姉ちゃんも守るんだ!」

 と言い返された。

 それに3人で笑って、その日から翠玉も一緒に他の魔物と戦ったり、町で本を読んだりと様々な訓練をしていった。


 その中で、私は悩んでいた。私が前世で、他の世界の人間だった、という記憶がある、ということを翠玉に話すかどうか。

 話したほうが良いかな?でも、もし人間だったことを話して、嫌われたり嫌がられたりしたら……。無理。生きていけない…。

 ぐだぐだと悩んでいたら、お母さんが、

「どうしたの?何か困り事?」

 と尋ねてきた。

 前世のことを話すかどうか、悩んでいることを相談すると、

「翠玉は、そんなことであなたを嫌ったり嫌がったりしないと思うけど?それに、何かを秘密にし続けるというのは、段々とつらくなってくる。だから、今のうちに全部話しちゃいなさい」

 と言われた。お母さんの言葉で、覚悟を決めて話すことにした。


「翠玉、聞いてほしい話があるの」

 そう言ってまず、前世の記憶がある事を話した。そして、転生者という称号により、経験値が倍になる事、鑑定が使える事、全ての言語が理解でき、話せる事を説明した。


 翠玉は、全ての話を言葉を挟むことなく、静かに聞いていた。全てを聞き終えると、

「お姉ちゃん、鑑定のスキルってすごいね!ねぇねぇ、鑑定を使うとどんなふうに情報が見れるの?」

 と、キラキラした目で訊いてきた。


 周りの物を鑑定して、出てきた情報を読み上げると、

「すごいね!何でもわかるんだ!じゃあ、僕が気になったもの、何でも訊いていい?鑑定してくれる?」

 と大興奮で訊いてきた。私は、

「もちろん!でもね、生き物のステータスは、とても大切な情報だからあまり知ってはいけないんだって。だから、生物の情報以外なら何でも訊いて」

 と答えた。


 翠玉はとても喜んでいたが、私はどうしても気になっていたことを訊いてみることにした。

「ねえ翠玉、私の前世が人間だったこと、嫌だったりしない?」

「なんで?前世は前世、今は今だよ。この間お母さんに聞いた宝石竜の歴史の人間は嫌だなって思ったけど、でもお姉ちゃんは僕やお母さんを傷つけたりしないでしょ。それに、今までずっと一緒に居たんだから、お姉ちゃんが僕やお母さんが大好きで、優しいのは知ってる。だから別に、前世が人間だったからって嫌いになったりしないよ」

 と答えてくれた。良かった〜、とても安心した。やっぱり弟は天使!優しくて可愛くて思慮深くて可愛くて……、可愛いが重複した。


 でも可愛いからしょうがない。そんな事を考えていたら、翠玉が呆れた目でこっちを見ている…。

「お姉ちゃんって、いつも人間に対して警戒心が薄いよね。今日だって、知らない男の人に道を聞かれて、ついて行きそうになってたし。ああいうの、人攫いのことが多いってお母さん言ってたよ。なんでああも警戒心が薄いのかと思ってたけど、人間だったせいなんだね。やっぱり僕がしっかりして、お姉ちゃんを守れるようにならないと!」

 と言われてしまった…。う〜ん、考えてた事に呆れられたわけじゃないことを喜ぶべきか、弟に警戒心が薄いと呆れられたことを悲しむべきか…。悩ましい。

 それはさておき、人間だったことを話しても嫌われずに済んでよかった。

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