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「テオ達は旅行の準備はどうだ?」
と、ガーネットが尋ねた。
「進めております」
「困ったことはない?」
と、私も尋ねた。
「私とメルはございません。ロルーナとミランは主と共に旅行へ行くのは初めてなのだそうで、何を準備すれば良いか悩んでいます。私達が手伝いながら進めております」
と、テオが言った。
テオ達と一緒に部屋の端に控えていたミランに、
「一体何を持って行けば良いのかわからなくて、普段使っている物を全てバッグに詰めようとしたら、荷物が多過ぎる、とテオに止められまして、どうすれば良いのか困ってます。黄玉様と翠玉様は俺達が手伝う間も無く準備が終わっていましたが、こういうときに何を持って行けば良いのでしょうか?」
と尋ねられた。
「自分の生活に必要な最低限の物だけ持って行けば良いと思う」
「僕達は、自分で自分の必要な物は持っているから、ミランは自分が必要な物、例えば、着替えとか、毎日使っている物とかを持って行けば良いと思う」
と、私達は答えた。
「皆様が毎日使っている食器は必要ですよね?」
「それは置いていって良い」
「家具は必要ですか?」
「いらない」
「寝具など…」
「それも置いていって」
「本当に何でも持って行こうとしてる…」
私と翠玉とミランが話していると、
「まあ、普通、貴族達は家具とか食器とか寝具とか、全部持って行くと聞いた。父上と母上も荷物は多いようだから、黄玉と翠玉が必要な物が極端に少ないのではないかと思う」
と、ガーネットに言われた。
「やっぱり全て持って行った方が…」
と、ミランが言い出したので、
「家具も食器も寝具も置いていって良いから!」
「僕達は外でも生活できるからそんなにたくさん物は無くて平気だから!部屋に何も無いとか、僕達の部屋が無いようなら外で過ごせば良いだけだし」
と、私達は止めた。
すると、ガーネットが、
「黄玉と翠玉が外で過ごすようなことにはならない、というか、なったら困る!俺も父上も母上も、宝石竜に対して不敬だ、と皆に言われることになる。…滞在先では、黄玉と翠玉の部屋も用意されるし、部屋には家具も必要最低限の物は備え付けてあるから持っていかなくても大丈夫だ。頼むから、黄玉と翠玉は外で過ごすのは止めてくれ」
と慌てている。
私達の話を聞いていたロルーナが、
「…メルに教わりながら用意はしましたが、道中、何かあったときに備えて、私ももう少し何か用意すべきでしょうか?」
と、不安そうに言った。
「目的地までの道中は、町や村に近いところを通るから、もし何かあっても町や村に滞在するから大丈夫だ。荷物が多いと運ぶ手間が掛かるし、馬車を増やさなければならなくなって移動に時間も掛かる。できるだけ少なくしてもらえるとありがたい」
と、ガーネットが言った。
「まあ、町に行くことができなくても、森や川があれば食べ物は得られるし、料理は姉さんができるし、寝る場所も姉さんがいればすぐに安全な場所を作ってくれるから大丈夫だよ」
と、翠玉も言った。
「また黄玉に頼り切りだな」
「だって姉さんは鑑定も使えるし、料理は得意だし、姉さんのクリアシールドは便利だし。とはいえ、手伝えることは僕も手伝うけどね」
「困ったときは、お互い得意なことで協力して何とかするから大丈夫。ロルーナもミランも、持って行く物はできるだけ少なくしてね。どうしても多くなりそうなときは、私がマジックバッグを用意するから」
と私が言うと、ロルーナとミランは一礼した。
この日は、皆で旅行の準備をして、私と翠玉も念の為、足りない物が無いかどうかマジックバッグの中を確認した。
数日掛けてロルーナとミランの準備も終わり、8月19日。
今日から旅行に行く。まずは、馬車でエメラルド公爵家の領地にある滞在先へ移動する。
「空間魔法で行けばあっという間なのに」
と、翠玉が言った。
「せっかくの旅行だし、空間魔法じゃなくて馬車の道中も楽しもうよ」
と、私が苦笑しながら言うと、
「そうだな。一瞬で目的地に着いてしまうのは勿体無い気がする」
と、ガーネットも言った。
「…わかったよ」
と、翠玉はちょっとそっぽを向いて言った。
外で待っていると、国王陛下と王妃殿下がおいでになった。
「黄玉様、翠玉様、今回はご一緒して下さってありがとうございます。ガーネットもありがとう」
「楽しみにしておりましたの!黄玉様と翠玉様、ガーネットにも楽しんで頂けると嬉しく思いますわ」
と、陛下と殿下は仰った。
私達も言葉を返して、それぞれ馬車に乗った。
私はメルとロルーナと同じ馬車に乗り、翠玉とガーネットは別の馬車にテオとミランと共に乗った。
馬車の周りは騎士達が護衛している。
途中、休憩のために町に立ち寄った。
馬車の外に出てひと休みしてから、目的地へ向けて出発した。
「今回の旅行中に私がすべき事って何かある?エメラルド公爵が開く会に参加する以外で」
と、私はメルとロルーナに尋ねた。
「特にございません」
「楽しんで頂くことが一番かと」
と言われた。
「じゃあ、気をつけた方が良いことはある?」
「護衛と決して離れないようにして下さい」
「騎士達もおりますし、私達もおそばを離れないようにしますが、どうか黄玉様にも気をつけて頂きたく存じます」
「わかった。メルとロルーナのそばにいるようにする」
と、私は頷いた。
夕方。
ようやく目的地に着いた。
馬車から降りると、
「よくお越し下さいました。黄玉様、翠玉様、国王陛下、王妃殿下、ガーネット殿下、皆様お揃いで領地へ来て下さるとは、身に余る光栄にございます」
と言って、男性が迎えてくれた。
「エメラルド公爵、出迎え、感謝する」
と、陛下が仰って、殿下とガーネットも挨拶している。
「あの男性が、エメラルド公爵家、当主です」
と、メルが小声で教えてくれた。
陛下達との挨拶が済んだ後、エメラルド公爵は私と翠玉の方に来て、
「黄玉様、翠玉様、愚息がお世話になっております。ニールスの父です。こうしてご挨拶できたこと、我が領地へお迎えできたこと、大変喜ばしく光栄なことと存じております。滞在中はごゆっくりお過ごし下さい」
と言った。
「ありがとうございます。ご子息にはいつもお世話になっております。こうしてエメラルド公爵にお会いできたこと、嬉しく思っております」
「ニールス先生には僕もお世話になっているよ。数日滞在させてもらうから、よろしく」
と、私と翠玉も挨拶した。
エメラルド公爵の案内で私達が滞在する館の中に入り、まずは少し休んだ。
お茶を飲みながら、滞在中の予定も聞いた。
私と翠玉は、2日後におこなわれる歓迎の会に参加する以外は、特に予定は無いので自由にして良いそうだ。
ただし、部屋から出るときや外へ行くときには必ず護衛を伴ってほしい、と言われた。
「明日には息子のニールスも学校から戻りますので、黄玉様と翠玉様にご挨拶させて頂ければ、と考えております」
と、エメラルド公爵が言った。
「楽しみにしています!」
「僕も楽しみだよ」
と、私達は言った。
休憩を終えて、私達はそれぞれ館の使用人に案内されて、滞在する部屋に行った。




