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次の日の朝、私達と一緒に翠玉も起きた。
『おはよう、翠玉』
とお母さんと2人で挨拶をすると、
『…おかあさん?…おねえちゃん?』
と声が頭に響いた。驚いて、思わずお母さんと顔を見合わせてしまい、お互いに笑った。
お母さんが翠玉と目を合わせて、
『そうよ、私があなたのお母さんよ』
と言い、私も
『私が翠玉のお姉ちゃんだよ』
と言った。すると、
『すいぎょく?それがぼくのなまえ?』
と訊いてきた。お母さんは、
『そうよ。様々なことを学んで、この世界を好きになって、健康に長生きしてほしい、と願って付けたのよ』
翠玉はそれを聞くと、不思議そうな顔をしながら頷いた。
『さて、皆起きたことだし、朝ごはんにしましょう』
そう言って、お母さんは麦のおかゆを出してくれた。
『お母さん、これ、いつの間に買ったの?』
『買ったのではなく、作ったの。材料を少し前に買っておいて、あなたたちが寝ている間に作って置いたのよ。さぁ、食べましょう』
お母さんの作ってくれたおかゆは、前に食べたときよりも、美味しかった。
『お母さん、前に食べたのより美味しいよ』
『良かったわ。町で作り方を習って、何度か作って練習したの。翠玉、どう?おかゆは美味しい?』
とお母さんが訊くと、
『うん、おいしいよ』
と答えてくれた。
朝ごはんを食べ終わると、翠玉は寝てしまった。
それにしても、翠玉はとっても可愛い!丸いくりっとした目や、たまにパタパタと動かしている小さい翼がかわいい。
眠っていても、翼が偶に動いている。夢でもみているのかな?それにしても、私と同じ大きさなのに、なんでこんなに可愛いんだろう。
そう、私は卵から孵ったときから大きさが変わっていない。
普通は変わるのか、お母さんに訊いてみたことがある。すると、
『普通、大きさが変わるのは幼体から成体になるときだから、気にしなくていいのよ』
と言われた。
また、人間に擬態したときの姿も、今はだいたい10歳くらいの姿だけど、成体になると大人の姿になるらしい。
急激に人間の姿が成長して、人間に宝石竜だとばれないのか気になって訊いてみたら、
『宝石竜以外にも、人間に擬態する魔物は普通にいるの。そういった擬態する魔物は、急激に姿が変わるのが普通だから、あまり気にされないと思うわ。それに、黄玉と翠玉が成体になったら、冒険者になってもらって、こことは違う国へ行こうと思うの。だから大丈夫よ』
と言われた。私の今のレベルが30で、成体になるのに必要なレベルが50だから、もうすぐだな。
でも、そうすると、私は自分の幼体を自分で見られず終わるんだな。町には鏡があるけど、竜の姿で行くわけにはいかないし、近くに川はあるけど鏡の替わりになりそうなものは無い。これは少し残念。
次の日から、お母さんは翠玉とずっと一緒にいるようになった。
それまでは、私と一緒に町へ行ったり、森の中で魔物を狩ったりしていたけど、翠玉が少し成長するまでは、しばらく住処から出ずに見守るようだ。
私は、翠玉が一緒に動けるようになるまでは、1人で町や森の中へ出かけることにした。
町には、色々な店がある。八百屋さん、料理の屋台、日用品のお店、洋服屋さん、武器を売っている店もある。この洋服屋さんで、人間に擬態したときに身に着ける服をどういう物にするか参考にしたり、気に入ったものがあれば買ったりしている。擬態するとき、その日着たい洋服を身に着けた自分の姿を想像すると、服を着た状態で人間になれる。
ちなみに、私が人間に擬態したときの姿は、髪は金髪で、背中の真ん中くらいまでのストレートヘア。目は金に近い黄色で、身長は120センチくらい。顔は、前世よりも整っている。垂れ目で、優しそうな印象を受ける。う〜ん、自分で言うのもなんだけど、なかなかの美人。
町の中心には冒険者ギルドがある。
お母さんは、人間の姿でこのギルドで冒険者として登録している。町で買い物をするときのお金は、お母さんが森で収穫した果物や薬草、狩った魔物を売ることで得ている。
成体になってから、私も翠玉と一緒に冒険者として登録する。前に、お母さんに私だけ先に登録するかと訊かれたけど、翠玉が成体になるのを待つことにした。一緒の方が楽しそうだし、困ったらお互いに助け合えるかなと思って。だから、翠玉が成長して一緒に冒険者として活動するのが、今からとっても楽しみ。
町や森から住処へ帰ると、私はその日に見たことや勉強したことを、翠玉に語って聞かせた。話を聞かせると、偶に笑ったり、質問したりしてくれることがある。それがとても可愛くて色々話すから、翠玉の隣に居るお母さんに、
『翠玉が可愛いのはわかったから、少し落ち着きなさい』
と苦笑いされてしまった。でも翠玉が可愛いから止められない。自分でもどうしようもない。
卵から孵って1年後、翠玉も擬態で人間に変われるようになった。
翠玉は人間になった姿も可愛かった。身長は大体110センチくらいで、髪は黒に近い深緑色、髪型は肩の辺りまでのストレートヘア。目は私と同じ金に近い黄色だった。なかなか整った顔立ちをしている。
前世で、綺麗な子を人形のよう、と形容することがあったけど、こういう子のことをいうんだ、としみじみ感心した。
翠玉が人間に擬態できるようになったので、お母さんと翠玉と3人で町へ行けるようになった。
翠玉は町に行くと、私から話を聞いたことはあっても、見るのは初めてのものばかりでずっとキョロキョロとしていた。そのせいでしょっちゅう躓くため、お母さんと私と手を繋いだ。
そして、気になるものがあると、私に尋ねてくれた!お母さんではなく、私に!とっても嬉しくて、次から次へと説明していたら、
「お姉ちゃん、少し落ち着いて。そんなにいっぱい言われたら、わかんないよ」
と言われてしまった…。隣でお母さんは、
「仲が良くて良かったわ」
と終始、笑っていた。
町へ3人で行った翌日から、翠玉も私と同じようにお母さんに様々なことを習い始めた。
元々、私が毎日行っていることに興味を持っていて、自分もやってみたくなったようだ。
まず、私と翠玉は、改めて宝石竜という種族について勉強した。
翠玉が擬態に慣れるため、しばらくの間、みんなで人間の姿でいることにした。
宝石竜は、宝石のような見た目から人間によく狙われる。これまでも多くの宝石竜が人間に捕まり、殺されて宝飾品にされてきた。
特に、私のように多くの色を持つ竜は、人間に見つかると真っ先に狙われるようだ。だから、竜の姿で人間の前に行ってはならない、とお母さんに言われた。
そして、宝石竜は家族の結束が強く、成体となっても1匹で行動することは少なく、親や兄弟、パートナーと共に生きる。
この話を聞いて、ずっと翠玉と一緒にいられるんだ!と嬉しくなった。それを察したのか、お母さんと翠玉には温かい目で見られてしまった…。まあ、嫌がられていないならいっか。
また、宝石竜には、自ら宝と定めた「もの」を命懸けで守護する、という習性があるようだ。「もの」というのは、者も物も含んでいる。この宝物を失うと、宝石竜は自ら命を絶つこともあるそうだ。
私は、この習性の話を聞いたとき、命懸けでも守りたいものかぁ〜。じゃあ、私の宝物は翠玉だな、と真っ先に翠玉を思い浮かべた。
そして、お母さんは何を宝物にしているのかな、と気になった。大切な事だから、答えてくれないかもしれないと思いつつ、聞いてみた。
「お母さんは、何を宝物と定めたの?」
「私の宝物は、貴方達よ」
と微笑んで言われた。私と翠玉は顔を見合わせて、照れ笑いをしてしまった。
ちなみに、宝物にお母さんも思い浮かんだが、それを察したお母さんに、
「私は、あなたたちより早く寿命が来るから、私を含めてはだめよ」
と止められた。