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私と翠玉の会話を、聞いておられた陛下は、
「黄玉様、私共の事情を御了察の上、御理解を賜り、感謝申し上げます」
と仰り、頭を下げられた。そして、
「残念ながら、我が国の貴族には、魔物を下に見る者も多い。翠玉様の仰る通りの事が、起こる可能性が高いのです」
と仰られた。
魔物が、下に見られるようになったのは、いつからなのか気になったので、
「魔物は、いつから貴族達に下に見られるようになったのですか?」
と尋ねた。
すると、宰相が答えてくれた。
「魔物との奴隷契約が生み出されてから、そのような考えが広まりました」
前に、この奴隷契約については、ガーネットから聞いたが、改めて宰相が教えてくれた。
この、魔物との奴隷契約は、犯罪者に対して使う術を研究して、数百年前に生み出された。
人間より強い力を持っていたり、人間が使えない魔法を使えたりする魔物を、労働力として安全に使うために、開発された。研究の過程で、契約方法が複雑になったらしく、契約するには、いくつもの手順を踏まなければならないらしい。
説明を聞いて、「労働力として安全に使う」と考え始めた時点で、人間は魔物を見下し始めたのかな、と思った。
翠玉は、陛下と宰相の話を聞いて、
「…ガーネットの将来のために、貴族を先生に就けたことは、理解した。陛下、先程はガーネットが苦しんだのは陛下のせい、などと言って、申し訳ございませんでした」
と謝った。
そして、私と翠玉はガーネットに向き直り、
「ガーネット、貴方のお父さんを責めてしまって、ごめんなさい」
と2人で謝った。
ガーネットは、
「…いや、謝らなくて良い。俺の事を思って、そう言ってくれたんだろう。だが、父上も俺の事を考えて、動いて下さっている。だから、できれば、あまり責めるような事は、言わないで欲しい」
と言った。
すると陛下は、
「ガーネット。私を信頼してくれる事は、嬉しく思う。だが、私とて選択を誤ることもある。だから、こうしてはっきりと意見を下さる方々が居られるのは、ありがたいことだ。厳しい意見こそ、しっかりと受け止め、考える必要があるのだ」
と、ガーネットを窘められた。
ガーネットが、その御言葉に対して頷いた事を確認し、陛下は翠玉に向き直られた。
「翠玉様、先程のような意見は、私共にとっては貴重であり、必要な物なのです。どうか、お気になさらず、これからもお気づきの事などあれば、ご指摘を頂きたい」
陛下の発言を聞いていた宰相が、
「陛下、今の御言葉は問題が…」
と止めた。
宰相が止めに入った事で陛下は、はっとされ、
「今の発言、取り消させて頂きます。法に触れる発言でした」
…何がいけなかったんだろう?後でガーネットに聞いてみよう。
陛下の御言葉を聞いた翠玉は、怪訝そうな顔をしてから、
「…何が法に触れるのかはわからないが、もし何かあれば、意見は言う」
と、少し不機嫌そうに言った。…何で不機嫌そうなの?
話が一区切りついたところで、陛下が私達に、家族について尋ねられた。
「宝石竜は、家族の絆が強く、親子が離れる事はまず無い、と聞き及んでおります。黄玉様と翠玉様のご両親は、どちらに?」
陛下からのこの質問に、翠玉は更に不機嫌になった。
翠玉は、お母さんの話を嫌がる。話すと、私が目の前で大怪我を負った事を、思い出してしまうからだ。
翠玉は、
「…悪いけど、部屋の外に居る。話し終わったら、呼んで」
と言って、部屋から出て行ってしまった。
「…尋ねてはならない事だったのでしょうか」
と、陛下に恐る恐る尋ねられた。
「…私達の両親は、既に亡くなっています。父は、私達が卵から孵る前に、母は、この国に来る直前に、亡くなりました」
そう答えると、隣で聞いていたガーネットが、
「…そうか。黄玉と翠玉はもう、お互いしか家族が居ないのか」
と呟いた。
「不躾な質問をしてしまい、申し訳ございませんでした」
と、陛下が私の話を聞いて、謝罪された。そして、
「何故、ご両親が亡くなられたのか、うかがっても?」
と尋ねられた。
私は、お母さんから聞いたお父さんの事と、お母さんの事、私達を襲った勇者の事を話した。そして、この国に来た経緯も話した。
「…私達は、この国の国境付近の森に逃げ込みました。そこで、私達が逃げる時間を稼いでくれた母を待ちました。でも、現れたのは、勇者だけでした。母は、勇者が殺したそうです。本人がそう言っていました」
陛下は、質問を挟むこともなく、頷きながら聞いて下さった。
「私達は、勇者とその場で戦いました。でも、翠玉が剣で切られそうになり、私は咄嗟に彼を庇いました。その時の私の怪我が、おそらく、翠玉のトラウマとなっている。だから、翠玉はこの事を思い出してしまう、母の話をしたがらないのです」
と、翠玉が部屋を出ていった理由も説明した。
陛下は、私の話を聞き終えると、
「…それだけの経験をしながらも、我々人間と敵対せず、こうして言葉を交わして下さる事に、感謝申し上げます」
と頭を下げられた。そして、
「お2人を襲った勇者については、生死不明のようですので、私共も警戒します。もし、何かあった場合は、いつでもこの王城にお越し下さい。すぐに対応致します」
と仰って下さった。
ところで、と話が一区切りついたところで、宰相が尋ねてきた。
「黄玉様と翠玉様の居られた国は、我が国の2つ隣、とうかがいましたが、具体的には何処なのでしょうか?勇者が、お2人が居られた国の者ならば、国名を教えて頂ければ、警戒をしやすくなるのですが…」
…そういえば、あの国の名前は知らない。翠玉にも、念話で訊いてみたが、
『…知らない』
と返ってきた。
なので宰相にも、国名はわからない、と答えた。
「…普通、何処の国に居るか、確認するんじゃないのか?」
と隣で聞いていたガーネットに呆れられた。
「そんなこと言われても…。森の中に住んで居たし、町には買い物と本を読むために行ってたけど、国の名前を知る必要が無かったんだよ。というか、日常生活で、国の名前が必要になる事ってある?」
「俺はあるが…。いや、これは立場のせいか。普通は、あまり必要にならないか?」
ガーネットと2人で首を傾げて、考え込んでしまった。
そして、ふと、冒険者としての証である、カードに何か書かれていないか、と思い付いた。
冒険者になったのは、この国に来る前だった。
カードをマジックバッグから取り出し、じっくり見ると、登録者名の下に、発行した国名が書いてあった。そこには、「パイルト共和国」とある。
この国名を伝えると、途端に国王陛下と宰相の顔が曇った。
「パイルト共和国ですか…。国際的な条約で、宝石竜を保護する、と決められた後も宝石竜を狩っている、と噂はありましたが、事実でしたか…」
と、宰相は苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
そして、国王陛下は、
「そのような国で暮らして居られて、よく黄玉様と翠玉様はご無事で…。あの国は、宝石竜の鱗をも溶かす酸の研究をしている、という話を聞いたことがあります。何でも、アシッドスライムの酸や、鉱物から強い酸を製造する方法を研究しているとか。…我々は、パイルト共和国への警戒を強めておきます」
と仰って下さった。
今日の陛下との会談は、ここまでとなった。
私とガーネットは、陛下の執務室から退室して、部屋の外で待っていた翠玉と、ガーネットの部屋に戻った。




