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宝石竜と赤い瞳の王子  作者: 森谷玻乃
夏の長期休暇
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 私と翠玉の会話を、聞いておられた陛下は、

「黄玉様、私共の事情を御了察の上、御理解を賜り、感謝申し上げます」

 と仰り、頭を下げられた。そして、

「残念ながら、我が国の貴族には、魔物を下に見る者も多い。翠玉様の仰る通りの事が、起こる可能性が高いのです」

 と仰られた。


 魔物が、下に見られるようになったのは、いつからなのか気になったので、

「魔物は、いつから貴族達に下に見られるようになったのですか?」

 と尋ねた。

 すると、宰相が答えてくれた。

「魔物との奴隷契約が生み出されてから、そのような考えが広まりました」


 前に、この奴隷契約については、ガーネットから聞いたが、改めて宰相が教えてくれた。


 この、魔物との奴隷契約は、犯罪者に対して使う術を研究して、数百年前に生み出された。

 人間より強い力を持っていたり、人間が使えない魔法を使えたりする魔物を、労働力として安全に使うために、開発された。研究の過程で、契約方法が複雑になったらしく、契約するには、いくつもの手順を踏まなければならないらしい。


 説明を聞いて、「労働力として安全に使う」と考え始めた時点で、人間は魔物を見下し始めたのかな、と思った。


 翠玉は、陛下と宰相の話を聞いて、

「…ガーネットの将来のために、貴族を先生に就けたことは、理解した。陛下、先程はガーネットが苦しんだのは陛下のせい、などと言って、申し訳ございませんでした」

 と謝った。

 そして、私と翠玉はガーネットに向き直り、

「ガーネット、貴方のお父さんを責めてしまって、ごめんなさい」

 と2人で謝った。


 ガーネットは、

「…いや、謝らなくて良い。俺の事を思って、そう言ってくれたんだろう。だが、父上も俺の事を考えて、動いて下さっている。だから、できれば、あまり責めるような事は、言わないで欲しい」

 と言った。

 すると陛下は、

「ガーネット。私を信頼してくれる事は、嬉しく思う。だが、私とて選択を誤ることもある。だから、こうしてはっきりと意見を下さる方々が居られるのは、ありがたいことだ。厳しい意見こそ、しっかりと受け止め、考える必要があるのだ」

 と、ガーネットを窘められた。

 ガーネットが、その御言葉に対して頷いた事を確認し、陛下は翠玉に向き直られた。


「翠玉様、先程のような意見は、私共にとっては貴重であり、必要な物なのです。どうか、お気になさらず、これからもお気づきの事などあれば、ご指摘を頂きたい」

 陛下の発言を聞いていた宰相が、

「陛下、今の御言葉は問題が…」

 と止めた。

 宰相が止めに入った事で陛下は、はっとされ、

「今の発言、取り消させて頂きます。法に触れる発言でした」


 …何がいけなかったんだろう?後でガーネットに聞いてみよう。

 陛下の御言葉を聞いた翠玉は、怪訝そうな顔をしてから、

「…何が法に触れるのかはわからないが、もし何かあれば、意見は言う」

 と、少し不機嫌そうに言った。…何で不機嫌そうなの?



 話が一区切りついたところで、陛下が私達に、家族について尋ねられた。

「宝石竜は、家族の絆が強く、親子が離れる事はまず無い、と聞き及んでおります。黄玉様と翠玉様のご両親は、どちらに?」


 陛下からのこの質問に、翠玉は更に不機嫌になった。

 翠玉は、お母さんの話を嫌がる。話すと、私が目の前で大怪我を負った事を、思い出してしまうからだ。

 翠玉は、

「…悪いけど、部屋の外に居る。話し終わったら、呼んで」

 と言って、部屋から出て行ってしまった。



「…尋ねてはならない事だったのでしょうか」

 と、陛下に恐る恐る尋ねられた。

「…私達の両親は、既に亡くなっています。父は、私達が卵から孵る前に、母は、この国に来る直前に、亡くなりました」

 そう答えると、隣で聞いていたガーネットが、

「…そうか。黄玉と翠玉はもう、お互いしか家族が居ないのか」

 と呟いた。

 

「不躾な質問をしてしまい、申し訳ございませんでした」

 と、陛下が私の話を聞いて、謝罪された。そして、

「何故、ご両親が亡くなられたのか、うかがっても?」

 と尋ねられた。


 私は、お母さんから聞いたお父さんの事と、お母さんの事、私達を襲った勇者の事を話した。そして、この国に来た経緯も話した。

「…私達は、この国の国境付近の森に逃げ込みました。そこで、私達が逃げる時間を稼いでくれた母を待ちました。でも、現れたのは、勇者だけでした。母は、勇者が殺したそうです。本人がそう言っていました」


 陛下は、質問を挟むこともなく、頷きながら聞いて下さった。

「私達は、勇者とその場で戦いました。でも、翠玉が剣で切られそうになり、私は咄嗟に彼を庇いました。その時の私の怪我が、おそらく、翠玉のトラウマとなっている。だから、翠玉はこの事を思い出してしまう、母の話をしたがらないのです」

 と、翠玉が部屋を出ていった理由も説明した。



 陛下は、私の話を聞き終えると、

「…それだけの経験をしながらも、我々人間と敵対せず、こうして言葉を交わして下さる事に、感謝申し上げます」

 と頭を下げられた。そして、

「お2人を襲った勇者については、生死不明のようですので、私共も警戒します。もし、何かあった場合は、いつでもこの王城にお越し下さい。すぐに対応致します」

 と仰って下さった。



 ところで、と話が一区切りついたところで、宰相が尋ねてきた。

「黄玉様と翠玉様の居られた国は、我が国の2つ隣、とうかがいましたが、具体的には何処なのでしょうか?勇者が、お2人が居られた国の者ならば、国名を教えて頂ければ、警戒をしやすくなるのですが…」


 …そういえば、あの国の名前は知らない。翠玉にも、念話で訊いてみたが、

『…知らない』

 と返ってきた。

 なので宰相にも、国名はわからない、と答えた。


「…普通、何処の国に居るか、確認するんじゃないのか?」

 と隣で聞いていたガーネットに呆れられた。

「そんなこと言われても…。森の中に住んで居たし、町には買い物と本を読むために行ってたけど、国の名前を知る必要が無かったんだよ。というか、日常生活で、国の名前が必要になる事ってある?」

「俺はあるが…。いや、これは立場のせいか。普通は、あまり必要にならないか?」

 ガーネットと2人で首を傾げて、考え込んでしまった。


 そして、ふと、冒険者としての証である、カードに何か書かれていないか、と思い付いた。

 冒険者になったのは、この国に来る前だった。


 カードをマジックバッグから取り出し、じっくり見ると、登録者名の下に、発行した国名が書いてあった。そこには、「パイルト共和国」とある。

 この国名を伝えると、途端に国王陛下と宰相の顔が曇った。

「パイルト共和国ですか…。国際的な条約で、宝石竜を保護する、と決められた後も宝石竜を狩っている、と噂はありましたが、事実でしたか…」

 と、宰相は苦虫を噛み潰したような顔をしていた。

 そして、国王陛下は、

「そのような国で暮らして居られて、よく黄玉様と翠玉様はご無事で…。あの国は、宝石竜の鱗をも溶かす酸の研究をしている、という話を聞いたことがあります。何でも、アシッドスライムの酸や、鉱物から強い酸を製造する方法を研究しているとか。…我々は、パイルト共和国への警戒を強めておきます」

 と仰って下さった。


 今日の陛下との会談は、ここまでとなった。

 私とガーネットは、陛下の執務室から退室して、部屋の外で待っていた翠玉と、ガーネットの部屋に戻った。

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