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宝石竜と赤い瞳の王子  作者: 森谷玻乃
黄玉と翠玉
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 卵を眺めていると、お母さんが帰ってきた。

『もう起きていたの?おはよう』

『おはよう。お母さん、どこに行っていたの?』

『人間の町に行って、情報を集めるついでに食べ物を買ってきたの。食べ物は森で採ってもいいのだけど、人間が作る料理は美味しいから、たまに買ってきているの。あなたが食べられそうな物も買ってきたわ。朝ごはんにしましょう』

 お母さんが私に、と買ってきたのは麦のおかゆだった。上にフルーツがのっていて、おかゆ自体にも甘い味付けがしてあって美味しかった。


 朝ごはんを食べ終わり、落ち着いたときを見計らい、転生者であることを話すことにした。

『お母さん、話しておきたいことがあるの』

『なあに?いきなり改まって』

『私…、前世は人間だったの。昨日、卵の中で目が覚める前、私は別の世界の人間で、ベッドに入って眠ったのは覚えてる。でも、自分でもいつ、なぜ死んで、この世界に生まれ変わったのかはわからないの。だから、自分が死んでこの世界に転生したことがわかったのは、自分のステータスを見て、称号に転生者があったからなの』


 私の説明を聞いて、お母さんは少し悩んでから、質問してきた。

『この世界と別の世界からあなたは生まれ変わったの?なぜ、こことは違う世界から自分は来た、と思ったの?』

『前の世界では、ステータスなんて見れなかったし、念話なんてスキルもなかった。そして、魔法や魔力も無かった。だから、ここは今までいた世界とは違う世界だと思ったの』

『そう…。あなたは、一度死んで私の娘として生まれ変わってきてくれたのね。覚えてなくても、死ぬということはとても辛いことよ。とても痛くて苦しいことなの。私も一度死にかけたとき、痛くて苦しかった。どのような死因であろうと、その苦しみは変わらないと思うの。辛かったわね』

『私、たとえ苦しかったのだとしても、それを覚えていないよ?』

『覚えていなくとも、あなたが苦しい思いをしたことは変わりない。そんな苦しい思いをしたのに、こうしてこの世界に、私の子として生まれてきてくれてありがとう』

 この言葉を聞いて、大泣きしてしまった。そして、その日は泣き疲れて眠ってしまった。


 翌朝、起きると隣にはお母さんが居た。

『おはよう。よく眠っていたわね』

『おはよう。昨日は、いきなり泣いた上、そのまま寝ちゃってごめんなさい』

『そんなこと、気にしなくていいのよ。泣くことは悪いことじゃないし、あなたは孵ったばかりなんだから、もっと眠っていてもおかしくないの。さて、まずは朝ごはんを食べましょう』


 朝食を摂った後、お母さんは、

『さて、今日は何をしようかしら?』

 と私に尋ねてきた。

『昨日、言いそびれたのだけど、転生者の称号があると、経験値が倍になったり、鑑定のスキルが使えたりするんだって』

『鑑定…。それは、何を鑑定できるの?』

 お母さんに、鑑定のスキルについての説明を読み上げた。


『物だけではなく、生物も鑑定できるの!?しかも、どういったスキルなのか、詳しい説明まで見える…。黄玉、このスキルは、物に対して使うのは構わない。むしろ、知るために使うべきよ。でもね、生物に対しては、無闇矢鱈と使ってはいけない。ステータスは、その者が親から受け継いだ物、それまで歩んできた人生、そうした情報の記録とも言える。とっても大切な情報なの。だからね、生物に対してはあまり使っては駄目よ』

『うん、分かった。あと、ごめんなさい。昨日、この洞窟の奥に、卵を見つけて、その卵に対して鑑定を使ったの』

『そう…。何て出たの?』

『宝石竜の卵で、卵の殻はとても硬く、孵化するときが来るまで、どんな衝撃が加えられてもヒビすら入らないって。あと、宝石竜は卵から孵るまでに、基本的には2〜3年、長ければ5年くらい掛かるって』

『ステータスなどは出なかったのね?』

『うん』

『卵は物としての説明だったみたいね。私の事は鑑定した?』

『ううん、してない。自分のステータスやスキルの説明を見てて、こんな情報、簡単に知っていいことじゃないって思ったから』

『そう…偉いわ、ちゃんと判断できて。これからも、生物へはできるだけ鑑定は使っちゃ駄目よ?』

『分かった』


 どうやらステータスは、とても重要な個人情報のようだ。この後、自分のステータスも安易に他人に教えてはいけない、と教えられた。


『それにしても、物を鑑定するスキルがあることは知っているけど、生物を鑑定して称号、スキルの詳細まで見れる鑑定なんて…聞いたこともないわ。もしかしたら、転生者だけが持つスキルなのかもしれないわね。他に私に訊きたいことはある?』

 昨日見つけた卵が、いつ孵るのか気になったから、訊いてみた。

『あの卵はいつ孵るの?』

『あの卵はね、あなたと同じときに私が産んだ卵なのだけど、まだ孵る気配が無いし、中にいる子もまだ小さい。私にもいつ孵るかはわからないけど、あと2〜3年くらいだと思うわ』


 宝石竜は卵から孵るまでの個体差が大きいようだ。

『私は、卵からどのくらいで孵ったの?』

『あなたはだいたい2年くらいよ。普通、孵化するまで2〜3年だから、あなたはその通りに孵ったの。特に早いわけではないわ』

『もう1つ聞きたいことがあるの』

『何かしら?』

『お父さんは、どこにいるの?宝石竜は人間と違って、母親だけが子育てをするの?』

『…宝石竜も、父と母が協力して子どもを育てるの。でもね、あなたのお父さんは…、…今から半年くらい前に死んでしまったの…』

『どうしてか、聞いてもいい?』

 その後、ところどころ言葉に詰まりながらも話してくれたことをまとめると、こうだった。


 半年前、両親はこことは別の国の森の中に居た。その森は深く、魔物も多く住んでいて、人間はあまり足を踏み入れないことから、子育てに丁度良かった。

 竜の姿を人間に見られないように、隠れながら生活していたが、突然、勇者に選ばれたという人間が森の奥まで入ってきた。

 その頃、その国では魔物が増え、更にこれまでよりも強い魔物が発見されたという報告も増えてきていた。

 魔物が増えたことで魔物同士が戦い、勝った方は経験値を得て強くなる。これにより、強い魔物が増えるようになっていた。そのため、冒険者達が思いもよらない強さの魔物に出くわし、怪我をしたり、亡くなったりするという被害も出始めていた。

 この被害を無くすため、国は勇者を数人選定しパーティーを組ませ、各地へ送っていた。

 そのうちの1組が、両親の住んでいた森へと来た。

 見つからないように、洞窟の中で他の魔物の姿に擬態して息を潜めていたが、そこに勇者のパーティーに襲われた魔物が逃げ込んで来た。

 逃げ込んできた魔物と共に、勇者たちを洞窟から追い出そうと戦っていたが、勇者のパーティーの1人に、卵が見つかってしまった。

 卵はカラフルで宝石のような見た目のため見つかりやすく、擬態の能力は他者に使うことができない。

 父が勇者たちと応戦しつつ逃げ、母が卵を2つ抱えて逃げた。父が盾になったことで母と卵は無事に逃げ切れたが、父はそこで命を落としてしまった。

 母は卵を抱えて隣国の森の中へ逃げ込み、現在住んでいる洞窟を見つけて、卵が孵るまでの住処とした。


 この話を語り終わった後に、卵を抱えていたこと、逃げ切ったことは、勇者たちにも知られているため、いずれ襲われる可能性があることを教えてくれた。


 『お父さんは、私達を守って死んじゃったんだね…。お母さん、つらい話をちゃんと教えてくれてありがとう』

『いいのよ。いつかはこの話をしなければいけないと思っていたから…。あなたには、強くなって欲しいの。いつか来るかも知れない勇者から身を守ったり、あなたの大事なものを守ったりできるように』

『わかった。私も強くなりたいし、知識も欲しい。お母さんや私の弟か妹になる卵を守るためにも』

『ありがとう。焦らなくて良いから、少しずつ学んで知識と力を増やしましょう』

 この日から、知識と力をできるだけ多く身につけるために、母との訓練が始まった。

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