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部屋に入って扉を閉めると、すぐにトマトの苗は此方に寄ってきた。
どうするのかな?と思って、レムリア先生と部屋に入ったところで、立ったまま観察していると、レムリア先生の足元でくるくる回って、次に私の足元でくるくる回って、私の目の前でぴょんぴょんと飛び跳ね始めた。
根っこを使って、器用に飛び跳ねている。
「あるじが、魔力をくれてたんだって、わかったみたいだぞー?あるじ、コイツと従魔契約するのかー?」
とルリタマが私に尋ねてきた。
「そうしたいけど、翠玉とガーネットと相談して、この子が従魔契約したいかどうかもちゃんと確かめないと」
「なら、翠玉とガーネット、呼んでくるぞー!レムリアー、良いかー?」
と、ルリタマがレムリア先生に尋ねた。
「ああ、構わないぞ」
とレムリア先生が言うと、ルリタマは、
「わかったぞー!……あるじ、扉、開けて欲しいなー」
と、部屋から飛び出して行こうとしたが、扉が重くてルリタマでは開けられなかったようで、私に頼んできた。
念話で私が呼べば、2人共来てくれると思うけど、まあルリタマが張り切っているから、おまかせしようかなと思いつつ、扉をルリタマが通れるくらいに開けると、勢い良く飛び出していった。
……途中で何かにぶつからなければ良いけど。
ずっと飛び跳ねていたトマトの苗は、疲れたのか、魔力が込められた水が入っている器の中に、自分で戻っていった。器の縁に腰掛けて、根っこだけを水に漬けている。
私はトマトの苗に近づいて、その場にしゃがんだ。
「はじめまして、挨拶が遅れてごめんなさい。私は黄玉というの」
と挨拶をすると、トマトの苗は、首を傾げるように茎を曲げて横に倒れたが、すぐにまっすぐに体勢を戻して、片手を上げるように、葉っぱを上に上げてくれた。
その様子を観察していると、翠玉とガーネットを連れて、ルリタマが戻ってきた。
「姉さん、ルリタマが“あるじが呼んでる”って、僕の背中に突撃してきたんだけど」
「中々勢いがついていたみたいで、ルリタマが跳ね返って吹っ飛んでいたが」
……やっぱりぶつかったか。
でも、ルリタマは軽いから、ぶつかると自分が跳ね飛ばされるんだな。
「ルリタマ、大丈夫?」
と私がルリタマに訊くと、
「大丈夫だぞー!こういうことは良くあるから、ぶつかっても跳ね飛ばされても大丈夫なように、ボク達はもっふもふなんだぞー!」
とふんぞり返られた。
ルリタマのもふもふは、衝撃吸収のためのもふもふらしい。
それはさておき、まずは翠玉とガーネットに、水と魔力で戻したトマトの苗を見せた。
「これが、あの干乾びてしわしわで茶色くなっていたトマトの苗?……本当に緑に戻って、しかも動いてるし」
「……また、随分と変わった生物だな」
と、翠玉もガーネットも驚いている。
「ルリタマによると、此方が攻撃したり、勝手に実や葉をとったりしなければ、攻撃してくることは無いそうだ」
と、レムリア先生が2人に説明してくれた。
翠玉とガーネットが落ち着いたところで、
「で、姉さん。僕達を呼んだってことは、あのへんてこな魔物と従魔契約したいってことかな?」
と翠玉が尋ねてきた。
「さすが、良くわかってるね。そうだよ」
と私が言うと、
「良いと思うよ。害は無さそうだし、何か、見ていると和むよね、あれ」
「……まあ、危険も無さそうだし、黄玉なら放り出したりしないだろうし、良いんじゃないか?」
と、2人はすぐに許可をくれた。
「翠玉、あれ、見ていて和むか?」
「何となく、鈍くさいというか、間抜けというか、そういう所が見ていて和まない?」
「う〜ん、わかるような、わからないような」
と、翠玉とガーネットが話している。
さっきからトマトの苗は、水の入った器の縁に腰掛けて、根を水に漬けているけど、私がそちらを見ると、葉っぱを揺らして手を振るような動きをする。
でも、それによりバランスを崩して、水の中に落ちそうになり、慌てて葉っぱで縁にしがみついている。
確かに、翠玉の言う通り、見ていて和むというか、気が抜ける。
私が翠玉の言葉に、うんうん、と頷いていると、
「黄玉もか。……って、重要なのは、あれの動きを見てどう思うかじゃなくて、従魔契約だろう」
と、ガーネットが我に返った。
気を取り直して、私はルリタマにも尋ねた。
「ルリタマ、私がこの子と従魔契約しても良い?」
「勿論だぞー!ボクが、センパイとして色々教えてやるんだぞー!」
と、ルリタマは気合いを入れている。
ルリタマからも許可を貰ったので、私はトマトの苗の傍に行って、
「私が、君と従魔契約をしても良いかな?」
と尋ねると、水の入った器の縁から降りて、私の目の前で葉っぱを掲げてぴょんぴょんと跳ね始めた。
「従魔契約してほしいみたいだぞー!」
とその様子を見たルリタマが言うので、私は従魔契約することに決めた。
まず、契約をする前に、名前を決めることにした。いつまでも、「トマトの苗」と呼ぶのは呼びづらい。
何て名前にしようか、と悩んでいると、
「変な植物だから、“へんなの”はどうだー?」
とルリタマが言った。
すると、トマトの苗は怒ったみたいで、ぺちぺちと葉っぱでルリタマを叩いている。
「いてててて、痛いぞー!オマエ、葉っぱでぺちぺち叩くなー!」
と、ルリタマも細い手で必死に対抗しようとしているが、ルリタマはステータスで攻撃が“G”な上、体重も軽いから、トマトの苗に叩かれて空中を行ったり来たりしている。
ルリタマは痛いと言いつつ、もふもふのおかげで大したダメージも無さそうだった。
私は、ルリタマとトキワの様子をしばらく眺めていたが、
「ねえ、君って、冬になっても動けるの?」
とトマトの苗に尋ねた。
普通、トマトは霜に当たると枯れてしまう。なので、いくら魔物化しているとはいえ、冬は元気が無くなったり、動けなくなったりするのかな、と気になった。
トマトの苗は、首を傾げるように、茎を曲げて体を傾けた。
すかさずルリタマが、
「コイツ、自分では冬に自分がどうなるか、わかんないみたいだぞー。魔力溜まりでは、冬になって、雪が降っても、コイツら青々とした葉っぱをぶんぶん振り回しながら、自由に動き回ってたぞ。多分、おんなじなんじゃないかー?」
と教えてくれた。
ずっと緑のままなのか。じゃあ、名前はトキワでどうだろう?
「ねえねえ、君の名前、トキワはどうかな?」
とトマトの苗に尋ねると、少し考えてから、その場でぴょんぴょん跳ね始めた。
「喜んでるぞー!気に入ったみたいだな!」
とルリタマが言うので、名前は“トキワ”に決定した。
「黄玉、トキワとはどういう意味なんだ?」
と、見守っていたレムリア先生に尋ねられた。
「“トキワ”とは、一年中緑色で、色を変えないことを意味しているの」
と私が答えると、
「そうか。ならば、確かにピッタリの名前だな」
と、レムリア先生は頷いた。
名前が決まったので、従魔契約をする。
契約をするには、元の姿に戻らなければならないので、まずは外にあるレムリア先生の魔法の実験場に行った。
実験場に着いてすぐ、私は元の姿に戻り、トキワと従魔契約を始めようとした。
が、トキワは、私が元の姿に戻ると、固まって微動だにしなくなってしまったので、少し待っていると、
「あるじの姿に驚いただけで、もう大丈夫みたいだぞー」
とルリタマが言うので、トキワの方を見てみると、その場でぴょんぴょん跳ねていた。
なので、私はトキワに向かって、少し魔力を放出した。
すると、トキワも同じくらい魔力を出した。その魔力を私が受け取ると、トキワも私からの魔力を受け取ったようで、私から僅かに魔力が抜け出た感覚があった。
これで、従魔契約が完了した。
『従魔契約できたよ。トキワ、これからよろしくね』
と私が言うと、トキワはその場でお辞儀するように、体を此方に向かって倒した。
「随分と早く契約が終わったな。もう既に、トキワは黄玉の事を信頼しているようだ」
と、見守っていたレムリア先生が、感心した様子で言った。
「俺が黄玉と翠玉と契約したときも、掛かった時間は今と同じくらいでした」
とガーネットが言うと、
「ならば、契約する時点でガーネットは、黄玉と翠玉からかなり信頼されていた、ということだ。一般的に、魔物と従魔契約するときには、数分掛かると言われている。数秒で契約できたという例は、稀だな」
と先生が答えた。




