105
器に水が十分溜まったところで、魔力を込め始めた。
水の上に手をかざして、魔力を出していると、ゆっくりと水に魔力が入っていく。
しばらく続けていると、
「もういいぞー。トマトの苗の干物、放り込むぞー」
と言って、ルリタマが水の中に苗を入れた。
乾燥していて軽いから、ルリタマでも持ち上げられたようだ。
……トマトの苗の干物って、確かにそのとおりだけど、その言い方はちょっと…。
水に入れた苗は、特に変化は無い。
「このまま、1週間くらい漬けておくと、ちゃんと戻るぞー。でも、1日1回は魔力を足した方がいいぞ!どのくらい魔力を足せばいいかは、ボクが教えるぞー!」
とルリタマが言うので、この苗の管理は、ルリタマの指示に従いながらおこなうことにした。
隣で、黙って私とルリタマの行動を観察していたレムリア先生は、
「ルリタマは、こうした変わった植物を元に戻す方法までわかるのか。何故、知っているんだ?」
とルリタマに尋ねた。
「ボク達使い魔が住処にしている魔力溜まりは、水にも土にも植物にも、何にでも魔力があったんだー。ボクはそこで、ヒマすぎて、色々なものを観察していたんだ。そうやって、周りの水や土にどのくらい魔力が含まれていたかも、しっかり見て覚えた!だから、魔力溜まりにある水と、同じくらいの魔力量が込められた水を作れば、失敗せずに戻せると思ったんだー」
「見て覚えて再現できるなんて、凄いね!ルリタマのおかげで、魔石も作れるし、この植物も戻せるし、色々と助かっているよ」
と私が言うと、
「嬉しいなー!あるじの役に立っているの、とっても嬉しいぞ!それに、ボクは毎日、あるじから魔力も貰えて、あるじは色々なことをやるから、毎日楽しいぞ!最初はお腹が空いて後悔したけど、やっぱり住処の外に出て来て良かったー!」
と、ルリタマが空中でぴょんぴょん飛び跳ねている。
「確かに、ルリタマは凄いな。しかし、使い魔にとって魔力溜まりは、そんなに退屈な場所なのか?」
とレムリア先生がルリタマに尋ねた。
「退屈だぞー?特に何もやることもないし、魔力溜まりに居る魔物は普通の魔物より強いから、外から誰かが来ることもない。皆魔力をエネルギーにしていて、そこに居ればお腹が空かないから、争いも滅多にないぞ。それに、魔力が周りに多いと、魔法が安定しないみたいで、いくらしっかりイメージしても、思った通りの魔法にならないんだー。だから、なんにもなくて、つまんないんだぞー」
そうルリタマが答えると、
「魔力が周りに多いと、魔法が思った通りに使えないのか!それは初めて聞いたよ!思った通りの魔法にならないとは、具体的にどうなるんだ?」
と、レムリア先生は興奮して尋ねた。
「え、え〜と、魔力が周りにたくさんあるから、ちょっと水を出すつもりが、噴水ができちゃったり、土をちよっと掘るつもりが、大穴ができちゃったりするんだぞ」
「そうなのか!魔力が周りに多いと、魔法を使った結果がイメージよりもかなり大袈裟なことになるんだな!他に、他には何かないのか!?」
レムリア先生は、次から次へとルリタマに質問している。
しばらくルリタマは気圧されながらも質問に答えていたが、
「もういっぱい答えたぞ〜。ボクはもう戻るぞ〜」
と、疲れたらしく、気の抜けた声を上げ、私のマジックバッグに戻っていってしまった。
「……一気に色々と尋ねすぎたか。次からは、もう少しゆっくり質問するよう、努力しよう」
と、レムリア先生はルリタマが戻ったことで落ち着いたのか、ちょっと残念そうにしながら呟いた。
先生がルリタマに色々と尋ねている間に、日が傾いてきていた。
「今日は、ここまでにしよう。私の買ったスライムの核へ、黄玉に魔力を込めて貰おうと思っていたのだが、ルリタマが戻ってしまったからな。別の日の方が良いだろう」
とレムリア先生が言って、私は報酬を受け取った。
「先生、この水に漬けたトマトの苗は、ガーネットの部屋に持って帰った方が良いかな?」
と私が尋ねると、
「いや、この部屋に置いたままで構わない。学校が休みとなる闇の日だけ、自室に持って帰ると良い。リシアも、変わった植物を研究室に置いて帰ることはよくあるからな。部屋に鍵さえしっかり掛けておけば、置いて帰っても特に問題無い。勿論、私がしっかり部屋に鍵を掛けておく。心配しなくて良い」
と言われたので、先生の研究室に置いておくことにした。
助手の仕事が終わったので、私は翠玉とガーネットに、念話で仕事が終わったことを伝えた。
2人が来るまで、トマトの苗を眺めていたが、ふと、この苗が水と魔力で元の状態に戻ったら、従魔契約することになるのかな?と考えた。
このトマトの苗は魔物化しているから、魔物ということになる。戻す以上は、責任持って面倒を見るつもりだけど、これからのことを色々と考えると、従魔契約しておいた方が良いのかな?
もし、従魔契約するなら、従魔の証のアクセサリーが必要になるし、学校からの許可も必要になる。
私は、とりあえずレムリア先生と、ちょうど研究室に来た翠玉とガーネットに相談することにした。
「このトマトの苗を魔物に戻したら、私はこの子と、できれば従魔契約したいの。その場合、まあ、従魔の証は店に見に行って決めるとして、学校と城に何か申請した方が良いの?」
「そうだな、従魔とするなら、学校への申請は必要だ。確かこの辺りに、……あった!これが従魔を学校に連れてくるための申請書だ。1週間もあれば許可は出る。従魔契約しなかった場合は、取り消せば良い。こういうのは早めに出しておいた方が良いからな。今書いておいてくれ。私が出しておく」
とレムリア先生が申請書を出してくれたので、私は必要事項を記入した。
「従魔契約をした場合は、城に俺から手紙を出しておく。黄玉は特に気にしなくて良い」
とガーネットが言ってくれたので私は、お願いします、と頼んで、城への報告はガーネットに任せた。
学校への申請書を書き終えて、レムリア先生に渡してから、寮の食堂で夕食を摂り、部屋に戻った。
それから1週間、毎日授業後にレムリア先生の研究室に行って、トマトの苗を漬けている水に魔力を注いだ。
注ぐ量は、ルリタマが指示してくれるから、特に難しいことも無かった。
ほぼ毎日、リシア先生も様子を見に来たけど、
「う〜ん、茶色だった葉や茎が、少し緑になってきたような気がするけれど、あまり変わりは無いかしら?」
と、首を傾げながら観察していた。
私も毎日観察しているけど、乾燥して茶色だった葉や茎が、少しずつ色が緑になっているような気がするような……?と悩むくらいに、見た目の変化はあまり無い。
そして、1週間後。
いつものように、授業後にレムリア先生と共に研究室へ行き、扉に付いているガラス窓から部屋の中を覗くと、緑色の、変な生物が動いていた。
私とレムリア先生が顔を見合わせていると、
「おー!トマトの苗の干物、ちゃんと魔物に戻ってるー!」
と言いながら、ルリタマがマジックバッグから出てきた。
「ルリタマ、あれって特に危険は無いの?」
と私が尋ねると、
「ないぞー。アイツは魔力で相手を見分けているから、あるじが近づけば、近寄ってくるけど、特に何もしないぞー。アイツは、許可なく実や葉っぱを採っていく相手には容赦なく攻撃するけど、こっちが何もしなければ何もしてこないぞー。だから、危険はないぞー」
と言うので、私とレムリア先生は、扉を開けて研究室の中に入った。




