私(3)
ふと思う事がある。
死んだ浮気野郎達はどうなったのか。
みゆとか言う女も、良太君の彼女が浮気をしていたけいたとか言う男も。
条件はほぼ同じ。あの日の事故で死んだ。違うのは、あいつらが生き残ったそれぞれの相手の本命だったという事。
「だとしたらさ、本命になれなかった私達が悪いってわけ?」
「だとしたら殴る相手は神様の方だな」
「よし、行こう。今から一緒に」
「いやチャゲアスも殴りには行ってないからね、実際は」
「やーやー言ってる口だけ野郎だもんね、あいつら」
「ほんとに口が悪い」
「やー!」
「いや僕を殴るなよ」
そうだ。このくだらない流れで気付いた事だが、死人は死人を殴れる。
と言っても殴られた方に痛みもないし、殴った方も触覚が激烈に低く(鈍く?)なっててあまり感触らしい感触もない。ただ触れる事は出来る、それは間違いない確固たる事実だった。
死人のルールなんてものがあったとしたら、そんなもの全くまだまだ把握出来ていない。神様は何も教えてくれない。浮気されてた事はこんな意地悪な形で教えやがった癖に。
私達は本当に私達以外に関与出来なかった。
大通りで突っ立っていても、みんな私達の事を素通りしていった。
自分達が幽霊という存在だったとしたら、”現れ方”が良くないのだろうかと思い、人通りの少ない夜道やトンネルといった、いわゆる”出そう”な場所に行ってみた。でも何も変わらなかった。
え、じゃあ幽霊見えているとか言ってる奴らはなんだったの?
私達はこんなにはっきり存在しているのに、そうなったら幽霊なんて嘘じゃん。
……いや、待てよ。ひょっとしたら私達は、幽霊以下の存在なのかもしれない。
幽霊の方が、私達より見られる存在なのかもしれない。
彼らの方が生者と死者の境界線を越えられる存在なのかもしれない。
残念ながら私達はそうではなかった。私達にはその境界線を越える事も壊すことも叶わなかった。もしかしたら方法があるかもと思ったが、そんな事をして結局何になるわけでもないのでやめた。
「ここでも二番手ってわけか」
「うまい事言ってる場合か」
恋人でも二番手。死者でも二番手。やってらんねえ。
「私達ってそんなに二番手気質なのかね?」
「ここまで来るとそう思えてきて仕方がないよ」
「悲しい人生だねえ」
「もう死んでるけどね」
「うわ! 死んだ者にだけ許されるツッコミじゃん! 今度それ私が言わせてよ!」
「君って楽しいね」
「え、何?」
「二番手に置いて浮気するだなんて、彼の事を信じられないよ」
――ちょっと……何それー!
「ふん! ふん!」
「な、なんで殴るんだよ?」
「なんか! 分からんけど! なんとなく!」
「理由なき暴力ほど恐ろしいものはないよ」
しばらく私は良太君を殴り続けた。その度彼の顔がふにふにとへこんだ。
何故自分は死んだんだろう。
何故死んでなお生きたように良太君と過ごしているのだろう。
何故彼にだけ触れられるのだろう。
――おい神様、ほんとにどういうつもりだ。