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三文詩人の参拝記  作者: 萩原 學
出雲
6/13

出雲大社周辺 命主社

出雲大社のすぐ東に坐す命主社は、神皇産霊神かみむすびのかみを祀り、出雲郡の式内社「神魂伊能知奴志神社」に比定される古社。「かみむすびいのちぬしのやしろ」とルビを振るのは、出雲代々の呼び方だったのかどうか。

挿絵(By みてみん)

社殿は最近のもののようで、さして特徴はない。背後に控える「真名井遺跡」からは色々出てきたそうで、古の祭祀場だったか。

挿絵(By みてみん)

そのまた奥に何やら磐座らしきものが放置されており、そちらが元のような。

挿絵(By みてみん)

神皇産霊神の記事は少ない。日本書紀では、冒頭に一ヶ所、その名のみ。

古事記では、神產巢日之命は冒頭と、大穴牟遲神(大國主)が火傷を負って死亡した時にだけ出番がある。


是に八上比賣、八十神へいらまおすに「吾は、汝等の言聞かず。將に大穴牟遲神へ嫁さむ。」

故、ここに八十神怒り、大穴牟遲神殺さむとおぼし、共にはかりて、伯伎國ははきのくにの手間山が本に至り云はく

「赤猪此山に在り。故、和禮われ共に追ひ下さば、汝待ち取れ。若し待ち取らずば、必ずや將に汝殺さむ。」

云ひて、火をもて燒ける大石、猪に似せてまろばし落しき。爾に追ひ下し取る時、卽ち其の石燒けるにきて死にませり。

爾に其の御祖命(みおやのみこと)き患ひて天に參り上り、神產巢日之命に請ひたまふ時。乃ち活かしめるべく岐佐貝きさかひ比賣と蛤貝うむかひ比賣を遣はしたまふ。

爾に岐佐貝比賣、岐佐宜きさげ集めて、蛤貝比賣、待ち承けて、母乳汁と塗りしかば、麗はしき壯夫おとこと成りて出で遊ばす。


お縋りした御祖命に応えて、岐佐貝(赤貝とされる)比賣と蛤貝(蛤とされる)比賣を治癒士として派遣する神產巢日神は、2神の上司に見える。なお「岐佐」の字は原文と違うが、当サイトで使えず弾かれた。

貝殻を子削ぎ落として貝汁で練ったものを塗るのは、民間療法と伝えられるが、鯨油による火傷の湿潤療法が誤伝したかも。


マッコウクジラの脳油は、白濁した外観ゆえに sperm oil と呼ばれたが、良質な蝋を含み、特に精密機械の潤滑油として利用された他、ハンドクリームなど化粧品にもなり、万能薬とされた。今では火傷に効く軟膏は、石油化学製品のワセリンを基材とするけれど、やっぱり白い塗り薬。鯨油が採れない時の代用として、白い練り薬を用意したというのは、有りそうな話ではないか。


さて古事記の系図では、大穴牟遲神は天之冬衣神と刺國若比賣の子であるから、御祖命はそのいずれかであるが、神產巢日神の係累は不明。

対して出雲国風土記が記す神魂命は


加賀郷 郡家西北廿四里一百六十歩。佐太大神生れます所なり。御祖みおや神魂命かむたまのみこと御子、支佐加比比賣命きさかひめのみことくらき岩屋(かな)みことのりして、金弓以て射給ふ時、光の加加と明る也。故、加加と云ふ。〔神亀三年改字加賀。〕


生馬郷 郡家西北一十六里二百九歩。神魂命御子、八尋矛長依日子命やひろほこながよりひこのみことみことのりに、吾が御子の平明にいきどほらず、詔たまへり。故、生馬と云ふ。


法吉郷 郡家正西一十四里二百卅歩。神魂命御子、宇武賀比賣命うむがひめのみこと法吉鳥ほほきとりに化して飛び渡り、此處に静まり坐す。故、法吉と云ふ。


支佐加比比賣命、宇武賀比賣命の親とされている。神魂命は出雲に土着の神、国津神だったのではないか。風土記は古事記・日本書紀より後に編纂されたから、記紀を参考にしたのは当然であるが。出来て直ぐに公開された日本書紀と異なり、古事記の存在が知られるのは近世であったから、古事記を参照したとしか思えない記事が載る出雲国風土記は、皇室に近い人が書いたものではないか。

ただ、神魂命と神皇産霊神を無条件に同一視するのは、やや乱暴かもしれない。神魂命の神名は明らかに、大国魂命に対比したもので、大国魂をオオナムチとは読まない以上、神魂命はカムタマノミコトとか、シンプルに読むべきであろう。とはいえ「皇産霊みむすび」を付けて高皇産霊神と並び立つようにしたのも、それなりの政治的配慮があっての事だろうから、記紀の文脈で語るには神皇産霊神とするのが都合いいのだろう。出雲では神皇産霊神とは言わないし、高木神も見当たらないので、そこは注意しなければならないが。

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