7. 死にたがりの少年
誰が俺を必要とするのだ。
誰も必要だとは思わないさ。
俺を必要としてくれる唯一の存在すら失った。
ああ、俺もそこへ行けないだろうか。
そこは、きっと息苦しさなんて感じないんだろう。
俺の価値を、誰か証明してくれ。
分からないんだ、ずっと。
あいつが消えた日から。
俺は、ずっと。
死に場所を探して生きている。
「中西ー!」
声をかけてきたのは、クラスの中でも明るい男だ。
俺だって知っている。
……知らない、筈がない。
「ごめん! 今日の宿題写させてー!」
「別に、いいけど……」
「まじ!?サンキュー!」
俺だって知っている。
この男が過去何をしてきたのかも。
「お前……もう、やめたのか」
俺の一言に、男は一瞬で笑顔を固めた。
表情が強張って行く。
俺の予想が正しければ、この男は全く変わっていない。俺が証明してやる。
鋭い目つきで男を睨むと、男はゴクリと唾を飲み込んで、「やめた」と呟くように言った。
「もう、やめたんだ。本当に反省している。お前にも、申し訳なかったと思っている。だから、あの事は、もう掘り返さないでくれ。頼むから……」
絞り出すような声で言った男は、何かから逃れるように目を背けた。
恐怖に、震えているようにも見えた。
男が逃げるように去って行き、次に現れたのは燻んだ目をした男だった。
こいつも、俺は知っている。
確か、霊感に似た能力がある奴だ。
あまり正確には覚えていないが……。
先程の男の、友人だ。
いや、恩人、と呼ぶべきかもしれない。
「あんた、あいつのことを疑っているのか?」
こいつは、何一つとして理解しちゃいない。
本当は、こいつでも良かったんだ。
あいつを、助けるのは。
「信じろと、言うのか?」
警戒の色を含んだ瞳で男を睨むが、男は無表情のまま続けた。
「信じるも何も、事実だ。あいつは変わった」
簡単に信じられるものか。
人間など、どうせ汚い。
「何、を、根拠に。“あいつ”は、俺の、親友だったんだ。返せよ」
少年は歯を食いしばって彼を睨んだ。
しかし、彼は何も言わない。
そのうち、ふっと笑いを漏らし、彼は言った。
「根拠ならあるさ。あいつの影は笑っている。もちろん、過去あいつがしたことは消えないさ。けど、今は。あいつはもう、充分苦しんだ筈なんだ」
彼はかすかに下を向いて続けた。
「僕が言うことでもないかもしれないが、もうあいつを許してやってはくれないか。きっとあいつは、あんたが責めなくとも、とっくに自分を責め切っている。あんただって、早く過去にした方がいいだろう」
なにを、偉そうに。“過去にする”だって?
ふざけるな。
少年の胸には明らかな殺意が湧き上がっていた。
歯を食いしばり、胸を押さえる。
彼がその場を去った後、ふと窓の外を見つめた。
そこにはモノクロの世界が広がっている。
“あいつ”と見た世界は、いつでも輝いて見えたのに。
「あいつは、もう戻らない」
騒がしい教室で、独り呟いた。
そして、先程まで少年の心を支配していた殺意は、そのまま自虐に変わる。
少年の正体は、死にたがり。
少年の時間は、唯一の親友を失ったあの日から、ずっと止まっている。