6. 影を視る少年
いつからか、僕等は何かを失ってしまった。
失った物は人それぞれ、思いやりという名の心。
助け合いという名の友情。
そして、本当の心。
彼等はなにを隠し、なんのために笑っているのだろうか。
人を傷つけることに、もはやなんの抵抗もなくなってしまった彼等に、人間の心など存在する筈がないのだ。
あぁ、無様だ。
どうせ、なにをどうやったって何処にも行けやしない。
自由になんて、なれないんだ。
少年は燻んだ瞳で彼等を見ていた。
彼等は学年で最もガラの悪い男の取り巻きであった。
1人のか弱いクラスメイトをいじめて、泣かせて、笑っている。
彼等にはもはや心などない。
彼等は、人間ではないのだ。
ふと目を背け、教室を後にしようとした時だった。
謎の黒い物体が、少年の目を引いた。
少年は驚いて振り返る。
少年は、見開いた瞳で、彼等を見ていた。
彼等の中にまじる、1人の男を見ていた。
いや、正確に言えば、その男の“影”を視ていた。
彼の後ろに立っている、黒い影を。
少年には、人間の“影”を視る能力があったのだ。
少年には、彼の心が手に取るように分かった。
彼は何も失ってなどいなかった。
彼の影が呟いた言葉は、酷く心を締め付けるものであった。
彼は面白おかしく笑っている。
その瞬間、垣間見える影が痛々しい。
少年が視た影。
それは、眩しく笑う彼の後ろで、顔を覆って泣き崩れる、彼自身の姿であった。