5. 0を知らない少年
“0を知らない少年”
そんなレッテルを貼られたのはいつからだったか。
まぁ、仕方のないことだ。俺は0を知らない。
0点を取ったことはもちろんないし、全てを完璧にこなしてきた。
そのため周りから変なものを見るような視線を向けられるが、そんなことは屁でもない。
俺は自分の価値観を尊重して生きていくと決めたのだ。
化け物、と怒鳴られようが、気味が悪い、と笑われようが、俺は自分にできることを精一杯こなしているだけなのだ。
「中西」
ある日、クラスではお馴染みの馬鹿男に声をかけられた。
鳥男、と呼ぶべきだろうか。
「俺たち、よく似ているんだと」
「なんだよ、それ。お前なんかと一緒にするな」
こんな頭のイカれた奴と、同じにされてたまるか。
「俺たちは、自分を信じすぎているんだ。自分には出来る、その一点張り」
そんなの、当たり前だ。
少年は頭に血が上って行くのを感じた。
「俺は、自分の力で立てる。俺は0を知らない。
なにもかも完璧にこなしてきた人間だ。お前みたいな馬鹿と同じにするな」
少年は鳥男を睨みつけた。
鳥男は、怯むことなく不気味に微笑んだ。
「いや、お前は0を知っている」
鳥男の笑みは自身に満ち溢れたものだった。
確信があるらしい。
少年は唇を噛んで黙ったままだった。
「お前の周りに、友人はいるか?
自分の実力を信じすぎて、他人を否定しているんだよ。
お前が知っている0は、友情だ。そういうところが、俺たちは似ていたんだよ。……前までは、な」
そう言い残して、鳥男は友人と共に教室から出て行った。
少年が知っていた0。
いや、見ないふりをしていた0。
それは、かつて学生には欠かせなかった筈の存在であった。