33. 出来損ないだった少年
何も出来ない子。醜い子。残念な子。
そう言われるのにも慣れていた。
自分でもそれは十分に自覚していたし、他人に言われるまでもなかった。
僕はバカだった。
出来損ないの少年だった。
あの頃は。
そのままで良いと思っていた。
好きなことがあって、大切な友人がいて。
勉強なんてできなくても良いと思っていた。
両親にはため息を吐かれた。
姉には暴言を吐かれた。
バカで、クズで。
きっと僕は、悩みなんてない、軽い存在だと見られていたのだろう。
僕はストレスの吐きどころだった。
僕になら何をしてもいいというような、そんな雰囲気がどこにいたって漂っていた。
それでも僕はそれで良かった。
それを超えるものを持っていた。
一日中、音の世界にいた。
幼い頃祖父母が買い与えてくれたギターを、毎日のように弾いていた。
友人は僕の音楽を好きだと言ってくれた。
それだけで、満たされていた。
「どんなにバカだって、1人の人間なんだからさ。傷付かない訳がないんだよ」
今までの人生を、特に欲もなく、平凡に生きてきた。
そんな中で、初めてだった。
“やりたい”と思うことに出会えたのは。
“有名になりたい”なんて言わない。
僕のように、息苦しい生活を送る“出来損ない”達に。
また、それを見下す者に。
誰かに届けば、それでいいや。
出来損ないの少年は、歌を歌った。
叫ぶように、時には怒りを、時には優しさを、時には悲しみを、喉が裂けるほど歌った。
やがて少年の存在は世間に知れ渡り、少年は輝く舞台に足を踏み入れた。
「僕は出来損ないの人間だった。本当に、何も出来ない奴だった。けれど今、僕はここに立っている。それだけが、僕がこの世に生まれてきた意味なのだと思う」
かつて出来損ないだった青年は、世界に証明するかのように歌い続ける。
出来損ないにだって、心は有ると。
出来損ないだって、どんな人間にだってなれるんだと。