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少年達  作者: 南波 晴夏
32/33

32. 感情を殺す少年

優しい人。


笑顔は絶やさず、いつも人々の中心にいる。

それでいて人を見下したりはしない。

誰のことも貶しはしない。


誰であろうと救いの手を差伸べることを躊躇しない。全てを許し、全てを受け入れる。

誰に対しても平等である。


決して刃向かったりはしない。

よって人々から厚い信頼を得る。


人は俺を“優しい人”と言った。


そうなれるように努力した。

ここまでの道のりは決して楽な道ではなかった。


いつからだろう。

毒を吐く自分を、この口を、その心を、許せなくなった。

俺に近付けば近付くほど傷を負う。

大切な人はいつも俺の近くにいる。

大切な人ほど、傷つけてしまう。


“変わらなければ”と思った。

このままではダメだ。

こんな自分では悪人だ。

俺は、“酷い人”だ。“優しい人”にならなくては。


俺が言う言葉は。俺が思う感情は。

どう考えたって“優しい人”のものではなかった。

だから俺は、“優しい人”になるために、“酷い人”である俺の、自分の感情を殺した。


それは決して苦しい事ではなかったが、簡単な事ではなかった。

10年以上の年月の中で染み付いた感情は、なかなか手強く、簡単に離れてはくれなかった。


日常の会話の中、ふと気を抜いた一瞬で、簡単に“それ”は戻って来る。

“酷い人”の感覚が、簡単に戻って来る。

自分の中から完全に消し去ることは、とても難しかった。


俺は“優しい人”でありたかった。

“酷い人”である自分が嫌いだった。


どうして、“思いたい事”と実際に“思うこと”は違うのだろう。


感情を、消せたなら良い。

意識せずとも、自分にとっての善をそのまま口に出せるように。




数年後、少年は遂に“優しい人”になった。


“酷い人”であると嫌った自らの感情は、完全に消すことはできなかったが、ふと口にしてしまうようなことはなくなった。


少年は感情を殺すことに成功した。

“酷い人”であった頃の自分を知らない高校へ進学し、根からの“優しい人”になった。


少年は心から喜びを感じていた。

大切な人を傷付けないために。

“酷い人”だと、嫌われないように。


“優しい人”になるために。


少年は、感情を殺し続ける。

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