表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
少年達  作者: 南波 晴夏
31/33

31. 影を忘れた少年

いつからか、“それ”を見ることはなくなっていた。


“それ”に関しての記憶も、どこか遠く、薄れている。

……けれど、何をしたって忘れない。


人を苦しめる人の苦しみ。

彼はずっとそれに耐え続けてきた。


「許されることじゃないと思っている。忘れていいことじゃないと分かっている」


彼はそう言った。

彼は、許されることのない罪を、人生をかけて償い続ける。


当時中学生だった僕等は、取り返しのつかないことをした。

死んでしまった少年が、何を思って空を飛んだのか、僕にはまだわからない。


僕は。

僕の犯した罪はなんだろう。


あの少年が死んで数年が経ち、愚かな僕はやっと気がついた。


あれは、彼等だけのせいではない。

少年が苦しんでいる時、僕は何をした?


それこそ、高校の時彼の友人が言ったように、なぜ助けなかった?

少年の涙を知っていながら、なぜ助けなかった?


もちろん、問題を解決するには当事者である彼等が行動を起こさなくてはならない。


でも、当時第三者であった僕にも、一時的に少年を守ることはできたはずだ。


知っていたのに。

蹲って攻撃に耐える少年の影が、もはや涙すら流していなかったことを。

早くしなければ手遅れになってしまうということを。


薄々勘付いていたのに。

今更何をしたって意味がない。

もう遅い。後悔は償えない。時は戻らない。


……ならば。

僕は、もう二度と同じ過ちを繰り返さない。


見逃さない。何もかも全部。

一から防いで見せる。



青年は自らの少年時代を呪った。

人の命、そして心の重さを知った。


青年は両手を合わせて眠り続ける少年に誓った。

もう二度と、君と同じ苦しみで死ぬ少年を増やさない。


影を忘れた青年は今日も生徒の心に寄り添い続ける。

彼の影も、少年の影も、青年の影も、皆痛々しい姿をしていた。


影を視る力を失っても、青年には少年達の心を見抜く力がある。少年達を救う術を持っている。


全ての影が消えたあの日から。


青年は、影の存在を忘れていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ