29. 落とされる少年
ぐるぐると目が回っている。
自分が回っているのか、周りが回っているのかすらわからない。
まるで洗濯機の中にいるみたいだ。
闇の中に、言葉と人影が交互に現れる。
息が乱れる。
あぁ、まただ。
気づくと僕はここにいる。
ここから抜け出すことはできない。
自分で自分を抑えられない程深く、力強い闇に吸い込まれる。
もはや諦めにも似た感情が胸に広がる。
もうどうでも良いや。
そんな考えが脳裏を掠めた刹那、再び強い力が僕を闇の中へ突き落とす。
『ゴンッ』
にぶい音があたりに響く。
同時に視界は開け、周りは明るくなる。
激しい動悸と額の痛みに顔をしかめる。
白く、靄のかかったようにぼうっとした頭のまま瞬きをする。
やがて聞こえてきた小さな笑い声に、少年は顔を上げた。
そこは5限の授業が始まっている教室だった。
周りの生徒は面白おかしく笑っている。
「中西ー。お腹いっぱいで眠いだろうけどもう少し頑張ろうなー」
ニヤニヤしながらそう言った教師に、少年はやっと状況を理解して激しく赤面する。
生徒たちは相変わらず笑っている。
少年の頬は、先程机にぶつけて赤くなった額以上に赤く、熱く赤面していた。