26. 影を悔やむ少年
いつか、誰かが言っていた。
それは消えることのない痛みだと。
決して許されることのない罪だと。
死ぬまで、その苦しみから逃れることはできないと。
本当にその通りだと思った。
あれから4年経った今でも、痛々しい程に残っている。
彼は怒りに震えていた。
「なぜだ? なぜお前は助けなかった?」
大方、あの頃の夢でも見たんだろう。
彼は我を失った獣のような瞳で僕を睨んでいた。
「お前には、影が視えていたんだろ。あいつの、本心が、視えていたんだろ。そうならどうして、あいつを助けなかった。どうして、あいつを、見殺しにした。他人事のように、人を通じて、あいつを救おうと、した。そんなのは、救いじゃない。
なぜだ。なぜ、1番に気づいたお前が、助けようとしなかった。
偉そうに、物を言うな。お前が、殺したと言っても、嘘にはならないんだぞ。
なぜ、だ。なぜだ。なぜだ。なぜ……っ」
彼の指が肩に食い込む。僕は黙ったままでいた。
「なぜ、俺は、あいつの変化に気づいてやれなかった?」
彼の瞳が揺らぐ。
血走った瞳の淵に涙が溜まって行く。
「なぜ、俺には影が、視えない? なぜお前が、その力を、持っている。俺が、その力を持っていたなら、あいつの、本心を、真っ先に見抜いて、俺が、あいつを…っ」
彼は力なくこうべを垂れる。
「救って、やれたのに」
誰もいない教室で、彼は涙を流し続ける。
彼の影も泣いていた。
肩に置かれた手は熱く、力強かった。
僕は何も言わなかった。
何も言えなかった。
今彼が言ったことは全て事実であり、許されることのない僕の罪だった。
「お前でもよかったんだ」
いつかの彼の言葉が脳裏をよぎる。
僕でもよかった。あの日、あの少年を助けるのは。
僕があの時助けていれば何かが変わっていた。
今更過ぎたことをどうこう言っても何も起こらない。
あの少年にも届かない。
それでも、考えないわけにはいかなかった。
あの日。
僕が少年を救っていたなら。
彼に影を視る能力があったなら。
少年をいじめていた奴らが、それを辞めていたなら。
少年は、今も変わらず、生きていたのだろうか。
果てのない後悔と苦しみ。
消えることのない僕等の罪。
絶対に忘れてはならない過去。
少年は、嗚咽を漏らし続ける彼の背に優しく手を置いた。
許されることのない罪を犯してしまったこと。
少年達は、いつまでも抱え続ける。




