24. 思い出す少年
そうだ。
俺は、忘れていた。救われていた。
彼に。俺はずっと、救われていた。
海沿いを歩いたあの日から。
彼に出会えたその時から。
俺は、もうすでに幸せだったのかもしれない。
「生きる意味を、見つけるために生きて行く」
「この世界は、愛で溢れている」
そんな綺麗事ばかり信じているお前らなんかに、なにがわかる。
ずっと自分は高貴な存在だと信じてきた。
他の人間とは違う、俺は特別だとどこかで思い込んでいた。
けれど違った。
死にたい。消えたい。
そんな言葉も異常じゃなかった。
みんな同じだった。
それに気づかせてくれたのは他の誰でもない、彼だった。大切だった。
わかってる。彼が夏を嫌った理由も。
その陽炎の中に探してしまう人影も。
「辛くない。苦しくない。俺は、恵まれているから」
彼は唇を噛み締めてそう言った。
あの夏の日。
彼は俺を軽蔑しただろうか。
夜の海に飛び込もうとした少年を助けなかったこと。
止めなかったこと。
見殺しにしようとしたこと。
……同じことだろう。
青と赤の違いだけだ。
彼の両親が陽炎に飲まれて死んだのと同じだ。
あの時の少年がたまたま死ななかっただけで。
……でも。
「俺は、お前がいるから生きられる」
そう。お互いがお互いの生きる意味。
そんな関係を、築けたなら。
俺はもう。
「××××」
死にたかったことを、忘れていた。




