23. 完璧な少年
学校生活は充実していた。
なにひとつ不自由なことはない。
言ってしまえば、俺は完璧な人間なのだ。
正直、俺のどこが劣っているのかわからない。
歳を重ねるにつれ、俺は他者との違いを実感して行った。
学年1の学力、学年1の運動神経。
俺はなんでも一番だった。“できない”人間の心が理解できなかった。
人望も厚く、恋人も今までに何人できたか数えきれないくらいだ。
「運動ができない奴の神経がわからねぇよ。早く走りたいなら早く走れば良い。高く飛びたいなら高く飛べば良い。それが“できない”なんて理解できねぇ」
「勉強ができないなんて笑わせるなよ。あんなのただの文字じゃねぇか。覚えれば良いだけなんだよ。それを”わからない“なんてありえねぇ」
少年は事実を言っただけだった。
本心を語っただけだった。
やがて少しずつ人影がなくなり、少年は独りになって行った。
少年は頭が良かった。少年は完璧だった。
「わからねぇよ」
少年は自分のことを完璧だと思っていた。
高貴な存在だと信じていた。
少年にとっての完璧は、人々にとっての怪物だった。
少年は何が悪いのかわからなかった。
どうして人々が離れて行ったのか理解できなかった。
「わからねぇよ」
少年は生まれて初めて”わからない”ということを理解した。
”できない”ことを自覚した。
少年は頭が良かった。
何をやっても一番だった。
少年には理解できないことなんてなかった。
ない筈だった。
初めて”わからない”を体験した少年は、乱れる息を必死で整えながら、どうしたら良いのかすら”わからない”ままでいた。