19. 夏を愛す少年
僕は夏を愛していた。
理由なんてものはいちいち考えてなどいないが、僕は夏が好きだった。
汚い心を明るく照らして、薄汚れた欲望を透過する。夏は、人間にとって欠かせないものだと思った。
ある時、クラスメイトの一人が僕に言った。
「君って、変だよね」
彼女の言ったことの意味が、僕には理解できなかった。
僕はどこかおかしいだろうか?
彼女は、おもしろおかしく笑っていた。
そして。
数えきれない程の幸せを、彼女と過ごした。
どんなつまらない日でも、彼女といるだけで楽しくなった。
彼女に出会って、僕の日常は変わって行った。
どんなことがあっても、彼女に会えばそれだけで沈んでいた気持ちが晴れた。
まるで、僕の大好きな夏みたいだ。
……そして、たった一夏の恋は、終わった。
彼女は、消えた。
僕といた夏の日を境に。
理由を探す者はいなかった。
理解しようとする者もいなかった。
彼女がいなくなったことの意味を、考えることすら回避していた。
夏が消えて、夏が死んで、夏がなくなって、夏を追いかけて、夏は逃げて、夏を忘れて、また、夏になる。
少年は夏を愛していた。
自身の汚い心を透過し、他人の悪意を青で塗り潰す。
少年は夏を探していた。
夏だけが大切なものだった。
夏さえいれば、生きられる気がした。
少年は、夏を愛していた。
忘れる筈などない、少年にとっての夏は、もう二度と訪れない。