18. 自殺願望の少年
俺はずっと、死にたくて死にたくて仕方がなかった。
死ぬ理由もなければ、生きる理由もない。
そんな人生に、価値などないと気がついたのだ。
ある日、夜遅くに出かけたことがあった。
暇だったのだ。
外の空気でも吸おうと思った。
ただ海を見て、今日も死ぬことばかり考えている。
人間の生きる意味は、なんだ。
ただ淡々と、ひたすらにつまらない人生を歩んで行く。
そんなの、苦しいだけじゃあないか。
……そして今、その人生を終わらせようとしている者がいる。
どうしてだろう、足が動かなかった。
助けなければ、と思わなかった。
俺は、どうかしている。
どうかしてしまっている。
「……助けちゃ、ダメだ」
彼は、驚いたような顔をした。
「止めちゃ、ダメなんだ……!」
俺は、なんてことをしたのだ。
もしあの時少年が死んでいたら、俺だけじゃなく、彼にも責任を負わせることになっただろうに。
俺は、無責任だ。いつも。
「どうして、止めちゃいけないと思ったんだ?」
海沿いを歩きながら、彼が不思議そうに問いた。
そんなの、決まっている。
……暗い海。黒い夢。
たった一つの、薄汚れた希望。
……ずっと、死にたいと思ってたんだ。
自由になりたいと思ってたんだ。
あの時自殺しようとした少年の姿が、一瞬、自分と重なった。
死なせてくれ。
そのまま、死なせてやってくれ。
そんなことを思った。
“傷”ひとつ持っていない自分に、そんなことを言う権利はないと知りながら。
死にたかったんだよ。
助けなんていらなかったんだよ。
どうして。
そんな、不思議そうな目をするんだよ。
「……自殺願望が、強いんだよ」
少年はただ黒く深い海を見つめて呟いた。
彼は理解できないという風に首を傾げる。
気付くと少年は、いつもの海を黒く死んだような瞳で見つめていた。
……自虐的に微笑み、ポツリと呟く。
「……死にたいんだよ」




