17. 海を歩く少年
暗い海沿いを、ただひたすらに歩いている。
俺は夏なんて嫌いだった。
遊びに誘う友人もいなければ、買い物に誘う両親もいなかった。
俺は生まれて間もなく捨てられた捨て子だった。
生きる意味なんて分からないまま、ただのうのうと生きてきた。
けれど死にたいかと言われれば、そうではなかった。
ふと、すぐそばの岩場に一人の少年が立っていることに気がついた。少年は怖いくらいの無表情で、ただ深い海を見下ろしている。
……嫌な予感がする。
そう思った途端、少年は深く暗い海に身を投げた。
俺は驚き、慌てて駆け寄って自らも海に飛び込もうとした。
その瞬間、パシッと何者かに腕を掴まれた。
驚いて振り返ると、そこには見知らぬ少年が、酷く強張った表情で立っていた。
「……助けちゃ、ダメだ」
震える唇を動かして、彼はかすかに呟いた。
「止めちゃ、ダメなんだ……!」
……翌日、幸いにも自殺を図った少年は救出され、あまり大きなニュースにもならずに済んでいた。
「ごめん」
彼は言った。
「俺、どうかしてるみたいだ」
少年には彼が何を言っているのか分からなかった。
そして少年に両親がいないことを話すと、彼はまた何かを悔しがるように唇を噛んだ。
「ごめん」
少年には彼の謝る意味がわからなかった。
少年は海を歩いていた。
あの日からたった一人の友人となった彼と。
……少年は一つ、どうしても気がかりなことがあった。
彼と海沿いを歩きながら話をする合間、彼はふとあの岩場に目を向けて、あの時自殺を図った少年と同じような目をするのだった。




