16. 詩を描く少年
僕は昔から詩を描くのが好きだった。
世の中の美しいものを書き遺す。
そんな思いで詩を描いた。
毎日、毎日、同じような詩を描いた。
外へ出ては詩になるような材料を探し、旅行に行ってはその風景の詩ばかり描いていた。
そんな僕に、無論友人なんていなかった。
ただ、僕には詩を描くことしか出来なかった。
詩を描くことだけが、僕の生きる意味だ。
そう、本気で思っていた。
……ある日、共に住んでいた祖父が亡くなった。
自然なことだった。
まるで眠るように亡くなった。
苦しむ様子もなく、満足したように眠っていた。
祖父は有名な詩人だった。
……少年は今日も詩を描いた。
初めて、人間に関することを描いた。
葬式で会った祖父の編集者が、少年の詩を読み、雑誌に載せた。
少年の作品は瞬く間に広まり、あっという間に少年は世に知られる存在となった。
……その詩は、亡くなった祖父についての詩だった。
多くの出版社から依頼が来た。
しかし少年は、その頃にはとっくに詩を描かなくなっていた。
「人間に情なんてあるものか」
少年の口癖に、祖父は笑った。
「人間程、情のある生き物はいない」
価値観の違いだったのだろう。
少年は自分が人間に興味を持ったことに腹が立った。
人間なんて汚いと、そう思っていたくせに、あの日指が勝手に動いていた。
少年は詩を描いていた。
詩を描くことだけが生きる意味だった。
でも、違った。
少年が本当は描きたかったもの。
詩に映し出したかったもの。
少年は、身内の死から学び、それを踏み台にして、どこまででも伸びて行く。
自分がこの先何を描き、何を遺したいのかを、探すために。