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少年達  作者: 南波 晴夏
15/33

15. 空を仰ぐ少年

快晴の空。懐かしい色が瞼に浮かぶ。

雲など一つもない空を見上げて、ただひたすらに、考えていた。


ほら、あそこ。

あそこの木の陰から飛び立った鳥のように。

大空に羽搏いて、飛んでみたいって。


自分でも、バカな夢だということくらい分かっていた。

でも、憧れていたんだ。

それはある日、祖母から教えられたことだった。


「健吾、貴方のお父さんとお母さんはね、あの鳥さんに乗って、お空へ行ったのよ。雲の上で、きっといつでも、貴方を見守っているわ」


愛おしそうに目を細めて空を見上げた祖母の横顔を、今でもしっかりと覚えている。

そんな祖母は、昨年亡くなった。


結構、長生きだったな。

そんなことを思い、墓の前で手を合わせる。


……お疲れ様。今までありがとう。


静かに微笑んで目を開けると、遠くから誰かの呼ぶ声がした。


「健吾さん!」


その声も、姿も、たまらなく愛しい。

俺は一昨年、結婚した。


……だからかもしれない。

きっと祖母は安心して、気が抜けたんだろう。

俺はそっと微笑んで、妻の元へ歩いて行った。


「あ、鳥」


妻の小さな声に目を向けると、すぐそこで可愛らしい鳥が羽を休めていた。

やがて鳥は 、人間の存在に気がついたのか、慌てて飛び去って行った。


「あの鳥に、おばあ様は乗っていたかしら」


そっと微笑んだ妻の言葉に、俺は小さく笑って空を見上げた。


「きっと、な」


俺も、いつか会いに行くから。

そう心に誓い、妻の手を取った。


「帰ろうか」


優しく微笑みかけると、妻は「はい」と照れ臭そうに返事をして笑った。


あぁ、俺は幸せ者だ。

きっと俺は、鳥になりたかったんじゃなかったんだ。父さんと母さんのところに行きたかったんだ。


幸せなところに行きたかった。

幸せになりたかった。


でも、もうそんなものはいらないよ。

俺は自分の手で幸せを掴み取ったんだ。



少年は……かつて少年だった青年は、幸せそうに目を細めて空を仰いだ。


そんな彼の隣で、同じく幸せそうに微笑んでいた存在を、彼は一生大切に生きて行くだろう。

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