11. 天道を行く少年
愛しい人よ。
貴方は僕を怖がらない。気持ち悪がりもしない。
そんな貴方に、僕は恋をしているのだ。
誰もが僕から逃げて行く。
子供には比較的好かれるが、中学や高校に上がった女子なんかは皆逃げて行く。
けれど彼女は、僕を可愛いと言ってくれた。
触れてくれた。それだけで嬉しかったのだ。
それから僕は、晴れの日には必ず彼女の元へ会いに行った。
会いに行くたび、彼女は「また来たの?」と笑って手を差し伸べてくれた。
その笑顔が、嬉しかったのだ。
「ちょっと、やめなよ。授業始まるよ?」
彼女は教室にいた友人に呼ばれて、「わかってるよぅ」と口を尖らせた。
僕は歩く。
彼女の作った道を歩く。
太陽の光を浴びる。道はそこで途切れている。
ここまできたら、さよならの合図だ。
僕は飛ばなくてはならない。
ところで、僕が好きになったのは人間の女の子だ。
「バイバイ、てんとう虫くん」
無邪気に笑った少女は、人差し指を天に掲げた。
少年は、指先から元気よく空へ飛び立つ。
少年の存在を、人間界では天道を行く虫として、“てんとうむし”と呼んでいるらしい。
まぁ、少年にとってはどうでも良いことだ。
少女は急いで窓を閉め、授業のチャイムに急かされるように席に着く。
少年は呑気に考えた。
僕はきっとまた、彼女に会いに行くだろう。
赤と黒で覆われた、独特の羽をなびかせて。