1. 周りを見ない少年
中西 健吾の物語
俺たちは囚われている。
俺たちは自由に飢えている。
ほんとは思い切りはしゃぎたくても、友人と予定が合う確率は極めて低い。
「俺今日塾だわー」
「夏休み? あー、すまん夏期講習だわ」
そんなことはすでに日常のこととなってしまった。
果たして、俺たちはどうすれば自由を手に入れることができるのだろう。
それは考えたって無駄なことだ。
夢を実現するためには行動するしかない。
さぁ、動くんだ! 立ち上がるんだ!
学生の自由を手に入れるために!
そして少年は立ち上がった。
力を込めて拳を掲げる。
しかし少年は周りを見ていなかった。
そう、現在自分がどこにいるのかも。
「こら中西! なに授業中に立ち上がっとんじゃ!
廊下に立ってろ!」
そうして頭の禿げた教師に怒鳴られ、少年はやっと辺りを見回した。
そこはシンと静まり返った授業中の教室であった。
少年は廊下へ放り出され、教師の得意技で壁へ縛られる。
教育という名の束縛で、少年は完全に自由を失った。
少年は背中に冷たい壁を感じながら、つくづく思った。
自由を手にするには、きちんと周りを見なくてはならない。
少年は信じていた。
周りを見さえすれば、今度こそ自由になれるのだと。
……しかし今回は、少年に周りを見るという能力がなかった。
ただ、それだけの話である。